適切な疲労管理の第1歩!上手なトレーニングボリュームの増やし方、そして減らし方
筋力トレーニングの基本原理の一つに、「トレーニングの成果はボリュームに比例する」というものがあります。
基本的に、トレーニングは「たくさんやるほど効果が大きい」ことが、近年のトレーニング科学の研究から分かっています。
この原理は、筋肥大においては特によくあてはまります。
1回よりは2回。
1セットよりは2セット。
週1日よりは2日。
できるだけ多くトレーニングした方が、得られる成果は大きいです。
まあ、ある意味では研究どうこう以前に、「あたりまえ」のことですが。
しかし難しいのは、同時に「人間の回復力には限界がある」ということです。
つまり、やみくもにたくさんトレーニングしても、どこかで限界を超えてしまうということです。
「限界を超える」というと何やらいいことのように聞こえますが、そうではありません。
人間、いったん回復の限界を超えて疲労してしまうと、再びコンディションが戻るまでに時間がかかります。
たとえば通常レベルの疲労なら1日で元の状態に戻るところが、激しい疲労から回復するには2日、3日とかかるのです。
それでもしっかり回復すればまだいいですが、たいていの場合、回復しきらないままに次のトレーニングを開始してしまっているのではないでしょうか。
これでは、トレーニングによる成長を、疲労によるダメージが上回るという状態が続いてしまいます。
つまりトレーニング量を増やしているにも関わらず、停滞して成果が出なかったり、むしろ筋力や筋量が低下してしまう恐れがあるのです。
それに焦って、さらにボリュームを増やしたりすると、とんでもない悪循環に陥ってしまいます。
やればやるほど、弱くなる。
いわゆるオーバートレーニングの状態で、解決方法はとにかく「休む」以外にありません。
しかし、普段から熱心に頑張っている人ほど、ただ休むことへの忌避感、抵抗感が生まれがちです。
特に筋力や筋量が低下していたりする場面だと、なおさらでしょう。
しかし、この危険な状態を長く放置すると、やがて「オーバートレーニング症候群」というもっと厄介な状況になってしまいます。
早い話が、疲労困憊の状態が「慢性化」してしまうのです。
そうなると最低でも長期休養、場合によっては選手生命を絶たれかねません。
肉体ばかりか、メンタルもダメージを受けるでしょう。
オーバートレーニング症候群というのは、それぐらい深刻なものなのです。
確かに、今現在の能力を超えてパフォーマンスを上げるには、どこかで現状を打破する必要があります。
その意味では、「限界を超える」こと自体は必要です。
しかし、そこには大きなストレスがかかるということを、忘れてはなりません。
限界をただやみくもに超えるのではなく、「限界の超え方」をうまくデザインする必要があるのです。
このデザインの仕方こそが、疲労管理と呼ばれるものです。
こうした考え方は、残念ながら一昔前のスポーツ界ではほとんど省みられていませんでした。
たとえトップ選手の世界であっても。
とにかく根性、根性で、慣れるまで耐えろ、ケガをしても練習しながら治せ、というような価値観です。
おそらく、そうした疲労管理など完全無視の激しい練習にも耐えうる、身体の頑健で適性のある人だけが生き残ってきたのでしょう。
「回復力には限界がある」のは間違いのない事実ですが、その「限界」は個人差が非常に大きいのです。
なので、今回お話しする疲労管理の問題は、むしろ普通の人、恵まれた素質のない人ほど、必要不可欠なものだといえるでしょう。
さて、それでは具体的にはどのようにボリュームを増やしたら良いのでしょうか。
基本は「小分け」にする
基本的に、負荷は「小分け」にして「分散」した方が体へのダメージは小さくなります。
いくつか、具体例を交えながらその方法を説明しましょう。
➀「強度」を分散する
まずは、意外と見過ごされがちな強度です。
たとえば、ここにスクワットの1RM、つまりMax重量が100㎏の人がいたと仮定しましょう。
もしこの人が100㎏を1回挙上したら、もうそれでその日のトレーニングは終了です。
実際には、少し休めばいくらか回復するでしょうが、1RMの重量を複数回挙げるようなトレーニング法は基本的に推奨できません。
やるとしても、あくまでも「一定期間のみ行う、特別なメニュー」としてでしょう。
(トレーニング界隈で有名な「スモロフプログラム」は、おそらくこの類の方法です)
とはいえ、たった1回しか挙上しないとすれば、トレーニングとしては全くもってボリューム不足になってしまうのは理解できると思います。
では、この人が90㎏を挙上するならどうでしょうか。
1RMの90%ですから、おそらく4~5回は挙がるでしょう。
100×1=100
90 ×4=360
単純計算ですが、両者を比べると明らかな差があります。
実際にトレーニング効果がぴったり3.6倍になるわけではありませんが、90㎏の方がボリュームが稼げています。
さらに軽い重量、たとえば80㎏を使用すれば、8~10回は挙上できるでしょう。
そうなると、さらにボリュームが稼ぎやすくなります。
80 ×8 = 640
繰り返しますが、100㎏の6.4倍分の効果があるわけではありません。
しかし、基本的に重量を軽くするほど、たくさんトレーニングできることがお分かりでしょう。
ただし、最低限の重量はあります
この「分散」という考え方でいくと、どこまでも重量を軽くした方が効率が良さそうにも思えますが、そうでもありません。
そもそも、人間の筋肉が成長するには最低でも最大筋力の30%の負荷が必要ということが分かっています。
これはあくまでも筋肥大に必要な閾値で、筋力強化に特化するならもっと高い負荷が必要になります。
具体的には、パワーリフターのようにとにかく1RMの重量を伸ばしたい場合です。
おそらく、最低でも80~85%、95%までは扱う必要があると思います。
(場合によっては、100%や105%といった超高重量も必要になるでしょう。ということは、筋肥大狙いと筋力向上狙いのトレーニングはおのずと方法論が違ってくるのです)
また、低負荷だと心理的な負担感、疲労感が増すとも言われています。
1RMの30%でも筋肥大はするというデータはあるにはあるのですが、ただし、相当な「追い込み」感が必要になるそうです。
よほど疲労困憊するまで挙上しないと、成果は得られないということです。
たまに、自重の腕立て伏せだけでものすごいバルクの大胸筋の方がいますが、あれは相当な回数を行っている賜物なのですね。
ということで、「そこそこ高負荷かつ、ボリュームを稼ぎやすい」範囲でトレーニングを行うというのが効率的なようです。
一般に、筋力トレーニングで最もボリュームを稼ぎやすい負荷は、1RMの60~80%あたりと言われています。
その意味では、初心者向けに推奨される「10回×3セット」というのはなかなかいいところを突いていますね。
この重量帯をバランス良く使用するのが、効率の良いトレーニングへの近道です。
ふだんかなりの高重量を使用していて疲労感がキツイ、でも思ったように成長できていないという人は、使用重量をいったん見直すのも手でしょう。
関節に不安のある人、比較的高齢でトレーニングを始めた人なども。
特に、ボディメイクを優先するなら、1RMの60~70%程度という、比較的軽めの重量も試してみてください。
疲労感を抑えつつ、さらなる筋肥大を狙えるかもしれません。
この「重量を抑えめにする」という方法、なかなか実行できない人が多いです。
なぜなら、ジムに行くとつい他人の目を気にしてしまうから。
人間、どうしても「使用する重量」をなかば無意識に競ってしまいがちです。
ジムあるあるですね。
無駄に高重量を挙げて疲労してしまい、トレーニングの効率を落としてしまうのです。
また筋力向上、1RM重視の方であっても、基礎力を高めるためのアクセサリー種目に関しては、この辺りの重量帯を使うとボリュームを稼ぎやすいと思います。
90%以上の高重量を行った後で、60~70%の軽めの重量でボリュームを稼ぐ、という折衷案もあります。
拡張性の高い、つまり優秀とされるトレーニングプログラムは、この辺りの重量帯もきっちりメニューに入れています。
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