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442: 魔法の一夜が終わりを告げる鐘の音色

森の奥深く
貴方が知っている
あるいは知らない場所にある色屋の話。

リーンゴーン…と,かすかに
遠くの街の鐘の音色が聞こえてきた。
年に数回,風向きなのか,空気の澄み具合なのか
色屋の店にも聞こえる時がある。

そんな夜は、瓶の中の色たちが
にわかにざわざわとしだし,
ほのかな光を放ち明滅し出すのだ。
その色は混ざり合い反発しあい,
様々な光の波となり、床板を彩る。

最初に気がついた時はびっくりしたものだ。
店の色だけではない,誰かの手元に行った
色たちも呼応しているそうだ。
さぞかし怖かっただろう。

今では,鐘の音が響く夕方,それぞれのお客から
「今日は響いていますね!」と,
期待のこもった連絡を貰うようになった。
私も準備をする。
といっても,そっと見守るだけなので
椅子を持ち出し,その日の気分にぴったりの
飲み物を傍に置く。そんな準備だ。

今夜は八塩さんも来ている。
青年も,是非見に来たいといっていたので,
今頃,響く鐘の音に慌てているだろう。

鐘の音が終わり,夜がふける頃,
ポツポツと店に灯りがともり出す。
色の波が寄せては引くように灯る。
キラキラと泳ぐ魚や風に吹かれる葉が
見えるような気がしてくる。

しばらく眺めていると,
日をまたぎ,次の日が来る鐘が一度鳴る。
そうすると,押し寄せていた波が
少しづつ引いていき,暫くすると
名残惜しそうに一色だけ
(持ち回りなのか,毎回違うのだ)
店を明るく照らし,消えていく。

毎日ではない,色たちの光の共演。
夕方の鐘の音から,次の日になる間だけの
短い魔法の時間。
寂しいけれども,この次はいつだろうと
楽しみに待つ時間でもあるので,
これを知っている人たちは,
ワクワクとするのだった。

青年も八塩さんも眠たそうになってきた。
朝まで眠るとしよう。
ソファや絨毯の上で丸くなっている2人に
毛布をかけて,色屋も眠りについた。
今日の最後の色が,チカチカと瞬きをしたのは,
気のせいでしょうか?
おやすみなさい…





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