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晴れた日の緑の丘


銀行で通帳を取り出そうとした時…。

胸元に抜けた髪の毛がついていました。
「あ、抜け毛。」

そう思ったはずなのに、思った途端、長野のギャラリー展示のある高台の緑の丘の風景が頭の中に広がりました。

自分の頭の中の出来事なのに、どうなっているのか自分で驚きました。
関連性もまるでなく、勝手に現れた美しい記憶。

多分、池田マスオの版画か油絵を見に行ったのだと思うのですが、記憶は曖昧です。

来客者は、友達の夫と私だけ。

協調性のない二人は、自分の好きなものをそれぞれに見て、友達の夫は既にベンチに寝転んでいます。

「ちゃんと見たのかなぁ?」
そう思いながら、早くも寝転んでいる友達の夫の所に行きました。

高台のベンチから見える景色は、広々と開けた緑の世界で、人工物が一切ありません。どこまでも平らな田畑の緑と、その奥に続く山々。

風も柔らかく吹き、日に焼けそうですが日差しも柔らかです。

「ソフトクリーム食べますか?」

「ん? いらない。」

自分の分だけソフトクリームを買ってきて食べながら、天国の様な景色を眺めていました。

友達も、友達の夫も、「いらない」と言ったら、「いらない」それ以上の意味はないのです。必要以上の詮索や気遣いがいらないので、一緒にいてとっても楽。

「天国並みにいい景色〜‼︎」
と、溢れ出る絶叫を伝えても、

「ああ。」

逆にそっけなさすぎて笑える。

嘘のない…と言っていいのか、それ以上もそれ以下もないって、楽なのです。


初めから、友達も友達の夫もその様な関係ではありませんでした。

友達が出会って最初に言った言葉は、
「日本人みんなが貴女みたいな人だったら、日本が沈没する。」
と、マジでした。
私は言葉の中身ではなくて、なんか文学的な表現がとても気に入り、中身を考えずワクワクしたのです。
ピーンとした空気の中で、ニヤニヤ。
そんな私に友達は苛立ちを隠せませんでした。

ある日、ハプニングが起きました。
ハプニングでフロアーは大騒ぎ。
いつもの如く私はマイペースで、「大丈夫。そんなに慌てなくても。」と、周囲の騒ぎからはかけ離れた所にいました。
一時間後、
「ほらね。大丈夫でしょ?」
友達が、
「どうして分かったの?」
と、不思議そうでした。
「私はただの大学出とは違うのだよ。ただの大学出とは。」
と、ギャグのつもりで言いました。でも、友達はガンダムを知りませんでした。
しょうがないから、解剖整理と分析を説明しました。

それから友達は、私がただ飄々としている人だと思っているみたいです。
友達以外にも“飄々としている”と言われていましたが、“飄々と”と言う言葉が凄く気に入っています。
宇宙人も、気に入ってます…面白いじゃないですか。

それから、友達と友達の夫と仲の良いグループになり、沢山の時間を過ごしました。

友達は仕事で、友達の夫と他の友達たちと一緒に出かけた事がありました。
やっぱり長野の美術館で、シャガールの企画展示がされていました。
友達の夫が、車の運転をしていたのですが、
「僕は見ないからみんなで行って来て。」
と言うのです。
「え? シャガールですよ? 見ないんですか?」
「うん。いいの。散歩してる。」
何度か、一緒に見ようと促しましたが、返事は変わりませんでした。
仕方なく、友達の夫を置いて、他の友達たちと鑑賞しました。

帰ってから友達に、その事を話すと、
「うん。いいの。見たかったら見るし、シャガールに興味なかったんだから。」
と言われ、みんなと見に行ったからと言って、みんなで見る必要はない事、シャガールをみんなが好きな訳ではない事を知りました。

そして友達の夫が言ったんです。
「見たくないものを他の人に合わせて見たって詰まらないし、相手に合わせて行動したとしても、それは相手を思っての行動じゃない。相手に嫌われないようにとった自分のための行動だ。」
と。
だから、友達と友達の夫の言葉は、言葉通りの意味で、それ以上もそれ以下もなく、私自身も素直にyesも noも言えて楽なのです。
勿論、根底には信頼がありますが。


不意にこんな事を思い出す時は、友達が近くに来ている時です。

LINEをすると
「近くに行くと必ずLINEが来る。何でわかるのかね〜。」
と、言います。

ザクとは違うのだよザクとは…。

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