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新著「社会をよくする投資入門」で伝えたかったこと

本日5月27日(月)、「社会をよくする投資入門」がNewsPicksパブリッシングから出版された。単独での執筆は13年ぶりとなる。昨年、ある編集者に「本を書こうと思う」と相談した際、「あなたには本を書く資格はあるか。本を書く覚悟はあるか。」と問われた。本を通して自分の想いや経験を言語化する時、その人の人生が映し出される。編集者の言葉は、あたかも「あなたは本を通じて世の中に何かを問えるだけの人生を歩んで来たのか。」と問いかけられているかのように感じた。

自分に本を書く資格があるのかどうかは分からない。しかし、投資と向き合い続けてきた人生を通じて、「投資とは何か」をあらためて見つめ直し、読者にもその何かを感じて欲しいと思い筆を執ることにした。

このように書くとなんだか固い印象を受けるかもしれないが、新NISAが始まり投資に関心を持つ人がふえる中で、「もうNISAやってるよ」という方にも「どこからはじめたらいいかわからない」という方にも投資について考えるきっかけになればと思いながら文章をつづった。

今回のnoteは、新刊『社会をよくする投資入門』で特に伝えたかった3つのことを本文の中から編集・要約してみたい。


お金をふやすことと「社会をよくする」ことは両立する

将来が不安で、お金をふやすために投資をしようとしているのに、「社会をよくする」なんて、「そんなお人好しなことは言っていられない」と思う人が多いかもしれません。「社会をよくする」というと、お金をふやすことの反対にある「寄付」をイメージしたり、「経済的な利益が犠牲になりがちなのでは」と、疑問に思う人もいるでしょう。けっしてそうではありません。

お金をふやすことと「社会をよくする」ことは本来両立するのです。

「社会をよくする投資」とは、経済成長を主目的とした投資ではなく、社会そのものに新たな価値が生まれるお金の流れを意味します。それは、同時に社会の変化を起点にした経済価値の創出でもあり、投資する人からすれば利益(リターン)の源泉ともなるのです。

会社が単にモノやサービスを増やし、規模の経済を追い求めて成長する時代は過去のものです。社会が直面する様々な課題から自社の存在目的、顧客や社会のニーズを掘り起こし、新たな事業を創出したり、モノやサービスに新たな意味づけを行うことができれば、売上、利益を伸ばすことにつながります。それは、新たな社会への転換であり、あらたな経済領域の創出といえるでしょう。そうすれば、会社の価値は高まり、株価も上がり、投資したお金は増えて投資家の手元にもどってくるのです。

投資に求められる第三の軸

投資商品の多くは、ノーベル経済学賞を受賞した米国の学者らによって確立された投資理論に基づいて運用されています。単純化して言えば、異なる二つの軸、すなわち投資する有価証券や投資商品の価格の変動を表す「リスク」と、投資したお金がどれだけ増えるかの期待値(リターン)を測り、取るリスクに対して得られるリターンを出来るだけ高くしようとする投資の考え方です。

しかし、この半世紀以上にわたって色あせることのない投資理論のなかで決定的に欠けているものがあります。それは、金融市場の中、つまり金銭価値だけで論理が構成されているという点です。この投資理論の完成度の高さゆえに、投資家は思考停止に陥り、本来、多様で、かつ社会や経済をよりよい形で発展させるための深みのある投資が、2つの数字で単純表現され、それ以外のものを見ようとしていないように感じるのです。

多くの人が暮らす社会は、資本主義経済の仕組みの上に成り立っています。その仕組みを動かしている主役は「会社」であり、さらにその大元は投資が生み出したものといっても過言ではないでしょう。資本主義社会を自動車に例えるなら、会社が車を動かすエンジンであり、投資はエンジンを動かすガソリンのような存在です。そうした意味で、投資と会社は、経済を推進する動力であり、その活動の結果が社会のありかたを形づくります。

投資家が投資の先にある社会に目を向けなくてはならない理由がそこにあります。投資家は意図しないうちに、社会や未来に対する責任を負っているのです。

後世にリスクを押し付け、リターンを前取りするような投資は避けなくてはなりません。どうせお金を増やすなら、リスク・リターンだけではない第3の軸、
1. 単にお金を儲けるだけではなく、いい社会をつくる投資
2. 単にお金を儲けるだけではなく、いい未来をつくる投資
3. 単にお金を儲けるだけではなく、自分の成長につながる投資
という新たな軸を含めてはどうでしょうか。

投資にも自分らしさがあっていい

 
投資の世界では、途中の経過はどうであれ最終的に「どれだけお金がふえたか」ですべてが測られます。そのため、投資商品を選択するとき、「いかに効率的にお金をふやすか、いかに手数料が安いか」に目が向いてしまい、標準的で均質的な投資商品にお金が集中する傾向にあります。

まるで皆が金融市場というレストランで、同じ服を着て、コスパの良い同じオススメ料理を食べているような光景です。しかし、皆が個性を持たずに同じ思考をしていても新たな価値が生まれることがないように、同じ方向に向かってお金が流れても新たな価値が生まれることはないでしょう。

投資から見る景色は、あなたが気に入った服を身にまとうように、百人百通りです。お金をふやすことは手段であって目的ではありません。目的は人それぞれに異なるものです。自分の生き方に合った投資、自分らしい投資に出逢ったこうした人たちは素敵だと思います。

すべての投資商品は、お金がふえた、減った、というようにすべてが数字で表現されます。しかし、投資の先には、人の営み、会社の営み、社会の営み、さらには未来が必ずあります。誰かが何かに取り組む真剣な眼差し、想い、ぬくもりがあります。あなたのお金は、決して自然現象でふえているわけではありません。もちろんお金を託された運用者も必死に投資家の期待にこたえようと頑張っています。

それだけに、投資商品にも、食べ物や着る物と同じように、味わいや手触り感が伝わったらいいのに、といつも感じます。投資にも多様性とあなたらしさがあっていい。なぜなら、投資は本来お金をふやすだけではなく、多くのつながりを生み、いい社会、いい未来をつくり、心の豊かさを育むものでもあるのだから。世の中にそうしたことが実感できる投資商品が増えることを願っています。

今回もnoteにお付き合いいただきありがとうございました。「社会をよくする投資入門」を手に取って下さった皆さまが、投資を通じて、いい人生を歩むことを願っています。
>>「はじめに」の全文を以下のページで公開しています。


書籍について


社会をよくする投資入門 -経済的リターンと社会的インパクトの両立-

価格:1,980円(税込) 発売:2024年5月27日

<見出し>
第1章 「社会をよくする投資」とは何か
第2章 リターンの大元は「事業」である
第3章 経済の海と金融クジラ
第4章 「欲望」が集まる金融市場の構造
第5章 投資の「新しい選択肢」
第6章 「社会をよくする投資」の実践
最終章 投資の先にどんな「10年後」を描くか

全国の書店やAmazonでご購入いただけます。
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4910063366


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