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いちごのショートケーキにタイムスリップ

私はアメリカ在住のスカーフ作家です。

オンラインショップで贈り物用スカーフの注文がありました。
どんな人がどんな人に送るのかを想像しながら、ラッピングしました。青のシルクスカーフを透明の袋に入れて、ギフトカードに40歳のお誕生日おめでとう。白い箱に茶色のリボンをかけてセージ色のスティッカーを貼りました。気に入ってくれると嬉しいです。

ふとラッピングをしてる時に、子供の頃によく行ったケーキ屋さんを思い出しました。
丘を駆け下りた商店街にはニューモントというケーキ屋さんがありました。いつもショーケースには沢山の作りたてケーキが並べられていました。その奥にはコック帽をかぶったおじさんがケーキを作っていました。ケーキを指をさしながらこれとこれとこれとこれ、くださいと注文すると、エプロンに三角巾をつけたおばさんが一つ一つ丁寧にケーキを箱にいれてくれました。おばさんの手はリズミカルにリボンと包装紙をくるくると箱に巻き、その手の動きは踊りで紙とリボンの音は音楽で、奥の厨房は甘い香りのあったかふかふかケーキたちも一緒に踊っているようでした。
お代を渡して、箱のリボンを小さな指に下げて、丘を早足で登っていきました。ケーキが崩れないように注意しなさい、駆けて転んじゃだめよと母にいわれました。ケーキを食べる時間は午後3時。
チョコレートケーキ、モンブラン、シュークリームなど、でもケーキといえばやっぱりイチゴのショートケーキでした。

ショートケーキは日本のケーキの王様。欧米からの美味しいスイーツが現れてもいつの時代もナンバーワン。その理由の1つがイチゴ。11月ごろから出回り始め、4~5月にシーズンを迎えて今が旬。イチゴの生食での消費量は日本が世界一と言われているそうです。それも納得300種類のイチゴ品種。春といえばイチゴ。季節に言葉をつけて食を楽しむニッチな国民ですが、ここまでイチゴを究極につきつめた品質の高さは想像を超えています。日本のとちおとめ、あまおうなどイチゴは益々グレードを上げて美味しくなって、宝石のような輝く表面、プチプチ種とみずみずしさとのバランドがとれた質感、究極の甘さと香りはまさに芸術品。それぞれのイチゴの違いも、それをあしらったショートケーキも食べたくなる春です。

1980年に発売された漫画、ドクタースランプ、アラレちゃんでマンモスイチゴのショートケーキがでてきました。
おませなおかっぱ少女皿田きのこの大好物ですが、ケーキの王道、不二家のキャラクターペコちゃん似のママとポコちゃん似のパパと一緒におやつのショートケーキを食べます。ケーキに乗ってる大好きなマンモスイチゴを最後に食べようと取っておいたら、パパに「おや、嫌いなのかい?」と食べられてしまいます。好きなものは最後にとっておく派のきのこちゃん、空気の読めないパパへの怒りから『グレてやる』と家をでてしまう話です。実際、家出をするけれど、お腹が空いたので夜ご飯には家に戻りました。5歳児の性格形成がみごとに描かれていましたね。あれから40年経ってますが、大きすぎるありえないイチゴのショートケーキと美味しいものを最後に食べる派のロマンと贅沢が合わさった80年代の心がいつまでも響きわたっています。

今日、偶然、車の中で聴いた音楽の歌詞です。
”残りのケーキを食べよう。崩れたイチゴと乾いた生クリーム”
錆から生まれた実(果物)の音楽です。映像芸術・束芋× 音楽・平本正宏
コロナ禍の直前2020年3月7日のニューヨークで観た映像芝居(パフォーマンス)です。
タイトル『錆からでた実』の意味は「錆」という鉄が酸化して安定した状態になろうとする工程の中で、不安定と安定を繰り返して、実を作る。
紗幕の後ろで照明や映像によって見え隠れしながら、音楽を生演奏し、
映像は束芋がプロジェクター3台でリアルタイムで操作しています。ダンスと映像、音楽が一体となって絡み合う舞台、それが映像芝居です。
映像にイチゴのショートケーキが登場しましたが、束芋の描くショートケーキはおどろおどろしく、怪しげです。
日常が侵食され、錆びた実が自分に絡んでくる、様子は映像芝居ならではの迫力でした。その実は私たちなのでしょうか。

春は全ての生き物が眠りから覚めて、動き出す季節。実はとっても不安定。

どうやら私も春イチゴのショートケーキと日常の間でタイムスリップしてしまったようです。皆さんも迷走に気をつけましょう。


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