見出し画像

382: 目を奪われるなんともいえない身のこなし色

森の奥深く
あなたが知っている
あるいは知らない場所にある色屋の話。

薄い色のドレスの裾がふわりと広がる幻影が
色屋の店の中に広がる,真夜中の色屋。
深い闇の中にポツンと灯る常夜灯。
その光を乗せて美しい布がヒラヒラと揺れる。

真夜中の鐘がなる少し前,ほんのわずかな時間。

水色のような,銀のような,淡い色合いの
美しい光沢の布が楽しげにくるくると回るのだ。

最初、色屋がこの事に気がついた時,
何か物言いたいことでもあるのかと
(つまりば霊的なものが浮かばれないのかと)
身構えたが,どうにも楽しげに
裾がひらひらと広がるので,
楽しい気が溜まっている場から
とびきりの楽しい時間を詰めた瓶の色らしいと
納得をし,時々現れるドレスの裾に合わせて
音楽もかけて,束の間の時間を見守るように
一緒に楽しむことにしたのだった。

今夜も裾が広がる。
時折りこちらに近づく素振りをするので,
色屋はエスコートするように立ち上がり,
恭しく礼をとってみた。
そうすると,ドレスはハタと立ち止まり,
色屋へと向かう位置で立ち,
スゥっと上半身まで表し手を差し出し,
それはそれは今まで以上に楽しそうに
くるくると踊ったのだった。

美しく広がる裾。楽しげに微笑む顔
どの動作も美しい。

そして真夜中になると滑らかに礼を返し
儚く消えていった。 美しい身のこなしだ。

「この,束の間の時間を楽しんでいただける
お方の元へと売りたいですね。
さて,どなたが気がついてくださるでしょう。
これからが楽しみです。」
ファぁと気の抜けたあくびをしつつ
色屋は居住スペースへと戻って行ったのでした。
次はいつ,踊りましょうか?




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?