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[弓道]早気・もたれ:リベットの自由意志実験から考える

弓道を指導する上で注意すべきことの一つが選手の"早気"や"もたれ"を予防することです。私は"早気"や"もたれ"ではありませんが、審査や試合の緊張する場面では会において、長く伸びることは難しさを感じます。この記事では「リベットの自由意志の実験」を参考に、"早気"や"もたれ"をどう捉えるかについて考察します。

1. ベンジャミン・リベットと自由意志の実験

心理学者ベンジャミン・リベットの自由意志に関する実験は、私たちの自由意志の存在とその動きについて深い洞察を与えてくれます。参加者にランダムなタイミングで手を挙げるように指示し、その一方で手を挙げる決定をした瞬間を記録するという実験設定によって、リベットは「準備電位」という現象を発見しました。これは脳がその動作の準備を始める電気的な信号で、自覚的に動作を始める前にすでに起こっていました。

どういうことか?まず簡単な例で考えてみましょう。

あなたがお菓子を1つだけ選べると言われたとき、どうしますか?色々なお菓子の中から自分の好きなものを選ぶでしょう。これはあなたが自分で選んだという「自由意志」が働いています。

それでは、リベットの実験を考えてみましょう。彼は参加者たちに、「いつでも好きなときに、手を挙げてね」と言いました。そして、参加者が手を挙げる瞬間を記録しました。同時に、彼は脳波計を使って参加者の脳の動きも記録していました。

この実験でリベットが発見したのは、参加者が手を挙げる前に、その人の脳がすでに手を挙げる準備を始めていたということです。つまり、人が自分で決定したと思っていることでも、その前に脳がすでに動き始めている、ということをこの実験は示しています。

これはあなたがお菓子を選ぶとき、実はあなたの脳がすでにどのお菓子を選ぶか準備を始めていた、ということに近い状態だったということです。これがリベットの自由意志の実験から得られた結果です。なんだか不思議ですが、面白いでしょう?

2. スポーツと無意識的動作

スポーツにおける選手の動作は、よく練習を積むことで「体で覚える」という状態になり、自動的・無意識的に行われることが多いです。筋肉の記憶や運動学習として知られるこの現象は、ある動作を何千回も反復することでその動作が脳内に「プログラム」されるからです。

3. イップスとスポーツパフォーマンス

「イップス」はスポーツ選手が突然、それまで自動的に行っていた特定の動作がうまくいかなくなる現象を指します。これは通常、一定の精神的なストレスやプレッシャーによって引き起こされます。

例えば、ゴルフ選手がパットを打つ動作や、野球選手がボールを投げる動作など、一度は完璧にマスターしていたはずの動作が突如としてうまくいかなくなることがあります。これらの動作は何千回も練習され、身体の中にプログラムされているはずなのですが、イップスによってそれが突然乱れてしまうのです。

原因は完全には明らかになっていませんが、心理的な要素が大きく関与していると考えられています。選手自身が動作に過度に意識を向けすぎることや、プレッシャーを感じすぎることが、イップスを引き起こす一因となることがあります。

4. 弓道の早気・もたれと自動化の崩れ

弓道の早気やもたれも、イップスと同様に、運動の自動化が乱れる現象と捉えることができます。弓道選手が矢を放つタイミングを自然に感じ取る能力が何らかの理由で崩れると、その結果として早気やもたれが現れます。

5. 自由意志の実験からの教訓と対策

リベットの自由意志の実験から得られる教訓は、私たちの意識的な意志と無意識的な脳の動作の間に時差があるということです。それは、選手が意図的に行動を制御しようとするとき、その動作がかえって乱れる可能性があることを示唆しています。これに対抗するためには、選手は自分の動作を過度に意識せず、むしろ「感じる」ことに集中することが重要です。リラクゼーション、マインドフルネス、自己認識のテクニックが、選手が自分の無意識的な動作に再び信頼を置くのを助けることができます。
指導する立場としては、選手が感じるプレッシャーや不安をできるだけ取り除いてあげられるように配慮することになります。

6. 結論

自由意志と無意識的動作の間のギャップを理解することは、スポーツ選手が最高のパフォーマンスを目指すうえで重要です。弓道の早気やもたれ、他のスポーツでのイップスのような現象は、このギャップを具現化する例です。これらを克服するためには、我々は自身の動作に対する無意識的な信頼を再構築することが求められます。イップスや早気、もたれはまだまだ研究が続けられており、即効性のある改善方法は確認できていません。これにはリラクゼーション、マインドフルネス、自己認識のようなテクニックを手を変え品を変え、講じていくしかありません。結局のところ、我々の身体と脳は、最高のパフォーマンスを発揮するためにはシンクロして働く必要があるのです。

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