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2: 彼女のお得意のレシピ レディ・マーマレード色

森の奥深く
あなたが知っている
あるいは知らない場所にある色屋の話。

「色屋〜。風邪をひいたって〜?」
ガランゴロン

店の扉を思い切りよく開けて入ってくるのは
森の入り口のケーキ屋の女将,
八塩(やしお)だった。

「はい。恥ずかしながら喉の奥が痛くて
声が出しづらく…」
ガサガサした声で答えた色屋に構わず
ズカズカと台所に入っていく八塩。

「こう言う時はね,柑橘系のジャムを溶かせた
暖かい飲み物だよ!」
ガタガタと大きな音を立てながら
お湯を沸かし,薄いトーストを焼きだす彼女。

「ほら。暖かい格好をしてきな。
今日はもう店は終わらせて,養生しな!」
言うなり店にドカドカと向い「閉店」の札を出し
カーテンを閉め切った。

こう見えて,とても心配している八塩だった。

みる間にヤカンがシュンシュンと
口から蒸気を吹き上げ,部屋の中を潤していく。
コトンと色屋の前に置かれたのは
彼女の得意レシピのうちの一つ,
マーマレードジャム入りの白湯だった。
横には少しだけ焼き色がつけられたトーストに
とマーマレードジャムが添えられた皿。

「食べられないかもしれないけれど白湯を飲んで
ジャムをつけて一口いっときな。
腹減りは万病の元だよ。
温かいうちなら少しは口に合うだろうよ」

「いただきます」
暖かくふんわりと柑橘の香りが立つ白湯。
お腹の中がジワリと温まってくる。
自分で思っている以上に体が冷えていたようだ。

「ほれ,さっさとお食べ。寝室も暖めてくるよ。
今日はもう寝てしまいな!」

「はい」
苦笑しながら色屋は素直に頷く。

お腹が温まったからだろうか,
寝られないと思っていた色屋だったが,
横になった途端スゥっと眠りに落ちた。

その間も八塩は動く。
1人でクルクルと働くもの同士,
辛い時にはそっと真心を置いていくのだ。

「よし。体が温まるスープもできたし,
パンは,浸してならこれで食べられるだろう。
後は…そうそうあの部屋をもう少し加湿して、
台所も暖かさを残しておこうかね」

1人になった方が
よほどひっそりと動き回れる八塩さんは
一通り準備ができると,ニッコリと笑い,
そっとドアを閉めてケーキ屋へと戻るのでした。

彼女のマーマレードは,万病に効くと噂され,
お客様に大人気な商品だったりもします。
色屋さん,早く良くなるといいですね。





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