見出し画像

特養は、感情という川がたくさんながれています。

特養で働いていた時に、女性の利用者さんが、不穏(不機嫌な状態)になった。
「私は、帰るんや!」と言いながら、車いすで窓ガラスをゴンゴンとする。

「清子さん(仮名)そんなことしたら、窓ガラスが割れるから、やめて!」
と、私が言う。
止めようとすると、人間とは不思議なもので意地になって、抵抗する。

「私は帰るんや!」と叫び、止めようとする私の手をたたく。
そして、そのあとに、窓ガラスをゴンゴンと車いすで体当たり。

特養の窓ガラスは、結構分厚いから、壊れる心配はないけど、清子さんの
帰宅願望から来る壊れている心に私は、動揺した。

怒ると、車いすを武器に暴れん坊将軍のようになる清子さん。

そこで、男性の職員が来て、「清子さん、窓ガラス壊れるから!」と言うと、清子さんは、ピタッとやめる。

そのあとに、男性職員が清子さんをなだめて、違う場所へ移動させる。
さすが、女性利用者は男性職員が来ると、これ以上逆らっても無駄な抵抗だと本能的に分かるのか、おとなしくなる。

そして、いつも通り、静けさを取り戻した場所は、日差しがポカポカと降り注ぐあたたかな場所だという事に気づいた。

そこにはソファーがあって、90代の小さな背の曲がった、くしゃくしゃの顔のウメノさん(仮名)が座っていることに気づいた。

働いていた特養は、従来型の特養で、ソファーは、自力歩行の人の休憩場

そういえば、帰りたいと清子さんが、わめている間もずっ~と座っていたことに気づく。
「ウメノさん、ごめんね。うるさかったね」というと、
ウメノさんも、結構な認知症が入っているから、帰ってくる言葉は、
「ここは、暖かい場所で、気持ちええですわ~」と。
会話がかみ合っていなかった。

暖かな、日差しが降り注いだ場所に座っているウメノさんは、とても気持ちよさそうに座っている。
ちょうどいい加減に、降り注いでいる日差しに喜びを感じているウメノさん。
「ここに座ってたらほっこりしますわ。あんたも、どうですか?」
と、優しく言われた。

幸せオーラが出ているウメノさん。太陽の光を浴びてセロトニンが出まくっていました。

そんな、ウメノさんを見て、その場所に座らなくても、ほっこりした。
うめのさんから、ほっこりをおすそ分けされた気分だった。

ウメノさんには、さっきの清子さんのバタバタした記憶はきっと消えているけど、ウメノさんにとっては、さっきの光景もただの風景の一部なんだろう。

さっきの、清子さんのバタバタで場が、厳しかったものが、ウメノさんの存在が一瞬にして、穏やかなものへと変わっていった。

清子さんとウメノさん、対照的な光景。
一方は、不穏でギスギス。→
もう一方は、日向ぼっこでほんわか。→

その時のウメノさんは、仏様のような不思議なオーラを感じた。
いるだけで、神々しい(こうごうしい)!とその時は思った。

90代過ぎると、仏オーラをまとったご利用者に、たまに遭遇します。

そんな、仏様の様に感じた、ウメノさん。
でも、ある日、直前に血圧が高くて、お風呂に入れなかった時があった。
「なんで、お風呂に入られないの?楽しみにしてたのに?みんな、そうやって、私に嫌がらせをする!」とブツブツ言いながら、悲しそうに歩行器を押して、帰っていった。

シルバーカーを押して歩いていました。
うめのさんの、シルバカーには、ティッシュやらトイレットペーパーが詰まっています。

やっぱり、ウメノさんも、喜怒哀楽を持っている人間なんだな、と思った。

人間は、感情があって喜怒哀楽がある。
それは、認知症があろうがなかろうが、若くても年を取っても同じ。

自分もそうだし、他人もそう。
それが、人間!ってわかってたら、少しは生きやすくなるかな。

清子さんとウメノさんの一幕を思い出すたびに、感情的な一場面は、全部川の流れの様に、消えていくものだと分かると、他人に振り回されずに、すむのかな、と、他人からきつい言葉を言われると、やたら気にしてしまう豆腐メンタルの私はそう思った。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?