星芒鬼譚11「待って不死身の人多すぎない?」
「ここまで来れば大丈夫かと…って大丈夫ですか?」
賀茂が振り返ると、京極はぜぇはぁと息を荒げていた。
なんなら、げほげほと噎せている。
「だ、大丈夫じゃないけど…とりあえず、大丈夫…」
京極はベンチに倒れ込むように座った。
賀茂も、少し間を開けて腰を下ろす。
夜の公園には誰もいない。外灯がジジッと音を立てて点滅した。
しばらく続いた沈黙を、賀茂が破る。
「…京極さん。昨日のことですけど」
京極の脳みそにはまだ酸素が行き渡っていない。昨日のことって何だっけ?
「私…私、家が嫌になって出てきたんじゃないんです」
「…え?どういうことだ?」
やっと意識がはっきりしてきた京極は、昨日のことが思い当たって賀茂を見た。
「本来ならば、私が賀茂家を継ぐはずだったんです」
嫌になったんじゃないなら、何故継がなかったのか。
京極が口を開くより前に、賀茂は小さな声で言った。
「私、見えないんですよ」
京極は走り出す前のことを次第に思い出してきた。
「あー。だからさっき俺に位置を教えろって?」
「…はい、生まれつきなんですけど。でも、訓練を積んで見えるようになった先祖の記録もあったんですよ。だから、訓練したんです。15くらいまでかな。でも、やっぱりダメで…」
賀茂は自分の声が震えているのに気づいて、小さく深呼吸をした。
もう十分すぎるくらいわかっているのに、やはりその事実は胸をしめつける。
京極は見てはいけないものを見ているような気がして、なんとなく目線をそらした。
「才能が、なかったんだと思います。使えるのもさっきの術だけですし。これじゃ、賀茂家を継ぐなんて到底無理です。…だから、私は家を出ました」
ポケットにカプリコが入っているのを思い出した京極は、話を聞きながらごそごそやっていた。
賀茂は遠くを見つめながら続けた。
「いつか私も、両親や祖父母のようにこの街を守るんだって思ってました。でも、叶わなかった」
「なるほど。それで、警察にねぇ」
カプリコを取り出すと、開けかけだった包装をはがしながら相づちを打った。
「はい。警察なら、形は違えどこの街を…この街に住む人たちを守ることができると思ったんです」
賀茂の瞳に、光が戻った。
もぐもぐとカプリコを咀嚼しながら、京極は乱暴に賀茂の頭をくしゃっと撫でた。
「がんばったなぁ」
「ちょっと、子供扱いしないでください!っていうかこのタイミングでカプリコ!!」
賀茂は京極の手を振り払うと、いつもの調子で頬を膨らませた。
「ははは、すまん、つい」
京極もいつも通り、ヘラヘラ笑う。
ぷいっとそっぽを向くと、賀茂は言った。
「…でも、ちゃんと聞いてくれてありがとうございます。人にこんな話したの、初めてです」
カプリコを食べ終えた京極は、包装をゴミ箱にぽいと投げ込んだ。
「ん。まぁでもアレだ、そういう意味では、お前さんもあいつら探偵も変わらないと思うぞ」
賀茂が振り返った。
「え?それは、どういう…」
珍しく真面目なトーンで京極は言った。
「あいつらも、俺たちとやり方は違うが守りたいもののために駆けずり回ってんのさ。だから、あんまり目の敵にしないでやってくれ。な」
賀茂は、ぽかんと口を開けていた。
***
玉藻めがけて放たれた業火をすんでのところで避けながら、夏美が声を上げた。
「一体どういう状況なんだこれは」
光太郎が飛んできた暗器を弾きながら答える。
「こっちが聞きてーよ!」
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