お金と体の関係

この間サークルの飲み会に行ったときに、喋ったことのない男の子から「〇〇ちゃんから聞いたよ。お金渡してイケメンとやってるんだって?性欲やば!今はセフレ何人いるの?」という風に話しかけてもらった。大人しくて目立たない空気のような私がどんな風であれ誰かに面白い人生だ、意外とそういう子なんだ、と思ってもらえたのはなんとなく嬉しかった。でも事実はもうちょっと寂しくて暗くて切ないものだったということ、どうせ耳に入らないだろうけど自分を守るために少しだけ書いておきます。

どこから遡ればいいのかわからないけれど20歳(大学1年生)の私は地獄の中にいた。浪人中に付き合っていた人とやっと近距離になれると思って関西にやってきたけど入学直後に振られたし、みんなの妹のような立ち位置でいられた今までの人生と違って年上でいなきゃならないストレスは結構すごかった。後期になったら落ち着いていたパニック障害が復活して教室にまた入れなくなってしまった。(その場に出席だけしてれば「秀」がもらえる体育でぎりぎり「可」をもらうほど。)そんな中で迎えたコロナ禍は思ったよりも楽しくて、学校に通わなくていいことがこんなに気楽なんだなあと思えた。

2020年夏。学校は全てオンラインでサークルは活動休止で、私は毎日アルバイトに通いつめていた。20連勤も普通で、アルバイトに合わせるようにして寝たり食べたりを繰り返していて、人に会うのがつらかったはずなのに(アルバイトでお疲れ様ですを言う人を除いて)誰とも話していないことが少しつらくなってきていた。その中でアルバイト中にレジ締めのミスをしてしまった。「大人しいしよくわからないけれどやることはしっかりやる人」だったはずの私が一気に崩れたような感じがした。

その日の帰り道。このままいなくなりたい気持ちを抱えながら下を向いてゆっくり途方に暮れていた。
「ここ分かりますか?」いきなり誰かに声をかけられた。暗くてあまり顔は見えなかったけど20代前半くらいの爽やかな男の人。いつもだったら無視したのかもしれないけど何もかもどうでもよくなってしまった私は応じていた。帰り際にインスタグラムだけ交換して、相手のフォロー欄やフォロワー欄に誰もいなかったことや相手のユーザー名がフリック入力の一番目に打てるアルファベットの羅列だったことできっと捨て垢なのだろうとわかった。わかったけれど、お疲れ様です以外の会話をする人が一人もいなかった生活にどうしても必要な人だった。

明日もまたこの場所で会おうね、と約束されてそこから三日連続で会った。お菓子や食べ物をいっぱい買ってラブホテルに泊まったりデパートの屋上で持ち帰りのハンバーガーを一緒に食べたりした。多分きっとこのあたりを話すとセフレになるのだろう。何もせず散歩をしただけの日も多くあって一時間行って一時間帰ってこようがぴったりの時間でできるすごい人だった。方向音痴の私はどこを歩いているか全くわからなかったのに相手は地図も見ずに全部わかっていた。散歩の帰りにはいつも違う自動販売機でペットボトルを一本買ってくれて、それが私の思い出になっていた。こんな感じの関係が冬まで続いていた。

2021年春。2月に会って以降その人と会っていなかった。連絡も止まっていて、もう会えないのではないかと考えると苦しい存在になっていた。
「会える?」初めて私から連絡した。
「今〇〇いる?」「いないよ、行こうか?」「俺は行かないけどおつかい行ってきてほしくて!」
麻薬の取引か何かに行かされるのかと思ったけれど、宝くじだった。
200円で買える宝くじ、2通りだから400円で、それくらいならと思って代わりに買ってあげたのが始まりだった。
「825 723 735 832 725 今日はこれで よろしくー」
気づいたら平日毎日送られてくるようになった。気づいたら毎日宝くじ売り場に並んで、気づいたら毎日1000円から2000円くらい宝くじにつぎ込んでいた。更に1万5千円のスマホ代や、相手のおうちに収めるお金2万8千円を毎月取られていた。でも正直、私にはこの毎日がとても楽しかった。毎日私と連絡を取ってくれる人はこの人だけだった。
就活やバイトの時間を縫って宝くじ売り場に行っていたけど、それが大変になってきて、気遣って前もって今週分の宝くじ代を取りに来てくれるようになった。
「鳥いっていい?」「鳥いくね」
後から見て訴えられないようにしていたのかわからないけど、直接金額がメッセージに書き込まれることはなく、取りに行くことも”鳥”と書かれていた。〈お金を取りに行くついでに少しだけ散歩して私の話を聞いてあげる〉、〈会って散歩してくれたお礼にお金を渡す〉、そんな日々が続いた。今考えたら少し怖いけれど、この時の私が幸せだったことはいまだにわかる。自分と定期的に会ってくれる人はこの人だけだった。パニック障害で乗り物や旅行が苦手な私が、近所を散歩するだけの友達を持てたことはとても幸せだった。

お金を渡すようになってからは指一本触れられていない。寂しいから一瞬だけハグしてもいいか聞いて別れ際に数秒間(5000円渡した日は5秒くらい)抱きついたことはあったけれど、相手は固まるだけで手を回してくれることも力を込めてくれることも全くなかった。それでも私は自分と会ってくれて、自分の話を聞いてくれて、どこにもいなくならない人を手放したくなかった。お金を渡してまでも。


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