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秘密にしてね : 「月の耳」


「月の耳」を、
パン生地の角を引っ張る様に伸ばして、そっと秘密を打ち明けた。

誰かに見つかるとイヤだから、一気に話して、バンっと音がするくらい一気に耳から手を離す。

「あたしは何もしてませんよ」
…そんな風に見える様に。

その後、
月を覗き込んだら、
月は
「私は何も聞いていませんよ。」
って顔で夜空に浮かんでいた。

「アレ? ちゃんとあたしの秘密、
聞いてくれたの?」
と、月があんまりそっけないから、
気になってしょうがない。

だからその夜は、
何度も何度も月を覗き込んだ。

やっぱり月は
「私は何も聞いていませんよ。」
と言う顔をしている。

どうしてもどうしても気になって、
「ねぇー、お月さまぁー、ちゃんとあたしの秘密、聞いてくれたー?」
と、大きな声できいてみた。

そしたら、遠くで犬が遠吠えをする。

「あなたにきいてるんじゃないのよー。あたしはお月様にきいてるのー。」

お月様はそれでも知らんぷり。

犬はあたしの声に応える様に、
また遠吠えを返してくる。
「あなたにきいてるんじゃないってば…。」

しかも、
双子の星が月の上に現れて、
双子星と月でスマイルマークになっている。

「お月さまぁー。
あたしの秘密、ちゃんと聞こえたのー?
織姫と彦星はちゃんと会えたのか、
とっても心配なのー。」
と、あたしの秘密を、大きな声で叫んでしまった。

すると、部屋の電気が明るくなって、
お母さんが笑いながら部屋に入って来た。

「あなたの秘密、町中の人が聞いちゃったわよ。」

あたしは顔が真っ赤になった。

お母さんは背中からあたしを包み、
ダンスするみたいに小さく揺れながら、
「大丈夫。
織姫と彦星は、3秒に一度会ってるんだから。」
と、優しい声で言った。

「3秒に一度?
それって、ずーっと会ってるって事じゃない?」

「そう言うこと。」

お母さんは悪戯っ子みたいな顔をした。

その顔は、
双子星と月で出来たスマイルマークみたいだった。

…織姫と彦星。
3秒に一度会ってるなんて、
ラブラブ過ぎない?




「月の耳」
ハッシュタグ「#シロクマ文芸部」@komaki_kousuke #note

今週も参加させて頂きました。

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