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星芒鬼譚34「もう、終わりにしましょう。僕らは永く生きすぎました」

「ちょっと待て…どうなってんだよ」

対峙する二人を見て光太郎は困惑していた。

「つまり、今の戦いはとんだ茶番だったってわけさ」

その肩をヴァンヘルシングがぽんと叩いた。
夏美は黙って晴明の出方を窺っているようだった。

「晴明様…どうして、」
「どうして?お前はあんなに俺の傍にいたと言うのによくそんな言葉が吐けるな。…お前も、俺のことなどろくに見ていなかったんだろうな」

絞り出した騰蛇の声を叩き潰すように晴明が言い放った。
イヅナはどうしても聞いていられなくなり声を上げた。

「見てねぇのはてめぇだろうが!」
「たかが式神を、俺が見てやる義理などどこにある」

イヅナは晴明に飛びかかった。そうせずにはいられなかった。
しかし晴明の手がかざされた瞬間、いとも簡単に弾き飛ばされてしまった。
ちくしょう、一発ぶん殴ることすらできねぇのかよ。
柱へと叩きつけられ、崩れ落ちたイヅナは奥歯を噛み締めた。
視界の端に騰蛇が肩を震わせているのが見えた。あいつはきっと泣いている。
晴明はイヅナにかざしたその手のひらを、目を細めて眺めた。遠くを見るようなまなざしだった。

「…俺にはこれしか無いんだよ。力しか。狐の子供と罵られながらも、この力だけで、陰陽師としての地位も名声も…愛した人の心も手に入れた。力さえあれば、すべてを手に入れられるような気がしていた」

拳を握ると、晴明はその瞳を道満に向けた。

「だが道満、お前が現れた。そのときからだ、何もかもが変わってしまったのは。手に入れたはずのものを、お前が奪っていったんだ」

瞳の奥に浮かぶそれは怒りなのか悲しみなのか、そのどちらもなのか、読み取ることは叶わない。
道満が口を開きかけたが、言葉を紡ぐことを晴明は許さなかった。

「俺は思った、また力で奪い返さなくてはならない。だが気づいてしまったんだ。自身の力が時が経つにつれて弱まっていくことに…反対にお前の力は増していった。…梨花とお前が通じていることも知っていたよ。怖かった。たまらなく怖かった。すべてを失ってしまうことが…。だからどうしても、お前に勝てる力が欲しかった」

道満は、禍々しい気を纏い変わり果てた師匠の姿をじっと見つめていた。

「それで、玉藻の力を狙ったんですか」

二人の視線が交差する。

「ああそうだ。邪な力でも関係ない。ただ誰よりも…お前よりも強い力が欲しかった。それだけだよ」
「そんなもの、あったから何になると言うんです。僕らの力はそんなことのためにあるわけじゃない」

―――いつか、力に拘る若い自分にそう教えてくれたのは、貴方ではなかったか。
しかし、それがいつのことで、どんな声で、どんな表情で教えてくれたのだったか、どんなに考えてももはや思い出せなかった。忘れるわけがないのに、どうしても目の前の彼に昔の面影を重ねることができなかった。
晴明は瞳に光を宿さぬまま微笑んだ。その微笑みはどこか寂しげだった。

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