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経済と社会と投資のつながり (その1)

11月22日に閣議決定した政府の総合経済対策では、先の衆議院選挙で躍進した国民民主党が公約として掲げた「手取りを増やす」政策の柱、所得税減税の手法としての「控除の拡大」、いわゆる「103万円の壁」対策やガソリン税の一部を軽減する「トリガー条項」の凍結解除などが盛り込まれ、国民の関心が高まっています。

さらには、自民・公明 与党が選挙公約で掲げた、低所得者を対象とした給付金支給、電気・ガスなどの公共料金の負担軽減策も盛り込まれました。国民の生活不安を解消するためのセーフティーネット対策は必要とはいえ、バラマキ型の財政支出の拡大に歯止めがかかる気配はありません。財政支出は、いったいどこまでふえ続け、次世代の負担を膨らませるのでしょうか。


1. 求められる経済の構造転換

近年、株価は堅調で、経済成長の指標であるGDPも右肩上がりで推移しています。こうした表面的な経済指標は上がっているにもかかわらず、今回の選挙で浮き彫りになったように、国民生活の安心、いわば社会の安定に必ずしも結びついていない状況は、何を意味するのでしょうか。

ただ単に規模の経済を拡大させることを目的として形づくられてきた社会構造から、社会をよりよくするための経済構造にどのように転換させていくか、という大局的な視点に立った叡智が求められていることを意味すると感じます。

こうした問題意識から書いた書籍が「社会をよくする投資入門」でした。

投資は、経済を動かす原動力であり、経済は私たち一人ひとりの生活を支える所得を生み出します。そして、そうして成り立つ生活の集合体が社会ともいえるでしょう。全ては密接に関係しています。

しかし、市場経済が大きくなればなるほど、経済がグローバル化すればするほど、投資と経済、さらには私たちが生活する社会とのつながりが感じられにくくなってしまい、その隙間から様々な社会課題が生まれています。

そこで、これからは、ただ単にお金を効率的にふやすという視点に立った投資ではなく、社会課題を解決する新たな市場を創造したり、本業を通じて社会課題を解決する会社や事業をふやす投資が求められると思っています。

2. 人と社会、社会と経済の関係

しかし、そもそも投資と社会がどうつながるの、そんな素朴な疑問を持つ人も多いのではないでしょうか。そうした疑問を、簡単にある村の物語を通して紐解いてみたいと思います。まずは、人と社会、社会と経済の関係を簡単に整理してみましょう。

① あなたと社会のつながり

あなたは、ある小さな島に住んでいるとしましょう。この島では、あなたとその家族を含めて100の家族が暮らし自給自足の生活をしています。島民は一緒に農地を耕して野菜を収穫し、漁や狩猟をしながら、お互い助け合いながら暮らしています。これが社会の原風景です。社会とは、人と人とが互いに支え合って暮らしを営む場所や環境、関わり合いをいいます。その最も小さな単位が家族です。

② 社会と経済のつながり ~社会を円滑に動かすための経済~

時が経つにつれて、共同で作業をする中でも人によって向き不向き、得意・不得意が出始めます。ある人は田を耕して稲を育てることが得意であり、ある人は海で漁をすることが好きになりました。また、ある人はとても器用で、綿から糸を紡ぎ、布を織り始めました。

人と人とが社会の中で役割を分担し始めたのです。分業の始まりです。そして分業によって様々なモノが作られ、互いに欲しいモノを融通し合う物々交換が始まります。やがてその対象となるモノが増えると、島民たちは物々交換の相手方を探すことに不便さを感じるようになります。そこで、あなたは島民たちにこう提案します。「互いに作ったモノを一か所に持ち寄り、欲しいモノをその場で見つけて交換する仕組みを作ってはどうだろうか」。物々交換のための市場の誕生です。

こうして人々が生活するために必要なモノやサービスを融通しあう仕組みができました。あなたも島民も一所懸命に働き、物々交換によって家の中には便利なモノがふえて豊かさを実感するようになったのです。このように、分業と、分業によって作られるモノやサービスを交換する仕組みが経済です。

③ 経済とお金のつながり ~経済を円滑に回すためのお金~

物々交換が活発になり、島の市場には、食べ物だけではなく、食器などの日用品、装飾品などもならび、どんどんモノが集まるようになりました。この頃になると、商いとしてモノを生産する人や床屋のようなサービスを生業する人も出始めます。

こうしてモノやサービスが増えてくると、その価値にも差が出始めます。誰もが大量に生産できるモノの価値は下がり、あまり手に入らない珍しいモノやサービスの価値は上がります。需要と供給の経済原則です。

そうなると、例えば時間と手間暇をかけて織った絨毯と日持ちしないたくさんの魚とを交換することが難しいように、単一のモノ同士の交換だけでは釣り合わない場合が出てきました。さらに、市場に持ち寄るモノが増えれば、その分だけ物々交換のパターンが増えて複雑になり、市場が上手く回らなくなりはじめたのです。島に暮らす家族も随分と増え、あなたが知らない人の方がはるかに多くなってきました。見知らぬ人同士の交換交渉はとても面倒なものです。

そこであなたは、モノやサービスの交換を便利にする方法はないものかと知恵を絞ります。ある日、海辺を歩いていると、美しい貝殻が目に止まります。島には、こうした美しい貝殻が多く、あなたはそこに目をつけます。その貝殻に、この貝殻にはいくらの価値があるとラベルを張り付けて何とでも交換できる共通ルールをつくったのです。島民はそのルールに従い、その貝殻は、交換手段として、その価値が信用されるようになっていきます。お金の始まりです。貝殻はやがて持ち運びがしやすい貨幣へと進化するのでした。

こうして、島の中では様々なモノやサービスの生産が増え、取引も活発になってきました。島人が欲しがるモノやサービスを誰かが生産し、市場で流通させ、買ってもらい、そこから生まれた儲けを再び生産につなげます。その循環によって経済はどんどん広がりを見せたのです。

このように経済は、貨幣の登場によって急速に拡大しました。これが貨幣経済の基本的な形です。島人にとって何でも手に入れることができる貨幣をたくさん持つことは喜びになり、豊かさの証だと感じるようになりました。そのために手に職をつける人や家族で商売する人が増えてきました。

人々の島での暮らしは、農耕などでかつての共同体としての姿を残しつつも、分業による経済的なつながりで廻り始めるようになります。社会は、発達した貨幣経済に適合しやすいように変貌していったのです。

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