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【映画】アカデミー賞候補Mankを観る前に知りたいマンクと市民ケーンのこと

こんにちは。EDDIEこと江崎です。

さて、いよいよ公開が近づいてきましたよ! デヴィッド・フィンチャー6年ぶりの監督作『Mank/マンク』のことです。

「そもそも”マンク”って何?」という方に簡単に説明すると、世界最高峰の映画と言われ続ける1941年アメリカ公開作品『市民ケーン』の脚本家ハーマン・J・マンキーウィッツのことです。”マンク”とはマンキーウィッツの愛称なんですね。

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言わずとも知れた名作『市民ケーン』ですが、知らない方や観たことない方に簡単に紹介させていただきます。オーソン・ウェルズの監督デビュー作にして、彼が主演・製作・共同脚本を務めたアメリカ史、いや世界映画史に残る名作。アカデミー賞では9部門にノミネートされながらも、ある横槍が入ったことで脚本賞のみの受賞になってしまった作品です(横槍については後述します)。

内容としては、新聞王ケーンの生涯を描いた作品で、ケーンは死の間際に”バラのつぼみ”という謎の言葉を残して亡くなります。ニュース記者がこの言葉の謎を解き明かすべくケーンの元妻やあらゆる関係者に取材を行なっていくもの。1人の人物の自伝的映画といえば簡単ですが、当時では画期的だった映画技法がたくさん使われて、後の名作の数々は本作から影響を受けていると言っても過言ではないわけですね。

今回は『Mank/マンク』の作品紹介のほか、作品を鑑賞する上で知っておきたい基礎知識として、『Mank/マンク』の監督を務めるデビッド・フィンチャーの紹介、『市民ケーン』のモデルとなったウィリアム・ランドルフ・ハーストについて、そして『市民ケーン』の映画技法について解説していきます。

①『Mank/マンク』あらすじ

まずは『Mank/マンク』のあらすじからです。11月20日(金)より劇場公開、12月4日よりNetflixで配信開始する作品ですね!

「ソーシャル・ネットワーク」「ゴーン・ガール」の鬼才デビッド・フィンチャーがメガホンをとり、「ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男」のオスカー俳優ゲイリー・オールドマンが、不朽の名作「市民ケーン」の脚本家ハーマン・J・マンキーウィッツを演じたNetflixオリジナル映画。1930年代のハリウッド。脚本家マンクはアルコール依存症に苦しみながら、新たな脚本「市民ケーン」の仕上げに追われていた。同作へのオマージュも散りばめつつ、機知と風刺に富んだマンクの視点から、名作誕生の壮絶な舞台裏と、ハリウッド黄金期の光と影を描き出す。「マンマ・ミーア!」のアマンダ・セイフライド、「白雪姫と鏡の女王」のリリー・コリンズ、テレビドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」のチャールズ・ダンスら豪華キャストが個性豊かな登場人物たちを演じる。Netflixで2020年12月4日から配信。それに先立つ11月20日から、一部の映画館で劇場公開。(映画.comより抜粋)

いやぁ渋いですね、ゲイリー・オールドマン。彼は『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』で第90回アカデミー賞主演男優賞を受賞しました。僕も2017年の年間ベスト10に入れた作品で、実に素晴らしい作品かつオールドマンの名演光る作品ですので、興味ある方は是非ともご覧ください。

だけど、ゲイリー・オールドマンといえば、やはりこの役でしょう!『レオン』の悪役ノーマン・スタンスフィールドですね。

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彼のほか、アマンダ・セイフライドリリー・コリンズといった美女の共演もあり、スクリーンが華やかになることは間違いないでしょう。

②デヴィッド・フィンチャー最悪の監督デビューから最高のフィルムメーカーに

そして、次にデヴィッド・フィンチャー監督の紹介です。

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僕が一番好きな映画監督で、個人的には彼の作品を観て間違いはないと思っています。ただ彼も順風満帆というわけではなく、デビュー作でかなり痛い目を見ています。それが大人気シリーズの続編『エイリアン3』ですね。いきなりデビュー作で大人気作品の続編を手掛けさせられ、フィンチャー自身も成功したいからと意気込んで臨んだところ空回り。「やばい」と思った頃には時すでに遅しで、どんなに修正を施しても改善しようがなかったというわけですね。

彼自身『エイリアン3』について、「あれは自分の監督作ではない。やりたいことをまったくできなかった。『セブン』とは違う」と自分の作品と認めてすらいない駄々っ子ぶりで、「新たに映画を撮るくらいなら大腸癌で死んだ方がましだ」というぐらい心にダメージを負ってしまった作品です。

とはいえ、それ以降は負け戦なし(新しい映画撮っとるんかい!)。どの作品も一定以上の評価を得ているから凄い監督なんです。やはり彼は何かの続編などではなくオリジナルの脚本で勝負を挑んだ方が強い人なんでしょう。

『セブン』『ゲーム』『ファイト・クラブ』で大当たりして、『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』『ソーシャル・ネットワーク』でアカデミー賞監督賞にノミネート。『ドラゴン・タトゥーの女』ではリスベット役のルーニー・マーラを替えがきかない唯一無二のアイコンに仕立て上げ、『ゴーン・ガール』ではロザムンド・パイクを映画史に残る最恐の女として我々の記憶に焼き付ける所業を成し遂げました。

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彼がゲイリー・オールドマンをいかに味付けし、魅力的なマンキーウィッツを演出しているのか楽しみです。また、モノクロ映像ということもあり、彼の普段の色調を抑えた画づくりがどのように活かされるのかも見ものです。

③脚本家ハーマン・J・マンキーウィッツについて

今回このハーマン・J・マンキーウィッツを主人公に据えた映画ということで、彼の紹介を簡単に。『市民ケーン』の脚本家としては前述の通りですが、本名はハーマン・ジャコブ・マンキーウィッツで、弟や息子らも映画に携わっている映画一家。弟のジョーゼフ・L・マンキーウィッツは映画監督であり、プロデューサー、脚本家の顔も持ち、輝かしい実績としては兄のハーマンより実は凄い人です。『三人の妻への手紙』、『イヴの総て』でアカデミー監督賞と脚色賞を連続受賞し、『イヴの総て』では作品賞も受賞しています。

ハーマンに話を戻すと、彼は『市民ケーン』でアカデミー賞脚本賞を受賞し、翌年にはニューヨーク・ヤンキースの名スラッガーであるルー・ゲーリッグの生涯を描いた『打撃王(原題:The Pride of the Yankees)にてアカデミー賞脚色賞を受賞しています。同作はベーブ・ルースやボブ・ミューゼルらが本人役で映画に出演しているのも見どころの一つでしょう。

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④新聞王ケーンのモデル”ウィリアム・ランドルフ・ハースト”について

『市民ケーン』を語る上でこの人の存在は欠かせません。同作の主人公チャールズ・フォスター・ケーンは架空の人物なんですが、実はウィリアム・ランドルフ・ハーストという実在の新聞王がモデルとなっています。

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ハーストは父が炭坑のオーナーで富裕層、母は学校の教師という家庭で生まれ育ち、恵まれた家庭において努力を怠ることなくハーバード大学に進学。ハーストはニューヨーク・モーニング・ジャーナルという新聞会社を買収(さすが金持ちの息子!)し、市民感情を煽るような記事を連発し売り上げを伸ばしていきます(今でいう炎上商法のようなものでしょうか、時代の先取りですね)。

また新聞の売り上げを伸ばすために米西戦争の内容を誇張して報道したことも有名で、さらにその後当時のウィリアム・マッキンレー大統領暗殺にも絡んだとか悪名も高いハースト。彼の生涯は『市民ケーン』で描かれていることが名前がケーンなだけでほぼそのままハーストの話なので、未鑑賞の方は是非ともご覧ください。CGのない時代にも関わらず、オーソン・ウェルズがケーンの20代〜70代までを1人で演じ切ったところも圧巻です。

で、問題はここからです。あまりにも自分の生涯に酷似していることとあまりに横暴なクソ野郎として描かれていることに憤慨し、ハーストは当時78歳という高齢にも関わらずパワフルにも『市民ケーン』の不買運動を敢行。具体的には評論家を買収して作品を酷評させたり、劇場に対して圧力をかけて上映妨害したりとさすが新聞王の異名を取るだけあって、やることも鬼畜です。この妨害行為も虚しく、『市民ケーン』が時代を超えても評価され続けていることは何たる皮肉か…。

⑤『市民ケーン』は何がそんなに凄いのか

アメリカン・フィルム・インスティチュート(AFI)が1998年に発表した「アメリカ映画ベスト100」で1位に輝いた誰もが認める名作。ちなみに有名どころでいえば、2位『カサブランカ』、3位『ゴッドファーザー』、4位『風と共に去りぬ』、5位『アラビアのロレンス』と堂々たる顔ぶれ。誰もが知る作品でいえば『スター・ウォーズ』が15位にラインナップしています。

ちなみにイギリスBBCが世界各国の映画評論家62人にアンケートを実施した「史上最高のアメリカ映画100本(The 100 Greatest American Films)」を2015年に発表しており、ここでも『市民ケーン』が1位に輝いています。

けど、それだけ圧倒的に評価されても、観たことなければよくわかりませんよね。もちろん『Mank/マンク』鑑賞前に観る余裕があれば、是非とも『市民ケーン』も鑑賞していただきたい(ちなみに2020年11月16日時点でAmazonプライムU-NEXTでは定額見放題になっています)のですが、そんな時間ないから要点だけ知りたいという方に向けてちょっとばかり紹介させていただきます。

・フラッシュバックの脚本技法の確立

今やクエンティン・タランティーノ監督の代名詞でもあるフラッシュバックの技法。過去の回想的出来事を進行中の物語に随時挟み込む手法のことですね。タランティーノは『レザボア・ドックス』や『パルプ・フィクション』などで、このフラッシュバックとフラッシュフォワードを組み合わせるさらに進化した使い手です。

以前にもフラッシュバックが脚本に盛り込まれた作品はあったものの、世間に認知された有名作品としては『市民ケーン』が最初だったというわけですね! ただ本作ではこの過去にフラッシュバックする技法がきちんと映画のテーマと関連づいているのが素晴らしいんです。

・大胆不敵なクレーンショット

これは観てもらった方が早いですね。動画の冒頭から25秒ぐらいのところです。

バーの看板をあらかじめ上下切っておいて、クレーンでカメラを大胆にもそのネオン看板の間をすり抜けさせて天窓まで移動しています。CGのない時代ということを考えたら、もはや革新的な撮影手法と言えるでしょう。これは驚きました。

・パンフォーカスの撮影技法

これも今聞くとそんなに珍しい技法ではないのですが、当時は革新的だったようです。通常カメラはピントを合わせるとその周りがぼやけて見えます。パンフォーカスは、強い光を当ててカメラの絞りを絞ることで画面全てにピントを合わせるんですね。画面全体がクリアになることで、観る側としては一つの映像の中でたくさんの情報を仕入れることができます。つまり製作者側は画面いっぱいにこだわって映画のキモになるようなヒントを散りばめたり遊んだりできるわけですね。

撮影のグレッグ・トーランドは『嵐が丘』という作品でパンフォーカスを試して、『市民ケーン』で実際に技術として確立させたと言います。パンフォーカスの使い手としては、アルフレッド・ヒッチコックや黒澤明が有名ですね。

・ローアングルの撮影

これ『市民ケーン』が走りなんだと驚いたのがローアングルです。低い視点から仰角気味に撮影するカメラの撮影技法のこと。撮影対象の人物が浮き上がるように映るため、かなり映像に臨場感と迫力が出ます。

このローアングルの手法は『スター・ウォーズ』やヒッチコックの『サイコ』が有名ですが、日本人監督では小津安二郎監督が使い手として稀有な存在です。彼のローアングルはさらに一段上を行っていて、地面のスレスレにカメラを設置して撮影する”ロー・ポジション(ロー・ポジ)”という手法で、「子供の視点」から撮るというのが起源になっているそうです。小津監督は世界中の監督にも多大なる影響を与えています。

他にも超クローズアップやハイ・コントラストなど、後の名作にもたくさんの影響を与えた技法が多数起用されています。

・特殊メイク

自分が特に驚いたのはこの特殊メイクです。

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当時オーソン・ウェルズは25歳です。ケーンの生涯を自ら1人で演じているので、70代の老人役までこなしているんですが、全然違和感がないんですよ。CGもない時代ということもあり、これを同一人物が演じているということに驚きが隠せません。この特殊メイクにハイ・コントラストの映像技法を組み合わせて年齢差をうまく演出しているわけですね。

さらには、オーソン・ウェルズとマンクは、ハーストをモデルにした脚本を秘密裏に共同で執筆していくわけですが、どっちが先に原案を出したっていう主張で争いにまで発展しています。本来はウェルズが脚本の権利すら独占しようと目論んでいたそうですが、結局は映画会社のRKOの争いを避けたい意向により脚本は連名でクレジットされることになり、ウェルズも同意したとのこと。

脚本の権利を賭けて争う模様やハーストの妨害行為など、この辺りも『Mank/マンク』で描かれるんでしょうか。予告の最後にマンクが発言している「オルガン弾きのサル」って何のことでしょうか。今週末が楽しみで仕方ありません!

今回も読んでくださった皆様方、ありがとうございます!

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