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<ラグビー>ラグビーの愉しみ(その5)

SH(スクラムハーフ)
 私がチームで一番重要だと思っているのは、SOよりもSHだ。FWとBKをつなぐだけでなく、チーム全体のリズムやテンポ、さらに戦術や戦略を屈指するリーダー的なポジションだと思う。また、長短のキックによって、SOとともに地域を支配する他、FWに対してスクラムやモールの押す方向も指示する。ラックを含めた各ポイントからは、長短及び緩急をつけたピンポイントのパスでアタックを演出する。もちろん、オールブラックスのシド・ゴーイングやTJ・ペレナラのように、自らステップを切ってトライを取る能力も兼ね添えているので、単なるパスマシーンではない。


 一般的に身体が小さい人が、地面にあるボールを捌きやすいから適していると言われてきたが、一時期は、オールブラックスのジャスティン・マーシャルや南アフリカのユースト・ファンデルヴェストハイゼンのように、9人目のFWとして、強いフィジカルを武器にした選手もいた。しかし、理想は、今のオールブラックスのアーロン・スミスやTJ・ペレナラのような選手で、優れた戦術眼、高速パス、ピンポイントのキック、スピードあるランニングの全てを備えている選手である。かつてのような、フィジカルだけ強い選手はSHとしては三流だと思う。

SO(スタンドオフ、ヨーロッパではFHフライハーフ、南半球では、1stFEファーストファイブエースとも言う)
 ラグビーを良く知らない人でも、SOの選手のプレーは良く目立つので、スターと言われる選手がこのポジションだったりする。また、ゴールキッカーもSOが務めることが多いため、1人だけTVでアップになる場面も多く、必然的に目立ってしまう。


 もちろん、SHとともにHBハーフバックス団として、特にチームのアタックをリードするので、SOの優劣はそのまま勝敗に直結してしまう。実際、SOに人材を得ていないチームで強豪と呼べるチームは、FWが滅茶苦茶強い南アフリカやイングランドを除いて、まずいない。オールブラックスも、1990年代前半に苦戦していた時は、グラント・フォックスの後継者となるSOがおらず、1995年にアンドリュウ・マーテンズが出てきてから持ち直している。そして、カルロス・スペンサー、トニー・ブラウン、ダニエル・カーター、アーロン・クルーデン、ボーデン・バレット、リッチー・モウンガと次々と世界トップのSOを輩出することで、オールブラックスは最強となっている。


 SOは、昔はフォックスのようなパスマシーンであったり、イングランドのジョニー・ウィルキンソンのようにゴールキックやDGを決めていれば良い時代もあったが、今はSH同様に万能型でないと務まらない。さらに、アタックのターゲットにされやすいので、タックルの強さも必要だ。そういう観点からは、カーターは、かつてのウェールズのスターであった、バリー・ジョンやジョナサン・デイヴィス以上に優れた不世出のSOだったと思う。

CTB(シーティービー。センタースリークォーターバックス。12番と13番があり、右と左、インサイドとアウトサイド、第1と第2と呼ぶことがある他、南半球では、12番は2ndFEセカンドファイブエースとも言い、13番は単にセンターと呼ぶ)
 日本を含む北半球は、12番と13番を一緒にCTBとしているが、私はNZ式に12番と13番を分けて書きたい。実際、12番と13番では役割がちょっと違っている。

12番:
 これまでで史上最高の12番は、オールブラックスのマア・ノヌーだと思う。日本では、彼はフィジカルの強い単調な突破型の選手と決めつけられているが、これはノヌーのプレーを全く見ないで決めつけている馬鹿げた見方でしかない。ノヌーは、何よりもSOを助けるべく、アタックでもディフェンスでも周囲を良く見ている。そして、アタックの場合、SOからパスをもらった後、瞬時に判断して、長短・緩急をつけたパスで見事にディフェンスを切り裂く。もちろん、長短・ハイパント・ショートパント・グラバーといったキックの使い分けが上手いし、SO並みに優れたタッチキックもする。そうして、周囲のディフェンスが準備していると判断した場合、自らの優れたフィジカルを使って突破を計る。これは単にぶちかますだけではなく、細かいステップと一瞬の切れ味あるスピードで抜いていくから、フィニッシャーとしてのトライも量産している。


 このノヌーの姿こそ、理想的な12番CTBだと思う。

13番:
 そして、史上最高の13番は、オールブラックス及びハリケーンズでノヌーと長年名コンビを組んできたコンラッド・スミスだろう。スミスは、ノヌー同様に周囲が良く見える。また、リーダーシップのある人格者なので、チームに対するコミュニケーションが非常に優れている。
アタックの場合は、自分が囮になって確実にWTBやFBをフリーにするし、WTBやFBにディフェンスが来ている場合は、ステップとスピードでゲインラインを突破する。もちろん、ゴール前ならトライに結びつくランニングができる。


 さらに、スミスの最も優れているところはディフェンスだ。オールブラックスで最もタックルが上手い(強いのではなく、確実に倒すという意味での上手さ)を持っている。これは、自らが確実にタックルポイントに入るために、周囲のBKやFWとの連携(コミュニケーション)が素晴らしいため、スミスがタックルに入る際には、ボールキャリアーはフィジカルやスピードでスミスを抜こうとしても、それができない状態になっているからだ。
コンラッド・スミスこそ、近代ラグビーの理想的な13番CTBである。

WTB(ダブルティービー、ウィングスリークォーターバックス。11番と14番に分かれ、14番の方がFBに近い、キック処理を兼ねる選手が入り、11番はスピード系トライゲッターが多い)
 ここも11番と14番は同じように思えるが、やはり分けて書きたい。

11番:
 ジョナ・ロムー(オールブラックス)、デイヴィット・キャンピージ(ワラビーズ)そしてシェーン・ウィリアムス(ウェールズ)が理想的な11番と思う。3人に共通しているのは、スピードとスキル(ロムーはさらにフィジカルの強さ)に長け、1対1であれば確実に、また1対3ぐらいであってもほぼ確実に、ディフェンスを抜き去りトライを取り切る選手ということだ。


 今でこそ、WTBはFBとともにハイボール処理の役割が重要になってきたが、元々はディフェンスでは大外の守りをすること、アタックではトライを取り切ることがその役目だった。特に11番はそうした色彩が強いポジションだ。


 なお、現代ラグビーでは、片方のサイドだけプレーしているようなWTBは怠けていると見られるため、今は、逆サイドまでカバーするし、ラックやモールにも入るのが当然になっている。また、11番は右足でキックすることが多いため、右利きの選手はやりやすい。

14番:
 このポジションに合っていたと思うのは、オールブラックスのジェフ・ウィルソンとダグ・ハウレットだ。2人に共通するのは、もちろんスピードとスキルに長けた素晴らしいトライゲッターであるだけでなく、FBもできるハイボール処理とロングキックがあることだった。また、ハウレットはフィジカルもあったので、ディフェンスの際の安心感もあった。


 このように、14番は11番と違って、FBもできる選手が多くいる他、もともとFBだった選手が、FBに優れた選手を入れるために移動した場合も多くなっている。最近では、オールブラックスでジョルディ・バレットをFBに入れるために、ベン・スミスを14番にした例がある。

FB(フルバック)
 このポジションには才能あふれる選手が沢山いる。古くは、オールブラックスのジョージ・ネピアやドン・クラーク、最近のオールブラックスでは、クリスチャン・カレン、ベン・スミス、ジョルディ・バレット、ダミアン・マッケンジーだ。他国でも、ウェールズのJPR・ウィリアムズ、フランスのセルジュ・ブランコ、スコットランドのギャビン・ヘイスティングスなど多士済々だ。


 彼らに共通するのは、SOもできる戦術眼とパス、ラン、ハイボールキャッチ、ロングキックの全てに渡る優れたスキルだ。もちろん、スピードもあり、ディフェンスもタックルを抜かれることは稀にしかない強さをもっている。さらに、ゴールキックもする選手が多くいるのは、ロングキッカーが多いせいだろう。


 ディフェンスの時は最後の砦だが、アタックのときは自由に動けるので、チームとしては使い勝手が良い選手になる。特にマッケンジーのような爆発的なフレアーを発揮するタイプは、相手に与える威力はかなり大きくなると思う。

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