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永遠の眠り姫外伝

乙女の夜着は密やかに

オーゼロフの街を歩いていたクリスティアーノはふと、とある商店のショウウインドウに足が止まった。
 店頭には純白の夜着が飾られている。襟元とヨォク、袖口や裾はふわふわとフリルが飾られ、白蝶貝のボタンで胸を留めている。
(せラフィーナに似合うであろうな)
 伯爵令嬢の彼女には仕立て屋の上等な夜着があるのだろうが、これを纏う様を見たくなったクリスは、躊躇なく女性向けのその商店へと足を踏み入れた。

「ああクリス、帰ってらしたのね」
 エルフィンストーンの邸に戻ると、うつくしく金髪の少女が嬉しそうにクリスの元へと駆け寄る。
「セフィ、今日の勉学も頑張ったかね?」
 シルクハットを外しクリスは笑んだ。
「勿論よ。私これでもいい子なんだから!」
「自分で云う言葉ではないな」
 小さく笑って、クリスは手にしていた包みをセフィへと手渡した。
「街の商店の品だが……君に似合うかと思ってね」
「開けていいかしら?」
「どうぞ。君のための品だ」
 カサカサと包みを開けたセフィは頬を薔薇に染めて笑んだ。
「とても可愛らしい夜着だわ! 自慢したいくらいよ!」
「君には専属の仕立て屋のものがあるのだろうが、商店のこの品が愛らしくてね」
「ありがとう、クリス。私、これで寝みたいと思うの」
 夜着を抱きしめるようにしてセフィが笑む。あまりに喜ぶ様に、クリスは悪戯心をくすぐられた。
「男がレディに夜着を贈るのを、よく考えて発言した方がいいのではないかな?」
「……え?」
 少し考えて、先程とは異なる意味で頬を染める。
「クリス! なんて事仰るの!?」
「はは、無論冗談さ。だが着てくれると私も嬉しいよ。見せに来てはならないがね。自信はない。では夕食の時に」
 客室へと向かうクリスの背を見送りながらセフィの呟く言葉に、クリスは気づかない。
「クリスならいいのに……」
 大胆過ぎる独り言とは、セフィには自覚などありはしなかった。


自作したナイトウェア見せたら、これで小説書けないかと云われてしまったので、せラフィーナに着て貰おうかと思います。

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