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【エッセイ】4%の世界 #創作大賞2024

法務省によると、選択的夫婦別姓の審議が始まったのが平成3年(1991年)だそう。つまり、30年以上審議し続け、未だになにも決まっていない、ということです。変えるつもりはないんだな、と思うばかりです。

そうは言っても、もっとおかしいんじゃないかと思うことがあります。ぼくは結婚する際、妻の姓を選んだわけなんですけども、同じように、夫が妻の姓になった割合がおかしすぎます。何%かご存知ですか?

答え、4%!

現行の法律では、こうあります。

夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する

民法750条

夫又は妻の氏を称する。
夫又は妻の氏を称する。

もう一回。

夫又は、妻の氏を称する。

なんですよ、みなさん。なんで、4%なんですか! おかしすぎませんか!

これは夫婦別姓のように、まだ審議中のものではありません。別に夫の姓にしなくていいんです!

春にスーパースターの大谷翔平さんが結婚されて、大変話題になりました。密かに、彼が奥さんの姓を名乗ってくれたら、ってぼくは思っておりました。二刀流で常識をことごとく覆している彼が変えてくれたら、日本はきっと衝撃的に変わっただろうなあと思ったのですが、やはり変わりませんでした。

なぜ、この4%の世界がまかり通っているんだろうって考えたとき、それはやっぱり男性にとって都合がいいから、ということなんだと思います。だって、政治家はほとんど男ですし、女性も男社会の中で男性性を意識しないとトップに立てないようになってる気がするので。

ぼくは改姓のために、身分証なりキャッシュカードなり住民票、戸籍、携帯名義、各種アカウント情報……いろいろと変えたんですけど、警察署に行ったりとか、はんことか職場での手続きとか、めっちゃ大変なんですね。その「大変」の96%を女性が受け持ってるわけです。つまり、大抵の結婚した男性は、その大変を経験しないので、はっきり言って楽です。あたかも、それが「結婚」なんですよ、って言ってるみたいに。だって、96%やってくれるんですから。

そういえば、「探偵ナイトスクープ」で、結婚するときに妻が名字を変えたくないので、夫と騎馬戦で戦って勝った方の名字を名乗る、っていう回がありました。

面白おかしくやっていましたが、そんなことする必要があるのかなあとぼくは思ってしまいました。結局、妻が負けてしまって、夫の姓を名乗ることになるんですけどね。

そりゃあ、夫側にも言い分はあるでしょうが、言い分があるのは女性も同じはずで、当たり前のように女性が名字を変えるという世界でなければ、もう少し考えが柔軟になったのでは。ちゃんと50/50くらいの感覚の世界だったら、まず「名字、どうしようか?」という話し合いから始まるはずです。
それが96/4じゃ始まるわけがありません。

こんなこと言ってますが、ぼくも妻が「自分の名字が気に入ってるし、自分じゃなくなるような気がするから変えたくない」と言われなければ、4%側にはいなかったと思います。やっぱり楽だから。楽なほうがいいから。

けれど妻のおかげで、それを恥じました。96%のすべての女性がそうだとは思いませんが、その中の何割かの人は、実はモヤモヤしながら変えてるかもしれない。モヤモヤしなくても、それで生じる大変さを受け入れている、そういう想像がそれまでできなかったことを。

ジブリ映画「千と千尋の神隠し」では、千尋が「千尋」という名前を奪われ、「千」となってしまいます。「千」と「千尋」の生きる世界は明確に違います。

ぼくは名前を奪われたわけではありませんし、今の自分の名前を生きる世界が好きですが、旧姓の自分もまた、それはそれで愛しく思っています。

そういうことを、もっと知ってほしいという思いがあります、とくに男性に。別姓や事実婚を望む人もいると思うので、あくまで現行のルールの中では、という話ではあるのですが。

名字が変わっていいこともお伝えしておきます。新しい姓で呼ばれると、気分が違います。自分であるけど、自分じゃないみたいで、ちょっと客観的になれます。その名前で怒られても、「それ、俺じゃねーし」とか思ったりします。

あと、新しい名字をモジッたあだ名が、なんか嬉しいです。旧姓で呼ぶ旧友が、なんかやたらと尊く思います。いろんな自分をいろんな人が知っているような感じです。

そして、やたらと相手の家族がよくしてくれます(というのは、名字と関係あるのかわかりませんが)。

まあ、とにかく、これから結婚される方、今のところの法律婚では、どちらの名字になってもよい、ということをお忘れなきよう。妻の名字を名乗っても「婿養子」ではないということも、付け加えて。

4%の世界は、いいものです。

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