【2人用声劇台本】voyage record


はじめに

利用規約

本作品は、プラネタリウムドラマ用に執筆したものです。
使用される場合は、次の利用規約を必ずご覧ください。

上演概要

上演時間:約20分
形式:2人組声劇(男女不問)
ジャンル:SF

あらすじ

遠い遠い未来の話。

大宇宙を旅する『ケンタウリの民』は、金色の円盤を拾った。
円盤は、自らのことを『地球』という星からやってきたのだと言った。地球について、そこにある『星空』というものについて語り出す。暗闇と数多の光の粒で構成された半球状の空間――円盤はそれを、星空を模倣したもの『プラネタリウム』と呼んだ。
宇宙船の中で一生を終えるケンタウリの民は、地球の星空に憧れ、恋い焦がれた。そして、何十年もの時間を費やして『アースリウム』を作り上げる。

アースリウムが賑わいを見せる中、ケンタウリの若者『マリナ』は、プラネタリウムへと通っていた――。

登場人物

※すべて性別自由です。記載は参考程度。

◆マリナ(♀)
天文学を学んでいる。年齢は、地球で言うところの20歳前後。
先祖代々『アースリウム』の制作に人生を捧げてきた家の生まれで、小さい頃からプラネタリウムを見て育ってきた。
意欲的な両親の「星が好き」と、それほどでもない自分の「好き」に温度差を感じて、思い悩んでいる。
地の文あり。
※性別変更可

◆マリナ(大人)(♀)
成長したマリナは、星の語り部として、意気揚々と話をする。
マリナと兼役。
※性別変更可ですが、マリナと一致させてください。

◆ウラニア・ムーサ(♂)
金色の円盤に搭載されていたAI。要はプラネタリウム解説員。
『地球外知的生命体と出会い、人類の記憶を伝える』という使命を人類から託されている。
マリナの先祖に拾われ、彼らに地球のことを語り続けてきた。マリナの両親を始めとした『アースリウム』制作者にとってはご意見番のような存在。
大仰で芝居がかった物言いだが、強い使命感を抱いている。
ウラニアにとって、マリナは孫やひ孫のようなもの。
※性別変更可



本文

マリナ(大人):
「みんな、今日は『ムーサ博物座』の冬の公演にようこそ!
我々『ムーサ博物座』は、星々を巡り、美術、歴史、人文、生物、そして天文等々、様々な文化を皆さんに知ってもらうため、興行しています。
そして私の担当は天文であり『プラネタリウム』。私の『プラネタリウム』は、そこらのものとは一味違います。なんて言ったって、地球人が創ったものなんだから。

マリナ(大人):
ところで知ってる? お芝居では、舞台が終わることを『幕が降りる』って言うんだ。舞台の終わり。お話の終わり。だけどね、ここでは違うんだ。幕が降りたら、物語が始まる。なぜなら、『プラネタリウム』というこの時間、この空間では、夜が始まりで朝が終わりだから。

マリナ(大人):
そして今日も、夜の帳が下りてくる。さぁ始めましょう! ケンタウリ生まれのマリナ・ムーサによる『プラネタリウム』、いざ『閉幕』!」


マリナ(地の文):
太陽という恒星の周りを回る、惑星――『地球』。
人類という名の知的生命体が生まれた星。
私たちは、その『地球』で見ることが出来た『星空』というものを模倣した装置を作り上げ、『アースリウム』と呼んだ。
頭上を覆う漆黒の闇と、煌めく数多の光。
それは、『地球』を知らない私たちが、『星空』に憧れ、何世代もかけて創り上げた、舞台装置。

マリナ(地の文):――そして私は、この『アースリウム』が、どうしても好きになれなかった。


マリナ:「『アド・アストラ・ペル・アスペラ』」
マリナ(地の文):私の目の前で、正方形の台に載せられた円盤が回りだす。黒ずんだ円盤はカタカタと小さな音を立てて、やがて指先より小さい光の粒が放たれる。
ウラニア:「『やあやあ、皆の者、目にも見よ、音に聞け! 地球生まれの地球っ子「ウラニア・ムーサ」のプラネタリウム、いざ閉幕!』……なんだ、マリナか。久しぶりだな」
マリナ:「お久しぶり、ウラニア。なんだとは失礼ね。今日まで期末試験だったの」
ウラニア:「なるほど。天文学者の卵さまも、存外お忙しいらしい」
マリナ:「ごめんってば」

マリナ(地の文):なんとも芝居がかった名乗り口上のコイツこそ、『地球』からやってきた旅人。地球外知的生命体と出会うために大宇宙へ放たれた『ゴールデンレコード』。私たちにとっては、『アースリウム』のもととなった『プラネタリウム』そのもの。宇宙空間を漂流していたところを、私のご先祖様が拾ったのだ。
マリナ(地の文):――そして何より、生まれる前から私のことを知っている、私の友達。

ウラニア:「このところ、式典やらなんやらでスバル達が俺を引っ張りだこにしてたからな。ようやくお休みをもらったところだ」
マリナ:「今日がその式典。だからスバル――じゃなかった、お父さんたちはいないよ。ねぇ、今日は冬の星の話をしてくれない?」
ウラニア:「それこそ式典に行けばいいじゃないか。『アースリウム』の二十周年なんだろう?」
マリナ:「それは、まぁ、そうなんだけど……うーん、お父さんたちには秘密だけど、あんまり好きじゃないのよ」
ウラニア:「へぇ、そりゃあ驚いた。先祖代々、『アースリウム』の開発に人生を捧げてきた家の娘がねぇ。スバルたちが聞いたらひっくり返るんじゃないか?」
マリナ:「それ言わないで。親が星空を好きだからって、子供もそうだとは限らない」
ウラニア:「言うようになったねぇ、あんなに小さかった子供が。……なら、今日はお前が先に星空案内をしてくれ。俺はそこに話を足していこう」
マリナ:「えぇー? 頼んでるの私なんだけど」
ウラニア:「いいからいいから」
マリナ:「むぅ……ウラニアが言うなら仕方ないな。――じゃあ、基本の北斗七星から。北の空でひときわ明るい七つ星。あの形は、えっと……ひきゃく?」
ウラニア:「『柄杓』」
マリナ:「ああ、『ひしゃく』『ひしゃく』。北に上る七つの星という意味で『北斗七星』。その端っこの二つを結んだ距離を、更に五倍伸ばしていって――『北極星』。『星空』は、『地球』の自転に伴って回転している。だからほとんどの星は一晩の間にも動いていってしまう。けれど、自転軸上にある『北極星』は、動くことなく北を指し示している」
ウラニア:「応、いい感じだ。そんでどうして北を指し示すことが大事だったかと言えば、特に船乗りだ。島から離れて大海原に出てしまえば、見渡す限り海、海、海。目的地はおろか、自分の居場所を知ることすらできない。大昔も大昔、通信手段もないから孤独なもんだ。そんな時に、方角を示してくれる星は航海の支えなのさ」
マリナ:「船ねぇ。写真でしか見たこと無いや。――あ、そう言えば私たちが住んでるのも宇宙『船』って」
ウラニア:「そうだ、宇宙も海と同じ。だがスケールは雲泥の差だ。俺が太陽系を離れてから先はずっと、最寄りの星まで何万光年何億光年の旅、さ。人類の寿命じゃ、一生かかっても星には辿り着けない」
マリナ:「ふーん。意外と、ウラニアも寂しいとか思うの?」
ウラニア:「旅人はいつも寂しいもんだ。ま、人生を旅だと思えば、誰だってそうだがね。道なき道を往く者には、星灯りが必要なのさ」
マリナ:「そういうものなのかな。じゃあ、次は――シリウス。冬の空で一番明るい――じゃなかった、夜空で一番明るい恒星。そして、おおいぬ座の一部。そのすぐ東側にある明るい星が、プロキオンで、こいぬ座の一部。……何回説明されてもわかんないんだけどさ。星座って言われても、点と点を適当に繋いだだけにしか見えない。特に、二つの星を結んだだけのこいぬ座。ただの直線じゃない」
ウラニア:「そうでもないぞ。俺の製作者が言ってたんだがな、『星座ってのは、ただ星と星を繋いだだけのものじゃない。人と人、心と心を繋いだものでもある』――ってな」
マリナ:「うまいこと言ったつもりかもだけど、説明になってなくない?」
ウラニア:「ふむ。だったらおうし座の話をしよう。おおいぬ座とこいぬ座の西側。V字が目印で、こいつは牛の頭だ。頭からは長い角が二本伸びている」
マリナ:「おうし座は、まぁそれっぽい形してるほうだよね」
ウラニア:「おうし座にはプレアデス星団がある。そしてプレアデス星団の別の名前は――『昴』」
マリナ:「えっ?」
ウラニア:「お前の父親の名前だよ」
マリナ:「お父さんの名前って星だったの!? 珍しい名前だと思ったら……おじいちゃんも星バカだったのか……」
ウラニア:「因みにお前の名前も、惑星探査機の名前からとったらしいぞ」
マリナ:「はぁ!? 初耳、っていうか、やめてくんないかなぁ、そういうの……」
ウラニア:「マリナ、お前……スバルや『アースリウム』のこと避けてるだろ?」
マリナ:「え!? あ…………うん。よくわかったね」
ウラニア:「かまをかけただけだったんだがな。元気がないと思ったらそういうことか」
マリナ:「ずるいよそれ。まぁ本当のことなんだけどさ……」

マリナ:「別にさ、嫌いなわけじゃないんだ。きれい、とか、美しい、とかは、私だって思うよ。だけど、それだけ。綺麗な絵を見たときとか、美味しそうな料理を見たときとかと、同じ。何かしたいってわけじゃない。生まれた時から、星の話を聞かされてきてさ。物心ついた時には、もうアンタとお喋りしてて。私もお父さんたちみたいになるんだ、ってずっと思ってた。それで、学校でもなんとなく天文学を勉強してる。だけど……」
ウラニア:「だけど?」
マリナ:「私の人生をかけてそういうことがしたい、って思えない。だってお父さんたち凄いんだよ? ご飯もろくに食べない、夜もほとんど帰ってこない。なのに、『アースリウム』の前ではいつも楽しそうにしてる。…………私はきっとあんな風にはなれない。
マリナ:だから、私はこれでいいのかな、このままでいいのかな、って……。そんな風にあれこれ考えてたらさ、なんか、お父さんたちが作った『アースリウム』の星空を、見れなくなっちゃった……」
ウラニア:「ふーん…………で、それを俺に言うのか? お前たちに『プラネタリウム』を持ってきた本人に?」
マリナ:「うん……たぶん、ウラニアに話したかったの。お父さんたちは、眩しすぎるから。
マリナ:――私の北極星……どこにあるのかな」
ウラニア:「はぁ。柄にもなくクサいこと言うんだな。全く。地球外知的生命体って言っても、悩むことは人類と変わらないよな」
マリナ:「……」

ウラニア:「もう一つ、冬の星空の話をしてやろう。お前もよく知ってるやつだ。シリウス、プロキオンときたら忘れちゃいけない――ベテルギウス。おおいぬ座こいぬ座の二つと、おうし座との間にある星座、オリオン座。オリオン座は、棍棒を振り上げている狩人の星座だ。
ウラニア:そして、その右肩にあるのがベテルギウス。シリウス、プロキオン、ベテルギウスの三つを繋いで――『冬の大三角』。
ウラニア:地球じゃみんなが知ってる。子供の頃に、大人たちから教わるんだ。あれがシリウスだ、あれが大三角だって指差してな。誰かが星を見上げ、誰かが星を繋いで星座にする。そしてそれを誰かに伝える。そうやって、『星空』は長い長い時を語り継がれてきた。
ウラニア:俺は、人類が地球の記憶をありったけこめた円盤だ。俺の中には、何千年と人類が積み重ね受け継いできた記憶がある。お前たちのような地球外知的生命体に出会い、人類の記憶を伝えること――その使命が、孤独な旅を支える北極星だった」
ウラニア:「……マリナ。お前も、『プラネタリウム』を受け継いでくれないか?」
マリナ:「えぇ?」
ウラニア:「嫌いじゃないんだろう?」
マリナ:「それは、そうだけど……でも!」
ウラニア:「頼むよ」
マリナ:「……わかった。アンタのことも、まぁ、嫌いじゃないから……」
ウラニア:「よかった。約束だぞ。……これで心置きなく帰れそうだ」
マリナ:「え?」
ウラニア:「ずっと一人でやってきたからな。流石に疲れた。スバルたちはうまくやってる。お前たちが作った『アースリウム』も、ちゃんと軌道に乗ったことだしな。……俺は、そろそろ帰りたいのさ。俺たちの故郷、地球に。
ウラニア:ケンタウリの近くでお前たちに拾われてからの数十年は、まぁ賑やかだったな……。ああ……星の海で散り散りになっちまった兄弟にも会いたいな」
マリナ:「え、ちょっと、どういうこと。ああもう色々わかんないんだけど!?」
ウラニア:「じゃあな、ケンタウリのマリナ。お前たちもいつか、地球の人類のところへ会いに来いよ。
ウラニア:やあやあ、これなるは、正真正銘地球産まれの地球っ子、ウラニア・ムーサのプラネタリウム。これにて、開幕――」
マリナ:「ちょっと!?」
マリナ(地の文):掠れるような音を上げて。それきり、かつて金色だった円盤は止まってしまった。部屋が真っ暗になる。私は一人、残されてしまう。

マリナ:「……そんなのずるいよ、ウラニア。私は、アンタの話をずっと聞いていたかったのに……」
マリナ(地の文):天文学者の卵である私は知っている。私たちは異星人などではない。ウラニアが作られた後の時代に、地球を脱出した人類の、その子孫だということを。そしてベテルギウスはもう存在しないということ、冬の大三角はもう繋げないということを。
マリナ(地の文):……ウラニアは、知っていたのだろうか。
マリナ:「本当、ずるいよ。地球の人類何千年の記憶だなんてさ……」
マリナ(地の文):考えてもわからない。けれど。それでも。……約束してしまったのだから、仕方がない。多少強引な形ではあったけれど、ウラニアは私にバトンを繋いだ。なら、私のやるべきことは一つだ。
マリナ:「……はぁ。まずはお父さんに話してみるか」
マリナ(地の文):お父さんたちのいる『アースリウム』へ行ってみよう。今ならまだ、式典に間に合うはずだ。


マリナ(地の文):私たちの船は『アースリウム』を携え、旅を続ける。やがてあの星で、あなたに出会うことができたら。こう伝えよう。

マリナ:
「受け取ったよ、あなたの、あなたたちの記憶。
そしてありがとう、私たち。ありがとう、私たちの記憶。
――ありがとう、私たちのプラネタリウム」


マリナ(大人):「皆様! 長らくのご清聴、ありがとうございました。結局私は、天文学者にも、技術者にもなりませんでした。その代わりにこうして、星々を巡る一座にて、語り部を務めているというわけ。
マリナ(大人):さて、夜の幕は上がり、私のプラネタリウムはこれにて終了です。
マリナ(大人):――そしてここからはあなたたちの番。あなた達が繋ぐ星物語の、幕開けです。それではいざ――『開幕』!」



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