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サブスクリプションを成功に導くデザイン

この記事は、Appleが提供している「Designing for Subscription Success」というタイトルの動画について、自らの考察を交えながら文章に書き起こしたものです。

近年、多くのサービスが「サブスクリプション」と呼ばれるビジネスモデルを取り入れています。例として、SpotifyやNetflixが挙げられます。人々がモノやサービス毎にお金を払うのではなく、それらを一定期間利用できる「権利」に対してお金を支払うようになったのです。

今回はアプリのデザインに関わる者として、冒頭で紹介した動画から得た学びをnoteにまとめて整理します。(翻訳のミスがあれば、ご指摘頂けると幸いです。)


サブスクリプションの成功を導く3つのデザイン原則

多くの人にとって、サブスクリプションの登録作業は、複雑でめんどくさいイメージがあります。

動画では、上記のイメージを払拭し、ユーザーにとって良い体験を提供するために、以下3つのデザイン原則を紹介しています。

1. Effortless(努力を要しないこと)
2. Transparent(分かりやすいこと)
3. Engaging(魅力的であること)

3つのデザイン原則をまとめると「Make it easy to subscribe(登録しやすくしよう)」になります。順番に見ていきましょう。


1. Effortless(努力を要しないこと)

Effortless(努力を要しないこと)は、具体的に次の項目に分けられます。

Be visible(機能を把握していること)
ユーザーにサブスクリプションの登録導線を探させるべきではありません。

Remove friction(登録までの手間を取り除くこと)
ユーザーに必要以上に情報入力を求めるべきではありません。

具体例:Be visible(機能を把握していること)

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引用元:Designing for Subscription Success

動画内で紹介していた「The New York Times」を例に見てみましょう。
The New York Times」は、登録導線が記事詳細画面のヘッダーとフッターに設けられています。実際にアプリを触ってみると、登録導線の表示は控えめ。そして、スクロールに応じて登録導線の表示・非表示をおこない、記事に対する没入感を損ないようにデザインしていることが分かります。常に登録の訴求をしていますが、インターフェースに上手く溶け込んでいるので、押し付け感がありません。

具体例:Remove friction(課金までの手間を取り除くこと)

スクリーンショット 2020-04-02 16.51.22

引用元:Designing for Subscription Success

上記のデータは「サブスクリプション登録までのクリック数」と「コンバージョン率」の関係性を表しています。データから、登録までのクリック数を少なくすれば、コンバージョン率が上がることが分かります。あくまでもサンプルではありますが、作り手はユーザーが登録に集中できるように、不要な情報入力を求めないことが大切だと言えます。


2. Transparent(分かりやすいこと)

Transparent(分かりやすいこと)は、具体的に次の内容を指します。

Provide clear terms(明確な条件を提供しましょう)
ユーザーが「サブスクリプション登録によって得られる体験」と「登録方法」を理解できるようにしましょう。彼らが明確な条件を理解できれば、登録の意思決定がスムーズにできます。

具体例:Provide clear terms(明確な条件を提供しましょう)

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引用元:Designing for Subscription Success

動画ではMLB(メジャーリーグ)のアプリを良い事例として紹介しています。ここでは何よりも、一画面で情報を分かりやすく簡潔に伝えることが大切です。そして、サブスクリプションの登録画面内に含めるべき情報を以下のようにまとめています。

Value proposition(アプリの価値)
Call to action(行動喚起)
Sign up(新規登録)
Multiple tiers(複数の選択肢)
Log in(ログイン:既存会員のための導線)
Restore(復元:デバイスを変えた会員のための導線)
Terms and conditions(規約)


3. Engaging(魅力的であること)

「Engaging(魅力的であること)」は、具体的に次の内容を指します。

Engage through experience(体験を通じてアプリへの興味を引く)
・「服を試着する→気に入る→購入する」
・「家を内見する→気に入る→契約する」
現実世界に即して、アプリの世界でも”試す”という体験は意欲を促進させる上で効果的な手段です。

体験を通じてアプリへの興味を引く3つの方法
それでは、どのような体験を通じてユーザーにアプリへの興味を持ってもらうのでしょうか。動画では次の3つの方法を紹介しています。

1. Free trial(フリートライアル)
一定期間のみ、アプリの全機能を利用できる。
2. Premium feature(プレミアム機能)
一部の機能は無料で利用できるが、メイン機能は課金をしないと利用できない。
3. Sample content(サンプルコンテンツ)
全てのコンテンツにアクセスできるが、制限が設けられている。

具体例①:Free trial(フリートライアル)

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フリートライアルは、確立されたブランドを持つサービスにおいて最も効果を発揮します。
例えば、ユーザーはYouTubeのサブスクリプションを登録すると「広告無しで快適に動画を視聴できる」と知っています。そして、フリートライアルを数ヶ月体験すると、以前の「強制的に広告を見せられる無料プラン」には戻れなくなります。

確立されたブランドを持つサービスは、質の高い・豊富なコンテンツを持っています。ユーザーはフリートライアルを活用すると、サービスの価値を実感できます。そして、いつしか無くてはならない存在になり、サービスが生活の一部となります。結果として有料会員の増加が見込めるのです。

具体例②:Premium feature(プレミアム機能)

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プレミアム機能は多くのアプリが取り入れています。例えば、Pairsの検索機能はほとんど無料で利用できますが、一部の機能はサブスクリプション登録をしないと利用できません。また、男性は女性からメッセージを貰えても、登録をしなければ開封できない仕組みになっています。この仕組みにはいつも感心させられますが、彼女が欲しくてたまらない男性にとっては登録せざるを得ません...。
NewsPicksの例も紹介すると、ほとんどの記事は無料で読めますが、オリジナル記事は冒頭のみが読めて、続きを読む場合は登録をする必要があります。

プレミアム機能は「痒いところに手が届かないユーザー」に対して有効な手段だと言えます。

具体例③:Sample content(サンプルコンテンツ)

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サンプルコンテンツは、ユーザーがサブスクリプションの登録をしてまでサービスを使う価値があるかを判断するのに役立ちます。
例えば、Mediumでは無料会員でも全ての記事を読めますが、1ヶ月で読める記事数の上限があります。もし上限を超えると、記事の冒頭は読めても続きは読めなくなります。そして、続きを読む場合は有料会員になることを求められます。

ユーザーはサンプルコンテンツを体験することで、自分にとって必要なサービスかどうかを判断できます。そして、必要だと判断すればサブスクリプションの登録をして全てのコンテンツを楽しみ、不要であれば無料会員としてサービスを定期的に利用します。逆に言えば、サービス提供者はユーザーが欲しいと思える価値のあるサービスを作らなければ使ってもらえないとも言えます。


まとめ

アプリを存続させるためにはビジネスとして成り立たせないといけません。そのためにサブスクリプションという手段があります。そして、この記事では具体的な手段をまとめました。しかし、前提として作り手は価値のある・質の高いサービスを作り続けることを忘れてはいけません。動画内でも語られていますが、作り手の一方的な押し付けによる訴求はマイナス効果でしかありません。必要なのは、ユーザーの体験を俯瞰的に捉えて、適切なコミュニケーションを設計することです。

近年は似たようなサービスが次々に生まれています。ユーザーは自分にとって必要なサービスを選び、使い続けます。そして、不要なサービスは解約するだけです。作り手として継続的に利用してもらうためには、日々の改善を怠らず、ユーザーにとって本当に価値のあるサービスを作り続けることが求められているのです。これは作り手にとってはやりがいのある仕事とも言えます。一個人としては、長く愛され続けるサービスを作りたいと思います。


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