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『人事で一番大切なこと』     【はたらきがい共創社労士読書録】


1.はじめに

 著者の西尾太氏の前著『人事制度の基本』を読んだ際、それぞれの制度についてわかりやすく解説されていることに加えて、その制度の根底にある、一貫した“考え方”にとても共感しました。

 昨年末に本著が刊行され、サブタイトルに「採用・育成・評価の軸となる「人事ポリシー」の決め方・使い方」とあり、自分の問題意識と一致したので、すぐに購入しました。

 しかし、仕事上で必要な本を読まなければならない事情があり、3ヵ月ほど遅れて読むことになりました。

 この本をご紹介し、人事制度改定・構築の際に考えていただきたいことをお話しいたします。

2.「人事の失敗」を引き起こさないためには

 本著では、Chapter1で「本当は怖い「人事の失敗」」として、採用、そして目標管理制度や360度評価、ジョブ型人事制度、1on1などの人事施策が、なぜ失敗したのか指摘されています。

 軸となる「考え方」をしっかりしないまま、人事施策(やり方)に取り組んでしまうから失敗してしまうのだと。

 人事で大切な「考え方」とは、人事の軸を持つことです。人事には次から次へと新しい「やり方」が登場します。しかし、自社の人事の軸がなければ、どんな「やり方」を導入してもうまくいきません。この人事の軸を体系化したものが本書で紹介されている「人事ポリシー」となります。

 「人事ポリシー」がしっかりしていれば、会社の目指す姿にあわせた人事を行なえるため、
・自社に合う人材だと思って採用したが思っていたのと違っていた
・自社に合う人材を採用したが定着しない
・社員のためにと思って導入したが大不評
など、よくある「人事の失敗」をなくすことができると述べられています。

 私が人事制度改定をお手伝いした企業で、キックオフ前に「人事ポリシー」や「求める人材像」などをまず役員の皆さんで議論しませんかとご提案しましたが、「抽象的な議論は難しい」とのことで具体的な制度設計から進めることになりました。

 軸となる「考え方」が不明確なまま「やり方」を議論するので、右往左往することもありましたし、最終段階になって制度改定の目的・狙いを実現できるのかという指摘があり、大幅な修正を行うことになってしまいました。

 制度づくりとなると、どうしても具体的な制度設計をイメージして、そちらに目が行きがちになりますが、その前段での「人事ポリシー」の議論・合意が大切だということを、あらためて感じた経験でした。

3.人事ポリシーのつくりかたと使い方

 本書では、Chapter3「一番大事な『人事の軸』をどうつくるか」、Chapter4『人事ポリシーフレームで人事の軸を整理する』、Chapter5『人事ポリシーの活用』で、紙幅を取って詳しく説明されています。

 「人事ポリシーフレーム」というものが提示されています。
 人に関する考え方の要素として、
 ・社員が働く目的、就業観(X理論、Y理論)
 ・何を大事にして評価するか
  (成果・能力・行動・職務・年齢・勤続・年功)
 ・何に対して給与・賞与を払うか(投資/精算)
 ・代謝概念(長く働くことを求める/代謝を求める)
 ・求める人材像(リーダーシップ/マネジメント)
 ・人材育成の方向性
  (コア・スペシャリスト・マネジャー・オペレーター)
 ・人材への考え方(資本と考える/資源と考える)
  採用の方向性(新卒・中途)
 ・求める社員の志向性

 これらの要素をもとに、19の項目からなる「人事ポリシーフレーム」で、自社ではどう考えるのかを整理し、明確化していくプロセスが書かれています。これらに沿って進めていくことで「人事ポリシー」がかたまり、それに沿った制度をつくり上げていくことができると思いました。

 活用方法についても、人事ポリシーの明文化か始まり、理解・浸透を図っていく方法、採用での使い方、そして制度の運用まで、とても実務的に記載されています。大いに参考になります。

4.「一貫性」と「継続性」が大切

 私が「なるほど!」と思ったのが、人事ポリシーと経営者の考えとの関係についての項目です。経営者は常に「スピードと変革」を考えていますが、人事制度はすぐに変えられない、あるいはすぐに効果が表れにくいものです。

 経営者は人事ポリシーを理解していても、時にはその軸からぶれた指示を出されることもあります。そういう時に大切なのは、人事部門として人事ポリシーの変更を伴わない「例外」なのか、人事ポリシーを変える「変更」なのかを見極めることだと述べられています。

 人事で大切なことは「一貫性」と「継続性」です。変えてはならないこと、変えるべきことを見極め、変えるのであれば、変えることを明確に意識しておくべきと。

 深く共感しました。人事部時代、当時の経営者からのご指示で、どう対応すべきか悩んだことがありました。人事に携わる皆さんにとって、とても貴重なアドバイスだと思います。

5.おわりに

 かつてお仕えしたボスが、よく使っていたフレーズは「心はかたちを求め、かたちは心をすすめる」という、ある仏具屋さんのコピーでした。

 昔から「仏つくって、魂入れず」とも言われますが、制度いうフレームをどんなに作りこんでも、しっかりとした考え方がなければ、うまくいきません。「考え方(人事ポリシー)」を議論することから始めてみませんか。

人事評価制度や、給与制度等について、お困りのことがございましたら、何なりとお気軽にご相談くださいませ。

 お問い合わせは、こちらまで。
https://www.hatarakigaiks.com/form.html

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