「初めての人生の歩き方」(有原ときみとぼくの日記)第38房:柚子の香りに、きみの隣に

 12月も終わりを迎えるこの時期、世間は慌ただしくなり、人はイライラを隠せなくなる。
 それはこの時期が仕事の繁忙期であると同時に、普段は蓋をして見えないようにしている燃えるような後悔が顔を覗かせるからだろう。
 あれをやればよかった。
 これがしたかったのに。
 そして人は後悔の根本的な、後悔の本当の姿という魂の深淵につい触れてしまうのだ。

 自分の人生、本当にこのままでいいのだろうか、と。

 理想の自分はどこに行ったんだ?
 変わりたい。本当はもっと活躍できたんだ。あの人みたいになりたい。本当の自分はこんなんじゃない。もっとやればできるはず。
 時代が、会社が、上司が、人が、環境が……。

 そんな空気感を感じながら、有原くんは空を見上げる。
 雪はまだ降っていない。
 暖冬。
 おかげで暖房をつけずにすんでいるが、暖房をつけないと震えて眠るどころではないほどの寒さも彼は好きだった。

 寒さは柚子の香りを引き立てる。

 今は誰も住んでいない鳥取のおばあちゃん家に生えている柚子の木から、小ぶりではあるが今年も柚子が実ったのだ。
 それを両親がもいできて、有原くんに土産だと5個ほど袋に詰めて渡したのだ。

 袖で皮を磨き、そっと鼻に近づける。
 柑橘系特有の目の覚めるような香りに若干の苦味が爽やかさをより引き立たせる。
 今年も冬が来た。
 有原くんはそうつぶやくと再度空を見上げた。
 やはり雪は降っておらず、雲の下をカラスがのんきに飛んでいた。

 有原くんは先月、ヴィパッサナー瞑想に行ってきた。
 本当はその感想をここに書こうと思っていたのだが、なんか面倒くさくなってやめたそうだ。
 彼はこう言っている。
「瞑想めちゃくちゃよかったよ! また行きたい! 最高だった! 本当に! 詳しくは調べてみて! それか俺のフェイスブック見てみて!」
 そしてそのめんどくさい状況が続いてしまい、かなりの日数が立ち、色々とあってまた再度noteを再開すると決めたんだとか。

 頑張れ有原くん!
 自分との約束を守るんだ!

 忘年会シーズン。
 彼とて例外ではない。
 仕事納め。
 職場の忘年会も終わり、待ちに待った彼女との忘年会。
 それも二人っきりで。
 今年一番お世話になった焼肉屋さんはもう予約済みだ。
 
 あとは今年一年を振り返って、学んできたことを総動員し、笑って、ときに反省し、そして心を込めて感謝を伝えよう。

 今年も本当にありがとう。
 色々あったけど乗り越えたね。
 また来年もよろしくね。

 そうお互いに言い合って、抱きしめて。
 満面の笑みで手を降ろう。
 溢れんばかりの愛の言葉をきみに。

 という予想を裏切って、彼らは焼肉店でケンカ別れしてしまった。

 有原くんは空を見上げなかった。
 一緒に部屋でコーヒーを飲もうと言ってたせいか、部屋に入ると寒気がより孤独を際立たせた。
 ベッドに腰を掛け、現実逃避の代わりに布団をかぶる。 そのとき。
 ふわっと柚子の香りがした。

 柚子の香りは孤独を際立たせる。

 このままでいいのだろうか。
 彼はベッドの中で考えた。
 そしてケンカの原因と解明よりもプライドの保ち方を模索している自分に気がつくと、彼はそっとベッドから抜け出し、顔を洗い、ベランダに出た。

 風が吹いた。
 柚子は吹き飛んだ。
 きみの隣に向かって。

 二日間ぐらい、そして今も少しだけしこりがある。
 結局あれから会わずして彼は実家に帰ってしまった。
 ラインでのやり取りは言葉以上に人の感情を逆なでする。
 一応、仲直りはできたはずなのに、顔を見ていないせいか、このまま年をこすことが不吉の前触れのように感じられ、そこで彼はあることを思いついた。

 そうだ、寒中水泳しよう。

 1月1日、海に行こう。
 んで、入っちゃおう。
 冷たい中、きっと禊になるはずだ。
 邪気を洗い流し、新年をスタートさせようじゃないか。
 海は塩もあるから多分すごくいいと思うし。

 はじめての人生は思い通りにいかないことだらけだ。
 人生は一度しかないとわかっていても、なかなか行動できずに、ときには意固地になってしまい後悔したり、上手に時間を使えない。
 ただ、人は強い。
 変わろうと思えばその瞬間から変われる。

 人は変化を嫌うが、変化は人の本能だ。

 変わらない人なんてこの世にいない。
 だから大丈夫。
 変われる。
 絶対に。
 有名人にも、金持ちにも、女の子たちからキャーキャー言われる人にだってなんだってなれる。
 ちょっと俗世的すぎてごめんなさい。
 でもそんなもん。
 人はそんなもんのほうが力がでると思う。
 
 それってつまり人のためだから。

 歩け。
 進め。
 有原くん。
 真冬の海がきみを待っている!

 本当にごめんなさい。
 ケンカなんてしたくないし、見たくもないよ。
 また話そ。
 笑顔で。
 きみの隣に。

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