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星芒鬼譚30 「引っ張ってでも帰るんだよっ!こんなところにいたら命がいくつあっても足りん!」

どさり。二体の妖怪が折り重なるように板張りの床へと転がった。
出立ちからして、アジア圏の者たちのようだ。
下敷きになっている妖怪は青い衣服を纏い、痩けた頬や細い腕に鱗がぎらぎらと光っている。
その上に重なった妖怪はからし色の衣服で、大きく丸い腹と短い手足が特徴的だった。
両者とも白目をむいたまま動かない。
それぞれの額に埋め込まれていた黒い宝石ーーー殺生石は、ヴァンヘルシングとカーミラの攻撃で割れ、空気中へと消えていった。
ヴァンヘルシングがふぅと息を吐いた。カーミラも肩の力が抜けたようだった。

「行こう」

二人が城の奥へと歩き出そうとした瞬間、大きな腹の妖怪が呻きながら起き上がった。
いち早く気配を察知したカーミラがさっとボウガンを向ける。

「まだ食らい足りないわけ!?」
「うわー待って!撃たないで!!」

あわてて両手を上げるところを見ると、敵意はなさそうだが。

「カーミラ、よせ。そいつらはもう正気だ」

カーミラが目だけで見上げると、ヴァンヘルシングは小さく首を振り、同時に起き上がった妖怪が激しく頷く。
その頷きによる縦揺れで、下敷きになっていた鱗の妖怪も目を覚ましたらしい。潰れた蛙のような声が聞こえた。
そこでようやくカーミラのボウガンが下ろされた。
鱗の妖怪は、とりあえず周囲を見回している。が、いっこうに状況が掴めないらしい。
おずおずと挙手をすると、へりくだった態度で話しかけてきた。

「あのーっお恥ずかしい話なんですけど...どういった状況なのか我々さっぱりわからなくてですね...」

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