ヨモギ in Dream

 ヨモギはいつものように鍬を持ち、畑を耕していた。もうすぐ季節は夏になろうとしており、気温も日毎に上がってきている。
そろそろオクラの植えどきだ。トマトの様子も見ておかないと……。

 そう思っていた矢先に、敵襲を知らせるサイレンが鳴り響いた。
「敵襲です! 北方よりカムイ軍と思しき勢力がこちらに急接近してきている模様!!」
どこからともなく颯爽と現れた軍の伝令係が敵の方角を告げる。自分の生まれ育った村も、愛する家族もカムイ軍に奪われた。
――もう二度と、奪わせない。
「やらせない……!」
自分と仲間の居場所であるヴァサラ軍を守るために鍬から剣に持ち替えて出動した。

 ヴァサラ軍敷地内は、多数のカムイ軍の兵士が続々と侵入してきていた。応戦する仲間たちもいれば、力なく地面に伏している仲間もいた。それを見て歯噛みするも、目の前から敵が襲いかかってくる。

 「食の極み、椀飯振舞! 泥濘ぬかるみ!!」
襲いかかろうとしたカムイ軍兵士が、突如として田んぼのようにぬかるんだ地面に身動きが取れない間に、ヨモギは次なる一手を叩き込む。

 「麦の型!!」
何度踏まれても伸びゆく麦のように、身体能力を強化させ、敵を打ち倒す。振り返ることはなく、ヨモギは走っていく。

 しばらく進むと広場に辿り着いたが、その光景を見て唖然とした。
ジンにヒルヒル、そして十番隊隊長のルトまで力なく地面に倒れているでは無いか。その中心にいるのは紅蓮の髪を持つ男――火剣の瑛須だ。
 「み、皆! 隊長も大丈夫べか!?」
考えるより先に身体が動き、倒れる仲間たちに救いの手を差し伸べようと駆け寄る。
「だ、ダメだ……! 来ちゃダメだ、殺されるぞ!」
「アイツが……やったべか!?」
剣を手に取り、瑛須に相対する。だが、その場にいるだけで焼け焦げそうな波動で、先程から身体の震えが止まらない。

 「あ、あたしが……相手だべ……!」
一心不乱に両手で剣を握って力いっぱいに振りかぶる。が、瑛須はそれを片手で受け止める。
「おうおう、何かと思えば雑兵が増えただけじゃねえか! 寝てろッ、暴流卦乃ボルケーノ!!」
灼熱の業火を纏った右ストレートが、ヨモギの鳩尾に決まり、地面に勢い良く転がる。
「ヨモギ……!」
「カハッ……つ、強い……っ」
思いっきり血を吐きながらも、剣を杖代わりに起き上がる。

 「へーぇ、女のクセに度胸あんじゃねえか……!」
「度胸に女も男も……関係ないべ……!」
立ち上がったは良いが、先程のようにこのまま真っ直ぐ斬りかかってもまた同じように熱く、重い一撃をもらってしまうだろう。
(どうすれば……!!)

 《剣の声に耳を傾けるのじゃ、ヨモギ……!》
突如、命の恩人であり、敬愛する三番隊隊長ヒジリの声が脳裏に響く。
(剣の声……)
《剣と心を一つにした時、初めて真の能力チカラは引き出される! ヨモギよ、お主の素直な心なら……きっと大丈夫じゃ!》
 優しく、穏やかでありながらもいつも誰かを導いてきた頼もしい声に背中を押される。
 ――もう、身体の震えは止まっていた。

 (今だ……! 今なら、使えるべ!!)
「食の極み……奥義『収穫祭ハーベスター』!!」
突如として、ヨモギから光が放たれる。
「なっ、何だ!? この光ッ!!」
あまりの眩しさに思わず反射的に目を瞑る。

 光が収まり、ゆっくりと目を開けると目の前には見慣れない機械が鎮座していた。

イラスト:送火さん


イラスト:なのはなさん


「何だコレは!?」
「これは『こんばいん』だべ。ほら、命を刈り取る形をしているんだべ」
コンバインと呼ばれたその機械は、刃が小刻みに動いており獲物を今か今かと待っているようだった。
「これ以上、仲間を傷つけることは許さないべ! 畑の肥やしになるべ!!」
ブォオオン! と派手なエンジン音を鳴らし、ヨモギの乗ったコンバインは瑛須のいる方角へ前進した。
「なんだコイツ!? 攻撃が効かねぇ……!」
瑛須の攻撃も虚しく、コンバインでいとも簡単に刈り取られていくのであった。
「そんなの全然効かないべ!」

「なっ……! むちゃくちゃじゃないか……」
あれほど自分たちが苦労したカムイ軍、しかも七剣の一人がこうもあっさりと倒されてしまう光景を見て、ルト達はあんぐりと口を開けたままその場を動けずにいた。
「よーし、このまま、他のカムイ軍も全員畑の肥やしにしてやるべ!! ワハハハハー!!」
コンバインに乗ったヨモギはハンドルを握って、次なる獲物を探しに全速力で運転していくのであった……。

 「やべーぞ!! 逃げろー!!」
「あんなのにウチの隊長が、やられたってのか!?」
火剣軍の兵士たちは一斉に逃げ惑い、逃げ遅れた者は容赦なく刈り取られていった。
「地の果てまで追いかけてやるべー!」


 「えへへ……、く○たのこんばいんは、つよいんだべ……むにゃ……」
いつもなら、朝早く起きて畑作業をしているヨモギが珍しく寝坊をしていた。先日、任務に行って帰ってきては直ぐに寝てしまっていたのだ。その疲れが出ているのだろう。
「こんばいん? 何の夢なんだろーね?」
起こしに来たヨタローが、隣にいるガラに尋ねた。
「こいつの顔を良く見ろよぃ。きっと楽しい夢に決まってらぁ」
確かにヨモギの寝顔は、楽しさに満ちていたのだった。

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