見出し画像

身寄りのない重度の認知症のおばあちゃんの口癖の話


認知症のおばあちゃんで、印象的なおばあちゃんがいた。
ショートカットで、顔がシュッとして、綺麗な顔つきのおばあちゃんだった。

このおばあちゃんは、特養に入って来た時には、過去何をしていたのかは不明で、身よりもない。孤独な一人暮らしだったとのことだった。
生い立ち不明のおばあちゃん。

そんなおばあちゃんの口癖が、
「かわいいね」
「かわいそうに」だった。

「かわいいね」と言う時は、子供に言うような口ぶり。
「かわいそうに」は、あわれみをこめて言っていた。

口に出すのは、その2つだけだった。

過去の記憶が消えても、「かわいいね」と「かわいそうに」と言う言葉だけが残っていた認知症のおばあちゃん。

この言葉は、何を言いたかったのかな?
誰に、言っていたのかな?と、ふと思いだす時がある。

飼っていたペットに言っていたのか?
過去に、子供がいて、子供に言っていたのか?
それとも、知り合いの子供に言っていたのか?

もう、そのおばあちゃんの記憶には、過去がなくなってしまったから、聞いても、「かわいいね」と「かわいそうに」としか答えてくれなかった。

出会った時は、認知症が末期で感情もなく、本能だけで生きていて、あてもなく歩き回っていた。

食事は、スプーンを持たせると、食べこぼしは、あったけど、自分で食べることはできた。
でも、ずっと前ばかり見ているから、ちょうど、いい位置にお皿を並び替えないと、スプーンを置いて、じっとしてしまう。

たまに、ある程度食べると、手が止まるときは、食事介助をします。食欲は旺盛でした。

ある時、歩いて、転倒して骨折して、車椅子対応になった。
車いすに座りながら、ぼんやりと、壁をみつめている毎日だった。

そんな、おばあちゃんが、特養に入所したきっかけは、民生委員さんが、ケアマネさんに連絡して特養に入所になった。

民生委員さんやケアマネさんに、生い立ちを
話さなかったのか?
話せなかったのか?

すごく、気になる。

でも、このおばあちゃんを、特養入所まで導いた民生委員さんやケアマネさんの存在は、すごいなぁと思った。

ケアマネさんと民生委員さんの存在に支えられているお年寄りがたくさんいます。

こういう人たちの存在が、困っているお年寄りを陰ながらに支えているんだなと思うと、民生委員さんやケアマネさんの活躍も大々的に、報じられてもいいような気がする。

この認知症のおばあちゃんが、どんな過去を背負っていたかは分からないけど、施設にいるときは、話しかけると、微笑みながら「かわいいね」と言ってくれて、機嫌がいいと、職員の手をさすってくれたり、頭をなでてくれたりする。

そして、私が施設をやめた1年後に、このおばあちゃんは、お空に旅立ったと聞いた。
民生委員さんからケアマネさんに、特養を紹介してもらえなかったら、孤独死をしていたかもしれない。
何かの、ご縁に導かれてたのかなぁと思う。

このおばあちゃんの目に映った職員は、子供がいて、絶縁している状態だったら、最後は施設の職員を自分の子供と勘違いしていたのかもしれない。
それとも、ペットの犬か猫と勘違いしていたのかもしれない。
「かわいいね」「かわいそうに」は、そんな意味かな?なんて、思ったりする。

このおばあちゃんが、お空へ旅立つ前に、何を思ったかは、その人にしか、わからないけど、いい老後だったなぁ~と思ってくれてたら、いいなぁと思う。

認知症のおばあちゃんの目には、職員が子供の様に、映っていたらいいなぁ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?