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豆腐怪談 54話:月極駐車場

やっと自宅すぐ近くの月極駐車場を借りることができた。
今までは自宅から離れた駐車場を利用していたから不便この上なかった。
自宅から車が見えて、警報が鳴ったらすぐ駆けつけることができる距離というのは安心できる。空き情報をチェックしていた甲斐があったというものだ。

借りた駐車スペースはこれも運よく一番端の壁際だった。片方だけでも気を遣わなければならない車がなく、歩行者の存在も気にしなくてもいいのは楽だ。
但し、壁際なので日当たりがあまりよくなかった。夏はそれが長所となるが、梅雨や冬は苦労するかもしれない。

そしてもう一つ気がかりな点があった。

その日は雨がさあさあと降り続いた日だった。
ここしばらく激務が続き、帰りは10時過ぎになるのも珍しくなかった。今夜もコンビニ弁当が助手席の相方に加わっている。

雨で白く霧がかった駐車場は、自分以外は既に帰宅しているのか、自分のスペースを除きすべて埋まっていた。
規定通り、駐車スペースへ車の頭から入る。壁の向こうは普通の家だ。エンジン音は意外に響くものだが、頭から入れば少しは軽減されるらしい。
エンジンを切って、窓の外を見た。職場を出た時は強かった雨が霧雨となっている。霧雨はなお一層白みを強め、駐車場を覆っていた。

この白い霧雨の中を傘をさして歩くか、傘をささずに突っ走るか、ここは迷うところだ。職場の駐車場で横殴りの雨をくらったせいで既に膝下から下はびしょ濡れになっている。どちらにしても変わらないだろう。
「よし、歩くとするか」
傘とカバンと弁当を手にしようと伸ばしたその時。
濡れたズボンが右足首全体にべったりと貼りついた

「ンン?」
ズボンの上からゴムバンドを巻かれたような圧力を感じる。べっとりとした気持ち悪い感触を振り払おうと、アクセルペダル下の己の足を動かそうとした。
しかし、そこだけ金縛りにあったかのように動かせなかった。何が起きているのか。全く分からないが怖い。
恐る恐る、顔を足元のスペースに向け足元を見下ろした。

足元スペースの暗く黒色の奥から出た、青白く小さな小さな手が、足首を掴んでいた。

それはまだ小学生にもなっていないような丸っこく小さな子供の手だった。それが大人顔負けの力で自分の足を掴み、引っ張っている。
深夜というのも忘れ、悲鳴を車の中に響かせた。
「ああああ!離せ!」

暴れるように無理矢理腿を動かし足を上げ下げする。
不意に手の力が抜け足から離れた。

「今だ!」弁当などをひっつかみ転がり落ちるように車の外へ出た。
全速力で走って逃げる背中に子供の泣き声が降ってくる。引き留めるように二の腕の袖や背中など体中を引っ張る感触が止まらない。
やめろ!やめろ!
ひたすら自宅のドアだけを見て走った。

自宅のドアを閉めた時には引っ張る気配は消えていた。
ドアを後ろ手で絞め、そのまま気が抜けたように待たれかかる。息を整え心を落ち着かせるのに30分ほどかかった。
落ち着いたところでシャワーを浴びようと服を脱いだ時、また悲鳴を上げてしまった。

足に子供の手の形の青痣ができていた。

この駐車場のもう一つの気がかりな点、それはこの駐車スペースの借主の入れ替わりが激しいことだった。
その理由がいま分かってしまった。

次の日、昼飯時に某事故物件サイトにてこの駐車場を調べてみた。やはり火の玉マークが駐車場の上にあった。
そして犠牲者は外れてほしかったが、予想通りだった。

【終】



※豆腐怪談シリーズはTwitter上でアップしたものを訂正&一部加筆修正などをしたものです。
フリー素材ぱくたそ(www.pakutaso.com)


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