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102: 西日が差し込む窓の色

森の奥深く
貴方が知っている
あるいは知らない場所にある色屋の話。

色を採取する青年は,
あの終着駅から街へフラリと踏み出し
あちらこちらと色を求めて動き回り
川べりの宿に落ち着いたところだった。

「ふぅ。ビックリするような色はなかったけれど
お茶が石臼でひかれ新しいお茶へと
生まれ変わる瞬間や,深い苔の色、夜の川の色…
森や海辺には無い色がたくさん取れたな。
明日はもう少し川べりを山へと向かうか,
はたまた下がって行くか…ふぅ…むにゃむにゃ…」

宿に入ってすぐに湯に浸かり,
小綺麗になっていた青年は
布団の柔らかさに引かれてスゥっと
夢の中へと入って行った。

翌朝,ぱっちりと目が覚めた青年は,
障子をスラリと開けた、そしてビックリして
しばし動きが止まった。

霧だ。

川面を山の彼方まで朝霧が覆い,
何もかもの輪郭を薄ぼんやりとさせ,
太陽の光は,薄く空を明るくするだけ。
川に浮かぶ鳥たちが時折川上へと飛ぶ
ぼんやりとした黒いシュルエットが横切る。
かといって川面ギリギリは霧が流され
すきっとクリアに見える。

輪郭が曖昧な世界とクッキリとした川面の
不思議な折り合いの世界。

霧は採取する場所場所で色々と見ていたが、
毎回ビックリして動きが止まる。
そしてその次には,どこからどの色を採取するか
ワクワクするのだ。
なにせ,霧が立ち込める時間は短く,
色を取っている間にも薄れて瞬く間に
世界がはっきりしてくるのだから。

「この間の夕日からオレ,慌ててばっかりだよな
でも,うつろう色がたくさん取れてる。おっと!はやく行かなくちゃ!」
そう呟いて朝霧の川へと駆けていった。

その日の夕暮れ,朝一番の霧がなくなるまで
あちこちで,文字通り走りながら色をすくい
足が棒になった青年。
部屋に入りドサっと横になり,
休もうと思った目に飛び込んできたものは…
強烈な光を放つ西日。

窓一面に西日が映り,
部屋を赤々と照らしているのだ。

「寝転がっている場合じゃないっ!」

青年はカバンから瓶をガチャガチャ取り出し
この日最後の窓一面の夕日の色を,いっぱいに
すくったのでした。

「つ,,疲れたぁ〜」
と言う声が部屋に響いたとか響かなかったとか…
思いがけないいい旅になっていますよね。
色屋に納品に行くのが楽しみです。




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