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【映画】今、最強のカタルシスを得られる映画は『シカゴ7裁判』だ!

映画業界で最高の栄誉と呼ばれるアカデミー賞。次回2021年の第93回アカデミー賞は2021年2月1日に仮投票が開始され、授賞式は同年4月25日です。

コロナショックで全世界が大ダメージを受けましたが、映画界も例外ではありませんでした。2020年も残り約2ヶ月…こと日本においては3月中旬〜5月いっぱいまで映画館の休業も相次いだせいで、興業的に苦しかったことでしょう。そんな最中でも緊急事態宣言が解除されてから、公開する新作映画のない劇場は趣向を凝らして名画を公開してくれました。

6月に鑑賞した『タワーリング・インフェルノ』なんかは、1974年の作品でCGも使われていないパニックアクション。だからこそ劇場で鑑賞してこそのパニックアクションとして大迫力の連続で、極上の映画体験ができました。こちらもアカデミー賞で撮影賞と編集賞を受賞した大傑作です。

そこで今回紹介したいのは『シカゴ7裁判』です。2020年アカデミー賞では、アジア作品で初の作品賞と監督賞をW受賞した『パラサイト 半地下の家族』が話題になりましたが、Netflix製作・配信作品が多数ノミネート(『マリッジストーリー』のローラ・ダーンが助演女優賞受賞)されたことも印象に残りました。

アカデミー賞作品には『アイリッシュマン』『マリッジストーリー』と2作品がノミネート。それぞれNetflix配信作品ですが、作品の評価も高く、劇場公開もされて話題に。2週間限定公開の予定でしたが、集客も好調で年を明けても公開が継続されていました。

もともとアカデミー賞の参加条件として「劇場公開前にTVやインターネット配信などがされておらず、ロサンゼルス郡内の映画館で連続7日以上、最低1日に3回以上上映されている作品」がありますが、2021年に関しては配信サービスやオンデマンド配信のリリース作品でも対象となることになりました。

https://www.banger.jp/news/33365/

とはいえ気になるNetflixオリジナル作品。2021年ノミネート候補としてはどんな作品が挙げられるでしょうか。実は今年配信している作品でも良作は揃っていますが、昨年ほどの話題になる作品が出ていなかったのは事実です。

前置きが長くなりましたが、そこで皆様にご紹介したいのが『シカゴ7裁判』です。1968年のシカゴ民主党大会で巻き起こったデモで裁判にかけられた7人の被告人たち。実話をもとに構成された裁判劇で、一見地味に見えますが、これがたまらなくエンタメに富んでいるんです。めちゃくちゃ興奮します。

本作を監督したのは脚本家のアーロン・ソーキン。脚本担当作品で有名どころでいえばデビッド・フィンチャー監督の『ソーシャル・ネットワーク』がアカデミー賞脚色賞を受賞、ベネット・ミラー監督でブラッド・ピット主演の『マネーボール』もアカデミー賞で脚色賞にノミネートされました。初監督作品である『モリーズゲーム』でも脚色賞にノミネートされるなど、脚本家としての手腕は誰もが認めるところ。

※脚本賞と脚色賞は似て非なるもので、脚本賞はオリジナルの脚本に与えられる賞、脚色賞は小説や戯曲など原作をもとにした脚本に与えれられる賞のことです。

ソーキンは会話劇や法廷劇に定評のある脚本家ですが、この『シカゴ7裁判』はまさに彼の得意分野です。とにかく臨場感あふれるテンポの良い編集に、ドラマチックな展開と構成に夢中になり、あっという間に129分が過ぎ去っていきます。

大前提として、『シカゴ7裁判』鑑賞前に知っておきたいシカゴ・セブンについて解説していきます。

・名ばかりの司法と真正面から戦った7人の反戦主義者たち

実はこのシカゴ・セブンですが、当初は7人ではなく裁判に召喚されたのは8人だったんですよね。この作品を心ゆくまで楽しむには各登場人物を押さえておくことをオススメします。ソーキン得意の会話劇があまりにもテンポがいいので、人物の名前ぐらい押さえておかないと置いてかれてしまいます。

アビー・ホフマン(サシャ・バロン・コーエン)

本作における中心人物でリーダー格の1人。青年国際党(イッピー)の共同創始者でシカゴの民主党大会においてベトナム反戦デモの首謀者として逮捕されました。青年国際党はアメリカ合衆国の政党の一つで、該当裁判の前年1967年に創立されています。雄弁でユニークな会話をしたと思いきや、自身がユダヤ系ということもあり、たくさんの苦労を重ねてきたことが劇中でも明かされていきます。

演じているのがコメディ映画に多数出演しているサシャ・バロン・コーエンで、今回はいい意味で裏切られました。彼自身がユダヤ人家庭の出自ということもあり、彼自身の信念が反映されたかのような演技に魅せられ、本作の個人的MVPです。

トム・ヘイデン(エディ・レッドメイン)

本作において中心人物でありながら、描かれ方として主人公の立ち位置。後のカリフォルニア州議会議員で、ベトナム戦争において多くのアメリカ国民が無謀な死に直面していることを問題視して反戦活動家として発言を重ねていました。そんな中で彼はデモで起こった暴動を煽動した罪で逮捕されます。本作の一つの争点としては、彼らがこの暴動を本当に煽動したのか。

ヘイデンを演じたのはエディ・レッドメイン。『ファンタスティック・ビースト』シリーズが有名でしょうか。個人的には実在の理論物理学者スティーブン・ホーキングを演じた『博士と彼女のセオリー』が彼のベストアクトですが、2020年1月に日本公開された『イントゥ・ザ・スカイ 気球で未来を変えたふたり』の気象学者ジェームズ・グレーシャー役も素晴らしかったです。本作でも内に秘めながらも爆発しそうな生まれながらの正義感のようなヘイデンをうまく演じていました。

ジェリー・ルービン(ジェレミー・ストロング)

アビー・ホフマンらと青年国際党を創立したメンバーの1人で、シカゴ・セブンの1人。人種差別の雇用問題に問題意識を持ちながら、ベトナム戦争への反対運動も数多く指揮する活動家です。もともとはメジャーリーガーになるのが夢で、シンシナティ・レッズで二塁手になることを目標にしていたそうです。

ジェレミー・ストロングは日本では著名な俳優とはいえないかもしれませんが、本作のような作品には欠かせません。ちなみにアーロン・ソーキン監督の『モリーズ・ゲーム』にも出演していますが、ほか『ジャッジ 裁かれる判事』や『グローリー/明日への行進』『マネー・ショート 華麗なる大逆転』『デトロイト』などの法廷劇、人種差別を題材にした作品、ビジネスものなど硬派な作品に多数出演しています。

レニー・デイヴィス(アレックス・シャープ)

反戦活動家で、本作では主にトム・ヘイデンの相方的立ち位置。雄弁なヘイデンに対し、常に冷静にヘイデンを支えるような役割。

アレックス・シャープは『パーティで女の子に話しかけるには』でエル・ファニングの相手役を演じたのが代表作でしょうか。ブロードウェイデビューした『夜中に犬に起こった奇妙な事件』でトニー賞を受賞した実力者です。

デビッド・デリンジャー(ジョン・キャロル・リンチ)

戦争における暴力が蔓延し、戦争反対を訴える平和主義者。とにかく暴力を嫌う反戦活動家の1人です。あまりにも予定調和的で被告人たちに不利に進む裁判でイライラが募りますが、彼の優しい人間性は劇中でよく表現されているので、とあるシーンでも彼が悪いと思えない。そう考えるほど感情移入させられたキャラクターの1人です。

ジョン・キャロル・リンチは遅咲きで1993年から映画への出演を果たします。『ファーゴ』や『マーキュリー・ライジング』のほか、多数のテレビドラマにも出演するなど脇役としては欠かせない役者です。

ボビー・シール(ヤーヤ・アブドゥル=マーティン2世)

シカゴ・セブンではありませんが、今回の暴動に絡んでいる1人として裁判に召喚された8人目の被告人。ブラックパンサー党の創始者で、『シカゴ7裁判』の法廷において特に酷い仕打ちを受けた1人です。どのような仕打ちに合ったのかは是非とも作品を鑑賞いただけたらと思いますが、彼への仕打ちがあったからこそ判事や司法に対する失望と憎悪を増幅させる引き金となったのかもしれません。

ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世は『アクアマン』で悪役のブラックマンタを演じたことで知られる俳優で、建築家としての顔も持ちます。他にも撮影中の『マトリックス4』への出演も発表されています。

ほか、シカゴ・セブンの一員として、リー・ウィンナー(ノア・ロビンス)、ジョン・フロイネス(ダニエル・フラハティ)の名前も押さえておくといいでしょう。作中ではあまり見せ場はありません。

ウィリアム・クンスラー(マーク・ライランス)

シカゴ・セブンの弁護人で、正義感溢れる好漢。常に弱者に寄り添い、不利な立場の被告人の味方であり続けました。あまりにも不利な状況でも屈せずに、戦い続けたクンスラー弁護士ですが、実在の人物もかなりの凄腕で有名事件を多数担当しています。ケネディ大統領暗殺事件に関与したジャック・ルビーの弁護も担当したそう。ちなみに弁護士役として映画やテレビドラマにも出演経験があるそうです。

ベテラン俳優で劇作家のマーク・ライランスといえば、アカデミー賞助演男優賞受賞作品の『ブリッジ・オブ・スパイ』での好演でしょう。ドイツ系ロシア人のソ連諜報員役を見事演じていました。

レナード・ワイングラス(ベン・シェンクマン)

クンスラー弁護士とともにシカゴ・セブンの弁護を担当した1人。本作ではクンスラーをサポートする立場として決して前面には立ちませんが、物語の中盤でジュリアス・ホフマンに放つひと言が僕の気持ちを昂らせました。決して目立ちませんが、あのひと言で僕の心を鷲掴みにしました。これから鑑賞される方は彼の一挙手一投足に刮目してください。

ベン・シェンクマンは、映画.comでも出演作品が本作のほか『π パイ』にクレジットされているだけですが、脇役として映画・テレビドラマともに多数出演するベテランです。映画だと『ブルーバレンタイン』や『コンカッション』、ドラマは全20シーズンを誇る『ロー&オーダー』にも複数回出演しています。

・シカゴ7と対峙する明と暗

リチャード・H・シュルツ(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)

シカゴ・セブンを追い詰める側の検察官の1人。上司的立場のトム・フォーラン(J・C・マッケンジー)とは異なり、あくまで真実を追求したいという信念と裁判所のあまりにもぞんざいな裁判進行に不服を持ち続けながらも、中立的立場で法廷に立ち続けました。ジョセフ・ゴードン=レヴィットの正義感のありそうな立ち居振る舞いと表情に実に適った役柄だと感じました。見てください、上司を蔑むようなこの表情。素晴らしい演技を見せてくれました。

ジョセフ・ゴードン=レヴィットといえば、ゴールデングローブ賞のミュージカル・コメディ部門で主演男優賞を受賞した『(500)日のサマー』が代表作の一つでしょう。『インセプション』や『ダークナイト ライジング』、『スノーデン』などの話題作にも立て続けに出演している売れっ子俳優ですね。

ジュリアス・ホフマン(フランク・ランジェラ)

本作『シカゴ7裁判』において、判事を務めた司法長官。この人があまりにも酷い裁判進行を行うため、観ている側としてはイライラが募ります。とにかく言っていることが酷いです。司法長官とは名ばかりの中立公正の立場をわきまえないとんでもないやつです。口癖は「法廷侮辱罪」と「却下します」。もはや弁護士は弁護の必要がないぐらい彼のおかげで一方的な裁判となっています。

演じたフランク・ランジェラはお見事というほかありません。ここまでイライラを募らせる演技は名演と呼んでもいいでしょう。舞台俳優としても4度のトニー賞に輝いており、『フロスト×ニクソン』ではニクソン役でアカデミー賞主演男優賞にもノミネートされています。

覚えておきたい主要人物は以上です。ほか、ラムゼイ・クラーク元司法長官役をマイケル・キートン、ブラックパンサー党の一員フレッド・ハンプトンを『ルース・エドガー』で初主演を見事やってのけた若手有望株ケルビン・ハリソン・Jr.が演じるなど、実力者が多数出演しているのも本作の魅力の一つです。

とにかく一方的な裁判を強いられるシカゴ・セブンがどのように法廷に臨んだのか。調べれば出てきますが、裁判の判決は知らずに観た方が最高のカタルシスは得られると思います。

主要人物の名前と特徴を頭に入れて、是非とも『シカゴ7裁判』をご鑑賞ください。10月16日よりNetflix配信が開始されていますが、本日(10月25日)時点では全国4館(アップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺、アップリンク京都、テアトル梅田)のみ継続して上映されているので、劇場で観るチャンスがある方は是非とも映画館まで足を運んでみてはいかがでしょうか。

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