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【25話】幼馴染みの想いで話(唯と梨紗ちゃん)

さて、前回24話の続きです。

続 さすがの唯ちゃん、情けない梨紗ちゃん

「じゃあ 救急車呼ぶよ」
「お願いね」

(電話)「もしもし 救急車・・・・ん・・・・あっ・・・そっか そっか 分ったよ じゃあねだよ」(電話)

「来てくれるのね」
「残念だけど 来ないよ」
「ど どうしてよ」
「あのね 110番かけちゃった パトカー呼んでも 仕方ないでしょう」
「何やってるのよ 119よ119」
「分ってるよ すぐかけるよ」
「お願いよ」

(電話)「もしもし・・・ん・・・あっ おじさん 唯だよ唯・・・そうだよそうだよ その唯だよ・・・えっ さっき唯の病院に・・・今帰ってきた そっかー 大変だったね・・・最近多いの・・・そっかそっか・・・そうなの もう臨月なんだよ・・・分ったよ ありがとうだよ おじさんも 気をつけるんだよ・・・じゃあね またね」(電話)

「来てくれるのね」
「ん・・・あっ しまった・・・来ないよ」
「な 何話していたのよー」
「あのね 救急隊員のおじさん よく 唯の病院に搬送して来るんだー 唯 救命の助っ人の時によく会うんだよ 顔見知りなんだよ だから 世間話で終わっちゃったんだよ」
「は 早くかけ直しなさいよー アッ 唯 前より痛くなってきたわよ」

(電話)「もしもし おじさん 唯だけど・・・・さっき忘れちゃったんだけど 救急車一台お願いだよ 二台はいらないよ・・・産まれそうかって 唯じゃないんだよ 梨紗ちゃんなんだよ 梨紗ちゃんが破水したんだよ お腹も痛くなってきてるから そろそろなんだよ・・・ えっ 梨紗ちゃんって 忘れちゃった 唯がお嫁に行く前 お隣さんで幼馴染みのって・・・そうだよ その梨紗ちゃんだよ・・・梨紗ちゃんのとこどこだって 梨紗ちゃん 今 唯のとこにいるんだよ だから唯の所に来て欲しいんだよ・・・どこだって・・・この前近所で会ったでしょ・・・そうだよ 鷹崎だよ・・・そこなら分るって それじゃあ お願いだよ あっ 気をつけて来るんだよ 狭い道あるから ゆっくりでいいよ 慌てなくても 安全運転で来るんだよ じゃあ お願いだよ」(電話)

「急いでくるって 梨紗ちゃん」
「ゆい~ 急いで来るわけないでしょ ゆっくりで安全運転なんだから」
「もー 梨紗ちゃん そんなの社交辞令だよ 急いでくるよ それより お腹 どーお」
「段々痛くなってきたわよ」
「じゃあ 梨紗ちゃん そこのバスタオルで濡れたの拭いて そこの服に着替えるんだよ」
「これって 唯が」
「そうだよ 救急車来る前に 着替えちゃうんだよ」
「あ ありがとう」

「それじぁ 唯 お茶とお菓子用意してくるね」
「私 お茶とお菓子なんて いらないわよ」
「梨紗ちゃんのじゃないよ 唯のでも」
「じゃあ 誰のなのよ」
「救急隊員の人のだよ お疲れさんって 出すんだよ」
「そ そんなのいらないわよ 何考えてるのよ」
「だって 梨紗ちゃん お礼の気持ちだよ」
「お礼って 向こうはそれが仕事なのよ 救急隊員にお礼なんて聞いたことないわよ それに公務員なんだから そんなことしたって 施しは受けないわよ」
「そーなの」
「そうよ」

「あっ 梨紗ちゃん ピーポーって来たよ」
「じゃあ 行かなきゃ あっ イタタタタ また急に」
「そこでじっとしてるんだよ 梨紗ちゃん 担架で運んで貰うから」
「担架 担架なんて嫌よ」
「ダメだよ 梨紗ちゃん たまには唯の言うこと聞くんだよ」
「分ったわよ」

そして、ブツブツ言う梨紗ちゃんを、担架で救急車に乗せました。

「唯も一緒に来てくれるのよね」
「行くよ 梨紗ちゃん 唯も救急車に乗りたいから」
「いい加減に・・・」
「はい 梨紗ちゃん これ梨紗ちゃんのだよ」
「えっ これボストンバック」
「そうだよ こっちは唯のだよ いつ こんな事になるか分らないから 用意しておいたんだよ さっき 梨紗ちゃんの母子手帳と保険証も入れておいたよ あと入院セットが入ってるから これだけ持って行けば 取り敢えずは十分だよ」

「唯 いつの間に」 
「少し前から用意しておいたんだー 後は母子手帳と保険証だけ入れればいいように」
「唯 そんなとこまで 気回してくれてたのね ありがとう 私 こういうとき 何もできないから」
「いいんだよ そんなの 唯も一応 看護師の端くれだよ 当然だよ」
「唯・・・・・」

「じゃあ おじさん お願いだよ 唯の病院にだよ」
「唯 凄く痛くなってきたわよ」
「大丈夫だよ まだ間隔空いてるから 多分」
「た 多分はやめてよ」

「着いたよ 梨紗ちゃん 分娩待機室に運ぶね」
「唯も 一緒に来てよ」
「分ってるよ 一緒に行くよ」

分娩待機室に着いた梨紗ちゃん、唯ちゃんに摩って貰ったり、励まされたりと、でも、もう不安でいっぱいです、いつも精悍な顔が、とても情けない顔になっています。

そして、いよいよ分娩室に行くことになりました。
歩いて行くことになり、唯ちゃんが付き添っていきます。
梨紗ちゃん、唯ちゃんの手を握って離しません。
行きたくないとか、痛いの嫌だとか、注射は嫌だとか、わがまま言い放題で唯ちゃんもさすがにチョット困ってきました。そして、いよいよ分娩室の手前まで来ました。

「ゆ 唯 一緒に来てくれるのよね」
「何言ってるんだよ 梨紗ちゃん一人だよ 唯は行かないよ」
「なんでよ 看護師でしょ 一緒に来なさいよ」
「だから梨紗ちゃん 唯は小児科の看護師だよ 産科じゃないんだよ それに唯もいつ産まれるか分らないんだよ 少しお腹も痛くなってきたんだよ」
「いいじゃない だったら一緒に産みましょうよ だから唯も」
「もー 梨紗ちゃん 仕方ないんだよ」
「じゃあ 居てくれるのね」
「産科の看護師さーん 梨紗ちゃんをお願いだよ これ以上面倒になる前に 中に入れちゃって欲しいんだよー」

「ゆ 唯 何言ってるのよ 居てくれるんじゃなかったの ねえ 唯 お願いよ 一緒に居てよ あっ 唯 あっ 唯 ほら 中に入れられちゃうじゃないのよ 一人にされちゃうじゃないのよ」
「頑張るんだよー 梨紗ちゃーん いい子産むんだよー」
「ゆ 唯 何手を振ってるのよ 何裏切ってるのよ ゆいー」
「頑張るんだよー 梨紗ちゃーん」
「ゆ 唯の裏切りものー 唯の人でなしー ゆいー ゆいー ゆいー」

と、分娩室の中に、騒ぎまくって往生際の悪い梨紗ちゃんが消えていきました、が、「ゆいー」って声は、まだ聞こえていました。

その後、唯ちゃんと梨紗ちゃんは、無事元気な赤ちゃんが産まれたのですが、梨紗ちゃんが分娩室に入って産まれるまでに色々あって、その時の様子が、「笑いと感動」として、この病院に語り継がれたのです。

その、「笑いと感動」は、また別の機会に、お話ししましょう。
また、次回に、お会いしましょう。

【索引】 【登場人物】 

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#東雲 #しののめ #小鳥遊 #たかなし

    

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