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ピックアップしてワオワオ!逆噴射小説大賞2019

CORONA の黄金を求めて小説の冒頭 800 文字で戦う、第 2 回逆噴射小説大賞の 2 次選考結果が発表されましたね。

そりゃもうドキドキワクワクしながら待っていました。選考通った方はおめでとうございます。あの中に CORONA の黄金を手にする作品があると思うとまたドキドキワクワクしてきますね。

応募期間中は自分も参加していたのもあり、あまり他の方の作品から影響を受けたくないなと考えて、タイムラインに流れてくるのも読みにいくのを控えていました。

んでもって、結果発表されたので二次選考通過作品からピックアップしてワオワオしていくよ。前回はピックアップワオワオしなかったから、今回はワオワオしたくてしょうがなかったんですよ!

・106つ、または107つ、ないし108つのジョー・レアルの生首

皆さん言ってますがこれは凄い。序文で何を中心にした話なのかが宣言されて予想からどんどんズレていく。登場人物についての必要最低限で十分な特徴づけ。

ジョーの首、ジョーの首、ジョーの首……が7つ。

字数制限の中でこの贅沢な使い方!

先にジョーの、クソッタレのジョー・レアルの話をしておきたいと思う。

で場面をひとまず切り上げて字数制限の後に何が続くか宣言しているのもチョー良い。引きで終了することの不味さみたいな話は選考の方のメモにも出てましたが、じゃあこれは理想なんじゃないでしょうか。

・死の翼ふれるべし

めちゃくちゃ本格仕様。明らかに文体が怪奇や幻想小説のそれ。

テキストサイト管理人になりたかった

なんてプロフィールに書いている人のスタイルではないでしょう。テキストサイト管理人ってそりゃ色々いましたけど、今となってはオモコロ・デイリーポータル Z がその名残として君臨しているわけで。でも Twitter の方のプロフィールはこうです。

メンタルはセンチメンタルの実に100倍である

確かにテキストサイト管理人になりたかったんだろうなと思った。

アルフォンス・ミュシャ:死季」や春先に出ていた「徒歩3年」なんかの一つ一つのアイデア出しは楽しそうでテキストサイト感ありますよね。でも描写や文体に落とし込むところは全部ガチだぜ。

・DOPEMAN

初代チャンプ。

今回の選考に投稿する前にチャンプが前回投稿してた作品を一通り読み返しました。あとスヌープドッグ。

でね、本作もそうなんですが会話のテンポが全部良い。多分ラップバトルなんだと思う。いや、小説や映画のインプットもあるんでしょうが。最低限の言葉のやり取りがリズムを生んでる。

HIPHOP、とくにギャングスタラップは知性と暴力性が同居した稀有なジャンルでそのスリリングな作風がパルプに通じるものがあるんじゃないかと思う。

知性と暴力性。それはテーマを HIPHOP から大麻とかへズラした今回の作品群にも受け継がれていると思う。何でも大麻は日本では違法かつアメリカでは合法な州もあるような立ち位置なので、低倫理さがエンタメとして扱いやすいんだとか。イーロン・マスクが自社製トラックの運転席で大麻をキメつつ(なんかの配信の時にキメてて問題になった)宇宙開発の歴史について語ったら良いサイバーパンクになるんでないか。

・上海ギャングスター

これはねぇ、800 字に対してやる背景描写じゃないと思うんです。構想がしっかりしてないとこんなに上海共同租界の背景事情を掘り下げたりしない。

ある種のジャンルって冒頭だけなら思いつきだけで書き出せる気がします。私のもどちらかというとそうだし。逆噴射小説大賞ってそういう手軽な部分も魅力だと思いますし。

でも知識や考証を積み重ねないと出せない魅力って絶対あって、それは資料を集めるだとかそういう行為の裏付けあってこそだよなぁ感じます。

前回から 1 年経って皆さん積み上げてきてるんだなぁとか書き続けてきたんだなぁとかそういうことを思いました。

・ジハード・フォー・リゲイン・ラブ

スクールカーストものに触れると感情が高ぶってしまう。

「アスティ、あいつはジョックだよ!私たちゴス(注3)の敵だ!」
「ねえジャネット、そんな風に人を判断しちゃダメよ。それにいつまでもこんな事してられないでしょ。将来の事を考えなくちゃ」
注3 昨日まで校内に2人、今は1人

こんな分かりやすくあっさりと二度と取り戻せない愛があるか?注釈芸も含めて 5 億点。

彼女はロッカーからネットオークションで200ドルで落札した黒魔術書を取り出し、愛を取り戻すための聖戦の予感に胸を震わせた。

真贋問わず碌なことになるわけがない。 ジャネットが「ロリータ」を序盤しか読んだことがないことも合わせて、暴力的な事柄がもっと破滅的に二人の間柄とついでに世界を不可逆にやってくれる期待値が高い。

・ホテル ニュー九龍

大体テメェ甘すぎんだよ、ライン通話で確認してんじゃねえよ手下なんかとっくに買収したよお前から借りた3万でな。昨日スロットで5万すったから助かったなんて、お前手下に恵まれてねぇな、人を見る目マジただの風穴。だから今お前は窮地。さあ震えて待ってろそのビール腹を。

「人を見る目マジただの風穴。だから今お前は窮地。さあ震えて待ってろそのビール腹を」ここの勢い、声に出して読みたい日本語。

特徴的な文体はそれだけで価値だと思う。物語が読者にページを捲らせる以上にそのような文章を読むこと自体の快楽は強い。

未来へ

なんか読書会もあります。私は多分、ほとんど無言で皆さんにビールを給仕したりします。発言に何らかの絵文字でリアクションをつけるのはとても楽しいからです。

ワオワオしている中で新たな作品や既知の作品の新しい側面だったりが発見されるのはとても良いことです。皆さんもビールを給仕したりすると良い気がします。

さて、結果発表の末尾にも以下のようにありました。

SNSとネットワークが地表を覆い尽くし生み出されたこの過酷な創作のMEXICOにおいて、あらゆるオンライン創作者のサヴァイヴにとって真っ先に必要なのは、濃ゆい批評や長文感想やCORONAではなく、まずは気軽な「応援」という名前の水です。この過酷なMEXICOで戦う人たちに、どうかたくさんの水をあげてください!

まずは気軽な「応援」。気軽な応援や、読者だと伝える行為はめちゃくちゃデカい。

ぜひぜひ皆さんも見つけ次第ラブアンドピースしていきましょう。

Photo by Paul Hermann on Unsplash

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