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【講座レポート】「一人ひとりの気持ちを後押しし、新たな地域活動を生み出す仕掛け ~ 多世代交流や居場所立ち上げのヒント」

渋谷区地域共生サポートセンター「結・しぶや」は、渋谷区内の重層的支援体制整備事業を進めるために2023年11月にオープンしました。福祉制度のはざまにこぼれ落ちる社会課題についていかにサポートしていくかという点に加え、支援が必要になる手前の予防も大切です。超高齢化、少子化など、社会の構造や課題が移り変わる中で、いかに地域で助け合いの仕組みを作っていくかということが日本全体で問われています。
この講座では、居場所の立ち上げを軸に多世代・多様な主体が関わる地域づくりに取り組んできた文京区社会福祉協議会の浦田愛さんを講師に、重層的支援体制整備事業に関わる皆さまのヒントになるお話を聞かせていただきました。

講師:浦田 愛氏 / 文京区社会福祉協議会 地域福祉推進係 係長
日時:2024年1月20日(土)13:30-16:00


10年間で8つの多機能型の居場所立ち上げを軸に、社会的孤立を防ぎ多様な人々がつながる地域づくりを進める文京区の取り組みから、住民のみなさんと課題を共有し、心に火をつけて地域活動として根付いていくまでにどのようなコーディネートを行っていったのかお伺いしました。


距離のあった地域に福祉職が出ていく転換点 ~ 地域福祉コーディネーター1名からのスタート

2009(平成21)年に文京区社会福祉協議会(以後、社協)に入職後、文京区のボランティアセンターで仕事を始め、2012(平成24)年に文京区内の一人目の地域福祉コーディネーターを担当しました。
文京区は大学が多く、端から端まで自転車で20分くらいの距離の中に19校もの大学があります。また、大学に併設する医療機関や大学病院も多いので病院関係者や、その他、法曹関係、金融業の方も多くお住まいです。
一方で、課題を抱えておられる方、例えば、小中学校の就学援助・補助をもらっている人もおよそ1,000人います。団地が少ないので、なかなか課題をお持ちの方が集団化されず、困っている状況が見えにくいために孤立しやすい、格差もあると感じています。教育熱心なご家庭が学校目的に引っ越して来られることも多く、私立中学の入学者数が23区で最多、また、受験する方が8~9割という地域です。そのような背景の中で教育虐待という問題になってしまう事例もあります。

文京区の社協はコンパクトな体制ですが、特徴的なのは地域連携ステーション「フミコム」です。福祉以外のネットワークを作っていく機能があり、さまざまな所と連携し始めて9年くらい経ちます。福祉以外のネットワーク全部と連携するので、つながらないところは無いというくらい、株式会社も含めてネットワークが広がってきたと感じています。

文京区社会福祉協議会の体制

さて、14年前に私が入職した当時、社協は地域に出て行くことがあまりできていませんでした。
関わりのある民生委員さんでさえ、福祉の相談を持ち込んでよいところだという認識がなく、書類など事務的なことをしてくれるところだと思っていたと言われたこともあります。また、地域の町会長はえらい人だから、社協の中でも役職のある人しか電話ができないと言われ、地域との距離感がすごくありました。そこから、2012(平成24)年に地域福祉コーディネーターが1名配置されて、今までの「困ったことがあったら社協に来てください」のスタンスから、「困りごとを見つけに地域に出ていく」スタイルに変わりました。
当初は、地域に出ていくのがミッションと言われても、地域ってなんだろう?どこに行けばいいのだろう?地域福祉コーディネーターひとりでは地域と接点がなく、地域の感触もわかりません。最初は、地域の掲示板を見てイベントに行ってみたり、そこで知り合った人からさまざまな人につなげていただいて知り合っていくなど、一歩ずつ地域に出て行って、社協の意義や価値や、求められることや住民の方が感じているニーズをいろいろなケースを積み重ねながら、分かっていったという感じでした。


住民のやりたいタネ=思いを見つけ育てるのが仕事

現在は10名体制となった地域福祉コーディネーターをまとめる係長の役割を担っています。文京区内には4つの圏域があり、各圏域に2名、やや人口の多い6万人の圏域には3名のコーディネーターと、圏域を持たないコーディネーター1名というかたちで、地域福祉コーディネーター業務を担当しています。
地域福祉コーディネーターの具体的な役割は、個人への支援と地域への支援を一体としてやることです。個人への支援は、とりかえしのつかない状況を未然に防ぐ支援です。ここで重要な点は、未然に防ぐことに取り組んでいる専門職はあまり多くない、ということです。大体は何かが起きて、そのケースがどういう状況かが明確になってから動く専門職が多いなと思います。

何らか課題を持つご本人に直接行う支援、周囲のご家族などへの間接支援、そして、地域支援では、関係形成といって、住民の思い=タネを見つけることをします。地域福祉コーディネーターは、住民の方の「これをやりたい!」ということの芽を咲かせていく役割なので、思い=タネを見つけないと仕事になりません。
いろいろな方にお会いをして、タネとなる思いを見つけて形にしていく立ち上げ支援をし、それが住民の方で一定役割が回るようになってくると、今度は運営支援という寄り添い型の支援に切り替えていきます。
課題がある方のために活動を起こすこともあるし、起こした活動の中から新たな課題を見つけるなど、立体的に取り組むことができます。普段は小地域という日常生活の範囲の中で取り組んでいきますが、その中で解決しないことは全域機能として行政と一緒に仕組みを作っていくことがあります。

社会的孤立をいかに防ぐか、メゾの空洞化

個人支援ではゴミ屋敷が特徴的です。問題が複合的に絡まり難しいパズルになっていて、紐解いていくことが必要となります。ご本人からの相談もありますが、地域の方からの情報提供など、周りから相談が入ってきて、関わりが始まることが多いです。
入ってくる相談内容の多くは、簡単にサービスにつながるものではありません。介護保険を利用したい、など探せばわかるような相談ではなく、もっと複雑になっています。ご本人たちにも紐解けなくなっていることに認識を持ってもらい、解決策をただ示すのではなく、一緒に解決策に乗って肩を並べて歩いていくようなイメージです。その中で、既存のサービス、制度の一部につなげられたり、住民の活動につなげたり、つなぎ先がなければ活動を作っていくようなこともあります。

地域活動の中で、子ども食堂を立ち上げたい、外国人の親子が交流する場所が必要など、いろいろな相談がある中で、「居場所づくりをしたい」という声が圧倒的に多く、文京区内でもこの10年で進みました。必要ないという人はいませんし、住民のニーズだと思います
最初に立ち上がった「こまじいのうち」への視察には、北海道、沖縄、韓国からも来られ、地域性は関係なく、どこにでも必要なものだと思います。居場所づくりをしようとなったとき、住民だけではどういう人を対象にするか、どういうお金でやっていくか、どういう場所でやるかなど考えあぐねることがあるので、一緒に考えて欲しいとご相談に来られます。

そもそもなぜ、居場所づくりが必要なのかというと、社会的孤立が背景にあるのだと思います。地方の方からは、東京は人がいっぱいいるのになぜ孤立が起きるの?と言われますが、東京だからこそ、個人化して、人につながらなくても生きていける社会なので、かえって孤立の問題が大きくなってしまいます。社会的孤立した人から「自分は透明人間になった気分」という表現があり、誰も自分に関心が向けられないという感覚なのだと思いました。

例えば、引きこもってしまっても、障害者サービスや生活保護を使えない、かつ、転職は難しい、といった相談が来ます。制度の狭間で適切なサービスを提供できなかった事例はたくさんあると思います。
私が関わったゴミ屋敷の事例では、持ち主は、元は銀座でOLをされていたようなバリバリと働かれていた方でした。お宅に伺うと、キッチン、お風呂場、階段の踊り場もゴミで埋まって足の踏み場もない状況でした。命を救う支援をするのに、1年半かかりました。地域の方は、状況をよくご存知で、夜中に叫ぶことがあったことや、いつからどうだったという情報をお持ちでした。どうやったら同じような方を救うことができるかと住民の方達との地域会議や、専門職会議の開催、合同で勉強会をしたりしました。おそらく、元気に1人で生きてこられたところに、いろいろな事情が重なって孤立化した結果、自分でもどうすることができなくなってゴミ屋敷という現れ方をしたのだと思います。
関わる住民の方の中で、「もしいま、この人の支援をどうしようかと考えなければ、私が認知症になったら放っておかれるということでしょ?」と言って関わってくださった方がいらっしゃいました。
地域活動の支援は、住民がノウハウを溜めていくことが大事で、地域の中で今後も共に暮らしていく方々の中で、一緒に関心を持ってくださる方が1人でもいてくださることが大事だなと思いました。片付けをしながらご本人のお話を伺っていくと、弟さんがいらっしゃらなくなってから大きく崩れていった様子で、声なき声を感じながら、いろいろな方と協力をしていった例でした。
この件を通じて強く感じたのは、課題を抱えて孤立することはどんな元気な方にもあるのだな、ということです。色々なきっかけが複合的に重なった結果、孤独になって問題を抱えてしまう

マクロ、メゾ、ミクロという言葉で整理すると、サービスや制度といったマクロはあっても、課題を抱えて孤立するミクロの高齢者からは遠くなってしまっている。なぜ遠くなってしまったかというと、今までは「メゾ」と言える、間にある地域に家族・親族がいっぱいいる、社宅なども含め会社とのつながりも多く、町会も元気、小売のお店も元気でした。ただ、時代の変化とともに、この「メゾ」の部分がスカスカになっていて、マクロとミクロの間が大きく開いてしまった。その溝をどう再構築していくか、そこが問われていると思いました。

浦田さん資料より

多機能・中機能・単機能 ~ 多様な活動で居場所をつくる


もっとこうした状況がわかる前にどうしたらいいのかを考えている中で、そもそも、情報が行き交わない、人と人とが知り合っていないので、地域の人がまずは知り合うところからやらないといけないと強烈に感じていた頃、担当していた駒込地区の町会長から「昔はもっとつながりがあったが今はなくなってきている。もっとフラッと立ち寄れる場を作らないとダメだと思っている」と伺って、本当にそうだと思いました。
そのような地域の方のニーズから始まり、本駒込の25,000人のエリアをモデル地区としてニーズに沿って居場所づくりのコーディネートをしていきました。そのモデル地区の成果を一般化し、地域の居場所のゴールイメージをつくり、他の地域でも居場所づくりを展開していきました。多機能型のなんでもフラッと寄れる場があり、週1回くらいの中機能の交流メインの活動、周りにもたくさん月1回程度の活動があります。これを文京区の中で9セット目標に作っていくことを目指していて、いま、ほぼそれに近づいて来ています。
特に重要なのは、多機能型の居場所で、常設型で、地域の気になる人の情報が集まったり、相談までにはいかないちょっとした話をしたいなと思ったり、支援を受けるということではなく、自分の得意を発揮して役に立てる場所です。常設型の居場所であれば、いつも誰かはいるという安心感があったり、箱を作るとたくさんの役割を作ることができるような場になります。

こまじいのうちは、年間5,000人が来場する居場所になっていますが、子ども食堂、高齢者のランチ、赤ちゃん向けのプログラムなど、実行委員会形式にして40名くらいの市民同士で、名前や対象を決めていきました。
現在は、コアスタッフで構成する住民組織があり、毎月1回、地域福祉コーディネーターがミーティングに入って運営支援に入らせていただいています。

居場所を開くと色々な相談が入ってきます。「認知症が進んだのではないか?」「お子さんに向き合いきれていないのでは・・・」という相談に、住民同士の受け答えで終わることもあれば、それ以上のことはコーディネーターにつないでくれるので、そこから、次のネットワークにつなげたりしています。
たまたま、こまじいのうちの隣の家が空いたので、地域子育て支援拠点事業として「こまぴよのおうち」を開設するお手伝いをしました。
区内にはほかにも、多機能型の一つとして病院や企業が関わって立ちあげた居場所や、保健所の許可を得てコミュニティカフェを開いたり、米屋さんを改装した居場所もあります。
まずは、どういう人を呼びたいか、どんな場にしたいかを話す準備会を開き、準備会から実行委員会に移り、プレ開催へ、と徐々に型が成立してきました。この過程を通じて、だんだん、住民の皆さんに自分の居場所と思ってもらえるような働きかけをしていきます。


固めすぎず、広く募り、実行員会形式で自立する

立ち上げのプロセスとして、核となる人で素案を作りますが、この時に固めすぎてはいけないと思っています。それをもとに協力者を集めて打ち合わせをして、広く誰でも参加できる準備会を行い、次に実行委員会をやり、プログラムの確定や助成金申請、コアメンバーの組織化をして、プレ開催、活動スタートに備えていきます。もちろん、要所要所に壁があり、地域福祉コーディネーターを含め誰も答えを知っているわけではないので、関わってくだる方と一緒に考えていきます。

多機能の居場所を断面図として見ると、プログラムを支える仕組みとして、住民の方のネットワークが実行委員会という形でしっかりあり、その上に誰でもどうぞのプログラムがあり、その上に、対象を限定した課題解決型プログラムがある構成になっています。クローズなプログラムと専門職との親和性が高いので、連携をしています。
こうしたプログラムをまとめて、カレンダーを作ることが文京区の居場所では行っていて、居場所で行う活動の時間割を、町会の掲示板や、Facebookなどで発信したりします。

居場所の中にはいろいろなプログラムがあって、高齢者の介護予防系のプログラムや、子ども食堂だけど高齢者の方も来てもいい地域食堂などもあります。多機能型をすぐに立ち上げるのは難しいですが、単機能型や中機能型の活動をやっていくと、居場所をいざ作るという時に入っていきやすくなり、コアな団体となってくださることを考えると、地域の中に色々なタイプの活動が存在することが重要だと思います。
居場所の活動でパン屋さんを開いた事例では、引きこもりや不登校になってしまった若者がアルバイト体験をするということで、一日に200~400個のパンを売って、原価に20円プラスした分が子どもたちのアルバイト代になるのですが、とても好評です。


住民活動とつながる中で、専門職だけでは届かない市民の福祉ニーズが見えてくる

居場所づくりの活動に取り組む中で、ふとしたところで福祉的なニーズが拾うことができます
例えば、中学2年生と子ども食堂の事例です。
その子については、学校も課題を感じていたものの状況がよく分からず、民生委員さんと協力してやっとつながった女の子がいました。今後のつながりのために、子ども食堂のチラシを入れようとすると、「父親に怒られるので入れないで」と言われていました。
ある台風の日、子ども食堂は中止となったのですが、連絡が行き届いていない子が来るかもしれないと念の為に子ども食堂のボランティアの方が待っていてくださったところ、その女の子だけが来てくれたんです。たくさんご飯を食べた後、ぽつぽつと、初めて話し始めました。聞いてみると、両親の離婚後、お父さん方に引き取られ、お父さんとの関係が非常に悪くなった。ご飯を作ってもらえない、お金ももらえない。弟は外食に連れていってもらっているのに、その女の子だけが疎外されている。年に一度、母方のおばあちゃんのお家に行ってもらえるお小遣いで、毎日カップラーメンを買って食べていたことがわかりました。子ども食堂の方から「おばあちゃんの所に逃げた方がいいのでは」と言われて初めて、そうなんだ、と気づいて助けを求めることになったことがありました。
このように、住民活動とつながっていくうちに、専門職だけでは見えないことがふと見えることがあります。また、専門職以外の人が本人の背中を押すような言葉がけがあって物事がぐいと前に進むことがあります。住民の活動やつながりをたくさん作り、また、専門職同士もつながっていって、その間を仲介していくのが地域福祉コーディネーターだと感じています。


【講師プロフィール】
浦田 愛(うらた あい)氏

人口約22万人の東京都文京区。その中の駒込地区で、住民ニーズに応え、住民の自主的な活動を支援する「地域福祉コーディネーター」として2012(平成24)年に配置される。町会連合会、ボランティア・NPO、民生委員、大学を巻き込み、月の利用者が300~400人、子どもから高齢者まで多世代がつながる「こまじいのうち」を立ち上げ、運営にも関わる。また、地域住民・ボランティア・NPO・企業・大学等と連携して、地域の活性化や地域課題の解決を図る協働の拠点「フミコム」の立ち上げ、運営に関わるなど、文京区における地域づくりのさまざまな場面で活躍している。