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発達障害の前に、色々ありました。
心の病気が世間様に認知されて、まだまだ間もない。
発達障害だって、障害者雇用枠だ、福祉だって理解され始めているけれど
無条件に受け入れてもらえる状態を整えるのは難しい。
人が作り上げる社会は、やっぱり異物を嫌うままなのだ。
たいていの人は、それでも普通にやっていけるのだろう。
普通だから。
だが、一度自分がみんなとは違う、アチラ側の世界にいると気づいたら
今まで生きてきた社会は、とても苦しいものに見えるだろう。
人間とは身勝手な生き物なのだ。
私もまた、どんどん自分が堕ちていく気がする一人。
自分が自分であるように、と1日を過ごすだけで精一杯である。
WAIS-IVまで1週間を切った日。
定期的に受ける診察で、主治医の先生はいつものように聞く。
『調子はどうですか。』
最初はこれになんと返していいか、困って
先生を困らせたものだ。
自分の調子なんて、知らんがな、としか言えない。
だって気にしたことなかったから。
『訳わかんなくなんちゃった』
先生は少しパソコンに打ち込んでから、
なにが訳わかんなくなっちゃったの、と主語を聞いてきた。
そりゃそうだ。それだけではナンノコッチャである。
『自分の顔が、自分で見て変なの。自分じゃないみたい......いや、分かってるんですよ、自分の顔だって。写真で探せ、って言われたら探せます。だけど.........あんた、誰よ、って思っちゃう』
そう、嘘みたいだけどもこれはちょくちょく昔から私が持っている症状の一つ。
自分の顔が自分だと心から認識できないのだ。
真実味を伴ってこない。
一度、先生に離人症を発症しているねと言われているので、
多分それだろうと思う。
『あと、自分の脳なのに自分で制御できない。もともとわたし、独り言が多いんですけど、それは自分の思考を整理するためにしていて..........でも、今は勝手に考えがポンポン浮かんできて....ちょっと黙れ、て思うんですけど3秒後にはまた考えてる.......』
『勝手に湧いてくるみたいな感じ?色んなところから』
『ん......というよりかは、スタートする起点があるでしょ.....そこから雑多な方向に飛び火していく感じ...です』
先生の目が鋭くなって、若干語気が強まった気がした。
『ふんふん........、食欲は?』
これも私は困る。
食欲はもうずっと減り続けているけれど、生命維持に関わるほどではないし
なんと言ったものか、と答えあぐねていると先生が気付いて細かく聞いてくれた。
『以前と比べて減った?変わってない?それとも増えた?』
『......減ってます』
『何時に寝て、何時に最近は起きてる?』
『寝るのは12時〜1時ですけど、寝られない日があるというか......あ、もう最近はアラームが鳴る前に余裕で起きてしまいます。この前なんて、1時に寝たはずなのに4時半には目が覚めてしまって.........イヤイヤこれはいくらなんでもおかしいな、って』
元々は私、ショートスリーパーだったんですかね?
という間抜けな私の疑問は華麗に先生にスルーされた。
先生の顔がそんな訳あるかい、と言っていた。
だって元々、私は寝るときがいちばんの至福のときであると豪語するほど
睡眠大好きである。
いつもごちゃごちゃうるさい脳内の考えからも解放されるし、
苦しい記憶も思い出さずに済む。
『普通にしていても、こう...余計な情報とかを拾ってしまう?』
『そりゃスマホとか見てれば.....』
『スマホも勿論だけれど、こう.....見たくないものまで見えてしまうとか』
『ああ....それは私は聴覚の方ですね。耳から聞こえる情報は選別できなくて、いつも混乱します。だから人混みとか大っ嫌いです。拾ってくる会話とか、みんなくっだらない事ばっかり話してるんだもん』
『......そう、なの。.............ちょっと空回っちゃってるのかな。こう、頭の中がね。』
『........空回ってる......オーバーヒートしてる、みたいな感じですか』
『そう。パソコンがオーバーヒートしてるような状態になってる』
空回ってる、という表現が自分にしっくりこなかったので、聞き直した。
先生は、嫌な顔せずに頷いてくれた。ありがたい。
その後、先生は急ぎ気味に何かをずっと打ち込んでいたかと思うと、
いつもの私がふっかける雑談の時に見せる顔とは違う表情でこう言った。
何ヶ月か通ってるというのに初めて見た、精神科医としての顔だったかもしれない。
ああ、この人お医者さんだった、って思った。
『一度、薬を出そうと思います。レキサルティ、と言う薬で統合失調症の人にも使われている薬なんだけど.......鬱や躁鬱の人にも出したりするのね。とりあえず1週間分出すので、様子を見たいし1週間後にまた来てもらおうかな』
私は頷くだけだった。
その時ちょうど先生の背後で声の大きい人が何かを話していて、私の意識が逸れてしまって聞き逃したので
先生に聞き返すと、先生は心配そうな顔でこちらを見ていた。
『すみません、ちょっと言葉が頭から飛んでしまって。..えっと、なんでしたっけ』
『ん、統合失調症の人に出す薬だからね、って』
『あ.....そう、そうでした、あはは』
半年以上お世話になって、初めて先生が私に薬を処方する決断を下した日だった。
多分、先生も最後までずっと迷っていたのかもしれない。
重ねていうが、寝るのが大好きで試験前日とかぐらいでなければ不眠になったことがない自分が
なんでもない日常の中で、1時に寝て4時台に起きるのは異常だったのである。
今思えば。
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