今回のプログラムについて⑧

「リストと対比」

大学生の時、それこそ「超絶技巧練習曲」を弾いた3年生の頃、先生がレッスンで語ってくれました。

リストの音楽にはいろんな面がある。
抒情的な面、民族的な面、宗教的な面、悪魔的な面。
それが作品によってどれが現れるかが異なるんだ、と。

その時演奏した「超絶技巧練習曲」第1、2、10番は、悪魔的な面が現れているので、それを表現することが求められました。
だからこそのシフラの音源だったのかもしれません。
個人的に一番好きな第11番「夕べの調べ」は、全く悪魔的ではないですが…

抒情的な面が現れているのは、例えば「愛の夢」や「慰め」などでしょうか。
民族的な面については、「ハンガリー狂詩曲」は間違いないでしょう。
宗教的な面は、「詩的で宗教的な調べ」や「伝説」など。

演奏する時の一つの解釈として、このような分類は面白いと思いました。
何となくリストの作品を一緒くたに考えてしまうよりは、曲によってどの側面を押し出すかを決めると表現も分かりやすくなると思います。

その中に技巧的な面が無いのは、ほとんど全ての作品が技巧的だからでしょう。
技巧を要求されるのは当然、ということですね…


さて、「伝説」は二人の聖人に関する逸話を音楽にしたもので、リストなりの信仰心の表現だと思います。
第2曲の「波の上を渡るパオラの聖フランチェスコ」の方が圧倒的に演奏頻度が高く、第1曲「小鳥たちに説教するアッシジの聖フランチェスコ」はちょっと忘れられがちです。
高校生や大学生も第2曲を弾くことはよくあります。
僕がこの曲を知ったきっかけも、大学の実技試験で誰かが弾いていたのを聴いたことでした。

この2曲を弾いていて思うのは、使う音域が対照的だということです。
第1曲で高音をたくさん使って、第2曲で低音をたくさん使うという、何とも単純な違いです。
演奏するにあたっては、聴く側にもはっきり分かるこの対比を利用しない手はないです。
それぞれの音色で弾くことがまずは必要かなと思います。
2曲続けて演奏することと、1曲を単独で演奏することの違いは、この対比が利用できるか否かです。

ステージでの持ち時間が長ければ長いほど、どのようなプログラムを組みどのような対比を見せるかという可能性は広がります。
時代も国も異なる様々な作品に、どのような特徴を見出せるかによって、解釈が変わります。
そして、その特徴を捉えることができたら、演奏でしっかりと表現する。
それが聞き手に伝わりやすい演奏になるのだ思います。

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