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恋は猫 : 「恋は猫」


「恋は猫」
生垣の傍を通った時だった。
子猫の鳴き声がして、
生垣を覗き込むと、
生まれたばかりのような子猫と目が合った。

私がかがむと、
私によじ登り爪を立て離れなかった。

「ミャア ミャア」
子猫特有の声で鳴いている。

お腹が空いたの?
そう思ってもバックの中に食べ物は何もない。

アパートに戻って牛乳を持ってきてやろうと、思い、子猫を離そうとしても、子猫はしっかりしがみついている。

薄く小さな爪なのに、一本一本をしっかりTシャツにしがみつけ、頼りない骨ばかりの体をくねらせる。

「また戻って来るから、お願い、離して。」
そう言うと、子猫の爪は少しだけ力が抜けた。それでもミャアミャアと泣き続けてはいたけれど。

子猫を生垣の茂みに隠して、
「戻って来るから、ここにいるんだよ。車にひかれたらダメだからね。」
と、子猫に言い聞かせる。

子猫の声を背中に、アパートに戻って、小鉢に牛乳を入れ、ラップで溢れないようにしっかり巻いて、急いで子猫の所に走って行った。

子猫はお利口に茂みにいた。

牛乳を子猫の前に置いたけれど、子猫は全然飲もうとしない。それなのに、ミャアミャアと泣き続け、また私によじ登ろうとする。

「連れてって」
え?
私の所に?
「連れてって」
「私の所は動物は飼えないの」
「連れてって」
「連れては、帰れないの。」
「連れてって」

中途半端な優しさは、
結局悲しませるだけ…。

「ごめんね」
と、猫を茂みに隠して、背中で子猫の声を聞きながら部屋に戻った。

部屋に帰っても子猫のことが気になった。

子猫をを連れてきて、ペット可の部屋に引っ越すことだって出来る。
本当に連れて帰れない理由など、
この世に存在しない。

でも。
連れてきても、狭いアパートに一生閉じ込めておく事になる。私がいない間、子猫はずっとお留守番。
もし、子猫が窓からお散歩に行ってしまったら、車にひかれてないか心配になってしまう。
そしたら私はどうしたらいいか、分からなくなってしまう。

子猫じゃなくて、子犬なら、一緒にお散歩に行けば良いけれど…。



ふっと、
ようちゃんの事を思い出した。

ようちゃんが一緒に居たかったのは「猫」なのだ。
私は、猫にはなれない。
ようちゃんが、
「サヨナラ」
と言った理由が分からなかったけど、何となく分かった気がした。
それなら仕方ないよね。

「恋は猫」
「愛は犬」

ようちゃんか欲しかったのは、キラキラするけどヒリヒリもする恋。

私が欲しかったのは、穏やかでどこか安心する愛。


夕方、子猫が気になって、
茂みをのぞいたら子猫は居なくなっていて、小鉢だけが残っていた。



「恋は猫」 「#シロクマ文芸部」@komaki_kousuke #note

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