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価格と価値のお話

「この商品は価値のあるものです!」

通販番組を見ていたら、一日に一度は聞くであろうこのフレーズ、ありふれたものではあるけれど、いろんな意味を含んでいるように思います。ちょっと深堀りしてみましょう。

価値とは何だろう

価格について考える前に、物の価値について考えていこうと思います。
わかりやすくするために、下記の鬼滅の刃の主人公の竈門炭治郎パーカーについて考えてみます。

一般的に、その時点におけるそのものの価値について考える時、普遍的な価値と、付加価値の2つに分けられると思います。

付加価値、とはよく聞く言葉だが、このパーカーでいえば
「今流行している鬼滅の刃をモチーフにしている」
「話題性がある」
「好きなキャラクターだから、子供が喜ぶ」
といったことがあると思います。

普遍的な価値について考えれば
「肌寒いときにあると便利」
「テーマパークで迷子になっても見つけやすい」
といったことがあるのではないでしょうか。

ここに関しては主観がほとんどなので、様々なものが当てはまると思います。もう少し踏み込んでみます。

その付加価値は、どれぐらいの期間で推移するものだろうか?

「沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理を表す」とあるように、流行が廃るのは過去も今も変わらないようです。別に新しくもないこの視点だけれど、この「流行はどれぐらいもつのかな~」という感覚はきっと、服を買う時なんかに無意識のうちに考えていることでしょう。

だからこそシンプルなデザインのものは強い。流行に関係なく長く使うことができるから。

これまでの話を逆から捉えてみると、今は低く見積もられているものが、後になって付加価値が出てくる、という事例もあると思います。
例えば、春先に割引になっている冬物のフリースやアウターは、翌年の秋口以降は普通に使えています。
(もちろん最新のデザインであるという価値はなくなっていますが)

ここまでで、価値は季節性(≒時間の推移)によって上下するものだ、ということを確認出来たのではないかな、と思います。

今欲しい、にいくら払うのか?

これまで店舗運営、ウェブマーケティング、会社経営といろいろな分野に少しずつかかわってきた私が声を大にして言いたいのはココ。特にオンラインで、EC購買やC2Cの売買が出来る今だからこそ、この問いかけは大事だと思うし、これからも大事にしていきたいですね

コンビニという不思議なビジネスモデル

例を挙げるなら、コンビニエンスストア。今や石を投げれば歯医者かコンビニか床屋に当たる、と言われるくらい増えたコンビニですが、このビジネスモデルうまくまわるのって、結構不思議だしすごいことだと思うんです。価格競争に振らないビジネスって口にするのは簡単だけれど、実現するのはとても難しいですから。

ちなみにコンビニのKSFは、「大手商社がバックについていて物流に長けていること(≒流行の最先端の物を置き続けやすい)」と「日本人が流行に感じる価値が大きいこと」の2つの要因がかみ合っているからだと思っています。
とはいえスーパーで50円で売っているものが、コンビニでは150円で並んでいて、”ついで買い”という名目でその商品が当たり前のように売れていくって、やっぱり不思議です。

今の話を。コンビニと普通のスーパーを見比べた時、「今手に入る」という付加価値に当たり前のようにお金を払っているという事を認識できたのではないでしょうか。

時間による価値の減衰は数式になっている

感覚的にとらえた所で、面白い数式を一つ紹介したいと思います。わかりにくい文章なので簡単に説明しておくと、金融商品の一つに「オプション」というものが存在するのですが、その価格を算出するための数式がこれです。

1973年に発表されたこの数式は、この数式一本で1997年にノーベル経済学賞を受賞しました。受賞までに24年もかかっていることを思えば、すぐに理解できるものではなさそうですね。
本質はそこではなく、この数式にタイムディケイ(時間の推移による価値の減衰、Wikipedia内ではセータと表記されている)の要素が含まれている事です。

つまり、時間で価値が推移するという事は、ノーベル賞を受賞するレベルの数式で科学的に証明されている、という事がいえます。つまりこの感覚は前提に入れてしまって問題ないと考えることができるだろう。

ECとタイムディケイ

ちょっと難しい話になってしまったので、もとに戻ってきます。
最近は、リアル店舗+オンラインショップ(EC)という、いわゆるオムニチャネルのスタイルが増えてきています。小売業は店舗を減らしたり、両方を利用する事が出来るようになってきています。この「実店舗がなくなる」ということも、価格と価値の話に密接に結びついてきます。

わかりやすくUNIQLOを例に挙げてみます。
2021年11月時点で、UNIQLOは国内に大小含めて2350店舗を展開しています。店舗の前を通ると、大きなディスプレイが目に入り、奥に天井の高さまで商品が積み上げられています。シンプルで魅力的な服は色別に並べられており、欲しいものが簡単に見つけられそうだ、と感じるわけです。
「そういえば、春物まだ買ってなかったな」と思い店舗内に足を運びます。
ここまでは従来と同じだが、この先は少し傾向が変わってきている。

春色のニットが欲しいと思ったあなたは、自分にあったサイズの物を探すが見つかりませんでした。店員に聞くと、あなたのサイズの物はネットショップ限定の商品だというのです。仕方がないので試着してサイズだけ確かめて、お店の中でネットで注文し、後日自宅に届くよう手配して店を出たのでした。

今日着る服を買っているわけではないので、後日届くことはそこまで問題ではないですものね。私たちには問題はないが、お店側には大きな違いが出てきます。

ECは売り手にとても好都合な環境

春物のニットは季節性が高いので、時間が経つと店頭に置けなくなってしまいます。一方で、従来であれば物が店頭になければ販売は出来ず、機会損失が起こってしまいます。ところが、ネットショップ限定販売という形を取れば、店舗に商品を置いていなくても販売することができるようになります。これはすごい事です。いかに素晴らしい事かを説明していきます。

従来であれば売れ筋の商品は大体予測ができると言われています。前年同週同曜日の売上動向と、その日の天気や気温、天気予報を加味することで売れる個数は大まかに予測できます。それにあわせて店頭のレイアウトなどを変更しておくのです。ディスプレイには目を惹くように、春物を来たマネキンや写真を設置します。営業時間中に棚に商品が無いと機会損失になってしまう為、品出しに出来るだけ時間がかからないように商品を準備しておきます。

店舗ではざっくり言って上記のようなオペレーションで運営しているのですが、その商品の仕入れになると、もう少し需要の予測の側面が強くなってきます。なぜなら発注してから店頭に商品が届くまでは時間がかかるし、大体は最小発注単位(SKUと呼ばれる)が存在するからです。という発注の仕方をするので、売れ筋ではない色やサイズの物は仕入れたくないけれど、という心理はあるが、泣く泣く店頭に並べるしかなかったのです。

ところが、です。
ECが利用できるようになってから、ここは大きく変化します。

まず一つ目の大きなメリットとして、店頭に商品が陳列していないことによる機会損失が起こりにくくなった事があります。上の例のように、使い勝手を買い手が体験できさえすれば、商品が店頭になくてもよくなったからです。これが意味することはとても大きいと思います。例えばUNIQLOであれば2350店舗に準備しておかなければならなかった商品たちが、発送センターに在庫すればよくなったことになりますから。

二つ目のメリットとして、店舗面積の効率向上と在庫量の最適化が挙げられます。小売店のKPI(Key Performance Indicator、目標みたいなもの)には単位売場面積あたりの売上高が設定されることが多いです。店舗は人通りが多いところに設置されることが多いから地価も高くて、売り場に不良在庫を配置し続けることに対するコストも高くなってしまいます。一方で物流倉庫はいい立地にある必要がないから、交通の利便性さえよければ地価が安いところで大規模に構えることが出来る。
さらに、在庫量に関しても改善されます。店舗での余剰在庫が少なくなればなるほど収益性は向上する。2350店舗に500円の余剰在庫が10個ずつあると、それだけで1175万円の在庫があることになる。在庫は資産という考え方もあるが、現金化できないとキャッシュフローの観点から見てもあまり望ましくないです。

不良在庫が減る≒店頭値引きも少なくなる

別の視点から見てみよう。不良在庫が減るという事は売場単位面積売り場面積が上がるという話をしたが、これは同時に、売り手にとって処分したい商品が減ることも意味すると思います。

私はドケチで、コンビニで飲み物を買おうとすると手が震えてしまいます。逆に、割引されているものを買う事にとても快感を覚えます。
昼ご飯は賞味期限が近いフルグラと業務用のミックスナッツだし、在庫処分で割引されたビールは、通常価格で売っているビールよりも美味しいです。そんな私にとって、これは致命傷でです。

価格は売り手と買い手の価値の均衡点に収束する

今まで売り手側と買い手側の都合をつれづれなるままに書いてきました。
需要と供給の話にもなりますが、一般的に価格は売り手と買い手の価値の均衡点であると言えると思います。「売りたい価格」と「買いたい価格」が一致した時に物が売れるわけです。普通のお店でも、株式でも理屈は同じです。

つまり、売り手(お店)側にとっては早く処分したいものは価値が低くなると、値段を下げる事で「買いたい」と思わせるのです。買い手の支払い限度額に達したところで、物は売買されるということです。

お店側は不良在庫の処分で頭を悩ませることが少なくなるから、値引いてまで売りたいと思う商品は少なくなると考えられます。小売業に限った話ではあるけれど、値引きの抑制、在庫回転率の向上、単位売り場面積あたりの売上高の向上といいことづくめな売り手側にとって、オムニチャネル化がいかに素晴らしいコンテンツかは、ここまで読んでくださった方にはお判りいただけただろう。
(ここまで読んでくださって本当にありがとうございます。)

さいごに

小売業におけるオムニチャネル化について語ってきました。オムニチャネル化した企業からは割引商品が減っていくことでしょう。実店舗が全くなくなることは、ラストワンマイル問題が解消されるまではまだしばらくないだろうし、値引きを求めて客足が増えると、実店舗を残しておきたい、と思わせる要素にもなるかもしれませんね。

今回は服を題材として扱いました。生鮮食品の場合はよりタイムディケイが大きいから、スーパーの総菜コーナーはまだ僕の聖地として生き残ってくれそうです。このオアシスは競争率は高そうだけれど、ぜいたくは言えません。特売コーナーにあるもので済ませる、これが一番安上がりなのはブラックさんとショールズさんが証明しているのだから。

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