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俳優を続けるためにソムリエになった。

俳優を名乗り始めて11年経った。
11年間、俳優をやりながら私はほぼずっと、バイトしたり、契約社員をして生活費を稼いでいた。
たまに入る俳優のギャラは高額なこともあるけど、年間の収入としてはそれだけではまだまだ生活できない。いきなり夢のない話でごめんなさい。でも本人は結構楽しくやってるのでかわいそうに思わないで大丈夫だよ!

でもずっとこのまま?
大学生や、もっと言うと高校生と替えのきいてしまうバイトでいいんだろうか?


一方俳優の仕事は替えがきかない。


だからバイトはバイトと割り切って、誰にでも出来る仕事を、時間と引き換えにこなすという考えも、20代の頃はあった。

でも30を超えて、レストランで高校生と大学生と働いて、まあメチャクチャ楽しいんだけど(ほとんど女の子たちだったのでマジ楽しかった可愛かった最高大好き)慣れた仕事を余裕でこなして、休憩中に冗談がヒートアップして伝説みたいな瞬間がうまれる、みたいな、まじ、青春バイトを、30過ぎてやってて、そりゃあ楽しかったんだけど、おや、、、とも思い始めた。

自分は俳優なんだから俳優をきちんとやってれば空いた時間をぐうたらしようが青春バイトしようが、問題ない。

でもその、きちんとやれるほどの俳優の仕事は、わたしにはなかった。

このきちんと、とは、毎日のバイトのようにちょっとダルくなったり、仕事の要領の悪い人にいらついたりできるほどそれが日常になっているかという意味


空いた時間というよりほとんど毎日バイト。
ほとんど毎日空き時間。

お店は客単価高めの人気店だったので、偉い人とか有名人とか社会的地位のある人が来て、その人たちが喜んで帰っていくので、自分はすごい事を成し遂げているかのような気にもなった。本当は高校生でも出来る仕事なのに。

そのバイト先での自分の評価(=時給)とか、人間関係、お客さんからの指名とか、いいことも悪いことも、結構充実していたのだ。それ自体は悪いことではない。だってそれこそが仕事だから。やりがいとちょっとのストレスと改善していきたい課題が山積みで、とても楽しかった。でもそれだけ。
やる気のあるバイト。
バイトの意見なんて必要じゃない。

俳優の仕事は、選んでもらえなければ永遠にない。人は仕事している時に成長するのに、私はじゃあほとんどこのバイト先でしか成長できないという事?
それなのにそのバイト先でもやっぱりたかがバイトだから意見は尊重されないししまいには、いち「女のコ」扱いされてしまった。やりがいを持って7年続けて、信用されて、一時期はオーナーと私しか調理できない食材とかあって、既婚になっても、接待の席でコンパニオンにされてしまった。それも店側の人間から。

自分の性別が女性であることは気に入っているが、それによって「女のコ」の役割をなんの予告も無しに当然のように求められた。
若い時なら甘んじて女のコを演じることもあった。今考えたら若くても甘んじなくて良し!と思うんだけど。

でもそんなつもりで私は働いてなかった。

これは大変である。
大きなズレである。

この大失言をしてしまった相手側の気持ちを考えてみよう。
私が俳優であることは知っている。
ここはバイト先である。
私は俳優なのだから俳優の仕事をきちんとやっていればバイトはほどほどで良い。
なのでそのバイト先でどんな扱いを受けようがマジにならず聞き流すべき。

聞き流せなかった。

細川唯に圧倒的に足りないものそれはスルースキルである。えへへ。


そんなわけで私はバイトの仕事で自分の仕事がわからなくなり、俳優の仕事は圧倒的に現場で過ごす時間が少なく、
自分の仕事というものは今、無いに等しいのではないかと考えた。

そして、
じぶんの仕事がない
というのは
とてもさみしい事だった。


これからもバイトをするなら、やっぱり飲食店が良い。私は食事の場が大好きで、毎日いろんな人がいろんなシチュエーションでやってくる。食事に集まるほど仲良しの人たちの、きっと年に数回の楽しい会に、立ち会えることが嬉しい。できたらその楽しい場を、もっとおいしく楽しくさせたい。

それで必要なのは、目に見える何かだった。


言い忘れていた!私はワインが好きなんです。どれくらい好きかというと、ほぼ毎日ワインを飲むくらい好きです。

このnoteの1番重要な部分です。

私、ワインが、メッチャ好き。

話せば長くなるのでワインを好きになったきっかけは別noteにまとめます!

山形で美大生だった頃20歳のお誕生日に、ボルドーの格付けのやつ(全然もう覚えてない)とか、生まれ年のワインを飲ませてもらってから、ずーっと、ワインが好きでした。

飲食店でお客さんにワインをおすすめして、おいしいと言ってもらえると、なぜだかすごく嬉しかった。ソムリエになることは何年も前から意識していた。その度周りから脅されて(知っている人の間では有名だが、ソムリエ試験は、結構大変なのだ…)
何年も、試験を受ける事をためらっていた。

が、これも色々あって、受験を決意した。

ソムリエはただの資格。ソムリエよりも詳しいワイン好きはたくさんいる。だからソムリエの資格をとっても中途半端になるだけだから必要ない。と言う人もいた。
私なんてその上俳優だ。私よりもワイン詳しい人なんて山ほどいるし、中途半端であるかどうかを問えばかなり中途半端だ。すごい。
でも私は中途半端の方がましだと思ってる。
挑戦しないゼロでいるよりずっとまし。
中途半端だって常に全ての中途半端は前進、更新しているわけだから、やりたいのにやらないでスタートラインにも立たずやいやい言ってる方が楽だ。楽するのは好きだけど、なんかこれは自分が許せなかった。
もういい加減ちゃんとやろうと思った。なんの使命感や。

あと私は特技がなかった。ほかの俳優みたいな、ダンス、英語、モノマネ…
だから特技が欲しかった。
俳優を続けるために。


自分の俳優の側面がソムリエに自信を与え、ソムリエの側面が俳優の自分に自信を与える。二つの肩書きは良い影響を及ぼし合っている感覚がある。

何故だかこの12月は11年間で1番俳優の仕事があった。

あなたのおかげで生きているのかもしれません。