なぜリサイタルをするのか②

「発表の場だから」
一口に言ってしまうとあまりにも単純なので、「何を発表するか」で分けてみます。

①演奏
自分の演奏を存分に披露できる、最高の場だと思います。
以前書いた、選曲にも繋がりますが、作品を通して自分の持ち味を十分に出すことが、リサイタルでの成果だと考えています。
ただ、自分の演奏のスタンスとして、「自分自分している演奏」よりも「作品の素晴らしさを伝える演奏」を目指しているので、両方のバランスをうまく取ることを心がけています。
これは弱みでもあり強みでもあるのですが、僕はどんな様式の作品でもそれなりの演奏ができます。
悪い言い方をすれば、特に長けている分野がないとも言えます。
ショパン弾きとか、フランスものならこの人!とか、ロシアピアニズムの真髄とか、そういう二つ名は僕に付くことはまずないでしょう。
だからこそ、様々な時代、国、様式のものを組み合わせて演奏して、それぞれに合った表現をする、というスタイルをとっています。
これが自分の持ち味なのだと思います。

②作品
僕は、大学時代にホラーク先生に師事していたことがきっかけでチェコの作曲家の作品に出会い、そこから少しずつ興味が増していき、大学院修了後にプラハに留学しました。
そこでチェコの作品にたくさん触れ、自分のライフワークとしてチェコの作品を演奏していきたいと思うようになりました。
実際に、これまでのリサイタルのほとんどでチェコ作品をプログラムに取り上げています。
リサイタル以外でも弾いてきました。
勉強すればするほど、まだこんなに面白い作品があるのか!と驚き、ぜひもっと広まって欲しい!という気持ちが湧いてきます。
正直なところ、この気持ちはチェコの作品に限ったことではなく、良い作品はどんどん演奏されるべきだと思います。
なので、自分のリサイタルが、そのような作品に注目させるきっかけになれば、といつも願っています。

③文章
リサイタル当日に会場でお渡しするプログラム冊子には、作品の解説文を載せていますが、解説文は全て自分で書くようにしています。
他の専門の方にお願いするピアニストも多くいますが、やはり僕は文章まで責任を持ちたいし、演奏する本人が書くからこそ演奏にも意味が出てくるのではないか、と思うのです。
楽曲解説を書く時に注意しているのは、「誰に向けて書くか」です。
作品についての情報を盛り込むのはいくらでもできますが、一般の方に専門的な内容ではダメだし、音楽関係者に一般的な内容では物足りません。
リサイタルはその両方の方々が聴きに来てくださるので、どちらにとっても有益な情報が得られるような文章を書くことを意識しています。
言い回しについても、あまり専門的過ぎる表現は使わずに、分かりやすい表現に直しています。
残念ながら、この文章に関する苦労はほとんどの人が気付いていません。

いざ書いてみると、やはりリサイタルは自分にとって大きな意義を持つものなのだと改めて思います。
一回のリサイタルに必要な時間とお金と労力は相当なものですが、得られる知識と技術と経験も相当なものです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?