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140字小説を小説にしてみた

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Twitterにて投稿した140字小説を短編に。 気まぐれ更新。
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#さよならノーチラス

沈む夏

「ねぇ、夏の匂いがするね」 光る波を見つめながら一歩前に進む君の首筋に汗が流れ落ちた。僕の視線は釘付けになり脳を熱が侵していく。 左手には先の見えないほど広大な海が広がっており、透明な水の中で魚たちが自由に泳いでいるのが見えた。汗、と一言だけ口にすれば君は振り返りタオルで首筋を拭う。暑いね、と言いながら再び歩き始める君の髪が尻尾のように揺れ動く。半袖のセーラー服からは日焼けした肌が覗き、今年も紫外線と闘わなければと意気込んでいた数日前はどこに行ってしまったのかと思う。