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ゆういちの一生 第28話「あの金髪の奴だよ。」

芸能のお仕事。

ゆういちは28歳になりました。

オペラのお仕事は、一度新国立劇場のマノンレスコーに出てからというもの、
ご指名をいただいて他の劇場での公演も出させていただきました。

しかし、それだけでは食べていけません。

まあ、普通はアルバイトをしながらコツコツやっていくものなのでしょうが、
僕は待てませんでした。
「すぐに、芸能の仕事だけで食べていきたい!」
と考えました。

そのためには、仕事の量が足りません。
何でもいいので芸能の仕事をしたいと考えました。

色白のコンプレックス。

当時の僕のコンプレックスは、色白で弱そうということでした。
毎年、夏に日焼けをしても、肌の色は赤くなって白く戻ります。
黒くなりません。
小麦色どころか、小麦粉色です。
そこで、開き直りました。
色白で弱そうを武器にしようと考えました。

プロフィールの説明欄に
「美容師、オタク、いじめられっ子、病人、ホストなどの役に適しています。」
と書きました。
そのように傾けたのが良かったのかは分かりませんが、
少しずつお仕事が入ってきました。

いろんな芸能のお仕事をさせていただきました。

肌がツルツルになるムースの広告モデル。

制作会社の方とお話をしていて「そういえば仲野くん色白かったよね。」と言われ、
モデルのお仕事もさせていただきました。
ジャンプとかによく載っている「これを塗ると肌がツルツルになる!」という
ムースの広告です。

僕は、そのムース使用後のモデルです。
事前に体中の毛を剃って来てと言われ、
髪の毛と眉毛以外の体の毛を全部剃ってスタジオに行きました。

スタジオには毛深いモデルさんがいて、
彼はムースの使用前のモデルさんだそうです。

僕はビーチエアに横たわり、両手に水着の女の子をはべらせます。
インタビューされているような設定の写真も撮りました。

ぐるぐるナインティナイン

バラエティー番組も楽しかったです。
ぐるぐるナインティナインという番組の郷ひろみさんがゲストの回の時のこと。
郷ひろみさんの歌を聞いて感動して泣く男たちという役です。

失恋をしたさえない男という設定だったので、
オーディション会場へ向かう所から衣裳、髪型をさえない男でいきました。

無事オーディションに受かり、撮影当日。
ナインティナインさんの真剣さに圧倒されました。
僕の出番はカットされ、代わりに出川哲郎さんが映っていました…。

再現ドラマのオーディション。

事務所には、再現ドラマのオーディションのお話がよく来ていました。
再現ドラマのオーディションは、俳優の対応力を見るためか、
毎回その場で設定を伝えられて即興で演じるというものでした。

即興と言えば、僕は演劇部の時にエチュードをやっていたので、
そこそこ自信はありました。
オーディションでは設定を言われたら、全力で面白いシーンを演じました。

しかし、全くオーディションに受かりません。

インプロを習いに行く。

そこで、インプロを習いに行きました。
ワークショップの会場へ行くと、衝撃を受けました。
僕が知っているエチュードとは全く違うことが行われています。
まず、俳優がウケを狙おうとしていません。
しっかり演技をしていて、その演技がかみ合って笑いになっていくのです。

僕の即興演技で再現ドラマのオーディションに受からない理由がすぐに分かりました。
審査員はネタを見たいわけではなく、俳優の演技を見たいのです。
ウケ狙いの俳優を採用するわけがありません。

最初は「ちょっと習って技術を習得してさっさとやめよう。」と思っていたのですが、
そんなことは全く無理でした。
できないことが多すぎる。
勘違いしていたことが多すぎでした。

吊し上げ。

芸能の仕事が少しずつ入ってきて、僕は調子に乗っていました。
僕よりちょっと上の幽霊部員みたいな先輩に対して
「なんでレッスン来ないですかぁ?
仕事取れてないんだからレッスンしないといけないと思いませんかぁ?」
みたいなこと言って。

くだらないマウンティングですね。

ある日、事務所のミーティングがありました。
八王子にいた時は終電が早くて最後までいられなかったやつです。
今は中野区から自転車できていますから、最後までいられます。

新国立劇場で一緒にオペラの仕事に入っている先輩のオレンジさんが言いました。

「新国立劇場で、担当のクラハラさんが怒ってて、どうしたんですかぁと聞いたんですよぉ。そしたらぁ…

クラハラさん『カツラのことをヅラって言ってる奴がいるんだよ。今度会ったらぶん殴ってやる。』
オレンジさん 『へぇ~、そんな奴がいるんですねぇ。ちなみに誰なんですかぁ?』
クラハラさん 『あの金髪の奴だよ。』

金髪といえば、仲野ともう一人茶髪の奴がいたので、あれを金髪って言ってる可能性もありますがぁ。」

当時、一時期、僕は金髪にしていました。
本番はカツラを付けるからというのと、テンションを上げて現場に行くため。
あとダリオさんのコピーする感覚的に。
しかしアルバイト先で目立ってしまったのでしばらくして黒髪に戻しました。

ヅラと言ったかどうかは、言ったかもしれないし、うっかり言ったかもしれません。

しかし、オレンジさんの言葉に、なんだか嘘くさい空気を感じました。
(いい大人がぶん殴ってやるとか言うだろうか?ちなみにって聞くくらいなのに、なんで金髪か茶髪かは確認しなかったんだろう?)

僕は「はい、では明日、新国立劇場に行って、クラハラさんにその話をして、僕がその本人かどうか聞いて、僕のことだったら謝ってきます!」

と言いました。
しかし、顧問はそれはやらなくていいと言いいます。

で、問題だからミーティングで話題を出したにもかかわらず、
解決策を出さずに次の議題に移ります。

フクロコウジさんが口を開きます。
さっきのオレンジさんの嘘くさい発言に対して僕をフォローしてくれるのかな?

「仲野が話を聞くときに『ほう』というのがえらそうだ。」

ん?

僕は放送作家のメジロさんに教わったことを話しました。
相手に対して「はい」だけでは相手が話す時につまらなくなるので失礼だから、
礼儀としていろんな相槌を打っている。
「ほう」もその一つだと。
それを話すとフクロコウジさんは口ごもりました。

その日のミーティングは、僕の話で終わりました。
ちょっと仕事が入ったくらいで調子に乗って先輩に敬意を払わない僕をつるし上げるのが目的だったようです。
そして、分かったことは、事務所には僕の味方はいないということでした。


今日はここまで。
お読みいただきありがとうございました!

続くよー。


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