見出し画像

豆腐怪談 56話:大型倉庫

ある日、いつも通る道沿いにある某敷地が真っ平になり、その数か月後にはでかい建物が建っていた。

以前そこにはどこかの企業の運動場と、年季が入った大型の倉庫があった。しかしその企業の懐状況が悪いのか、垣根は巨大化し雑草だらけでロクに整備されていなかった。
それでも入口周辺と倉庫周辺だけは雑草がほぼ無かった。定期的に雑草が駆除されていたようだった。どうやらそこだけは手入れがされていらしい。
運動場と入れ替わりに建った建物はどこかの企業の社屋らしいと聞いた。郊外の住宅地でガラス張り10階建の社屋はかなり目立っていた。

しかし、景色は一変しても倉庫はそのまま残っていた。しかもなぜか駐車場の真ん中に残る形で。
立地もだが、そもそもあんなオンボロ倉庫は残した方が却って危ないのではないか。耐震設備があるようには見えない。大型地震が発生したら一撃で崩壊するだろう。
自分は部外者だがそう思うぐらい、あの大きな倉庫は古臭い建物に見えていた。

変化がないようなその倉庫も以前と変わっている点が一つだけあった。
運動場だった頃は窓には厚いカーテンか、木の板が内側から打ち付けられ中が見えないようになっていた。
それがすべて取り払われ中が見えそうになっている。しかし敷地内に入れないから、中がよく見えないことには変わりなかった。

ある夜、その敷地のそばを通った時のこと。
その夜は社員は全員帰ったのか、社屋は真っ暗で倉庫周りの駐車場の外灯だけが灯っていた。
誰もいないこのあたりは静かで虫の声がやかましいぐらい響く。しかし、何もないと知っている筈なのに、何故か引き寄せらるように顔を上げてあるものを見てしまう。

あの倉庫だった。見ているうちに視界に何か引っかかったような違和感を感じた。
違和感が気になってしまい目を凝らして見てみる。
違和感の元は倉庫の窓だった。
昼でもよく見えないのに、真っ暗な窓の向こうに何かが、影のようなものがいた。それもあちこちにいるようだ。
こんな時間に何をやっているのだろう。


怖いもの見たさの好奇心からできるだけ倉庫に近づいて見てみることにした。
フェンス近くまで来て窓を見上げると影はじわりじわりと広がっていた。
いやちがう。蠢いている。
「あ、これはヤバいやつじゃ…」
嫌な予感がした。予感は確信となった。
窓の向こうでは無数の人型の影が蠢いていた。

人型の影たちは天井から吊るされたのかのように、逆さまにぶら下がっていた。
ゆらり、ゆらりと揺れるヒトの形をしたもの。
ビクッ、ビクッと体を震わせるヒトの形をしたもの。
助けを求めるように窓を腕で叩き続けるヒトの形をしたもの。
多くの異様な影達が窓を埋めるかのように倉庫の中で蠢いている。

そして、影達はどれも顔をある方向へ向けていた。その影達が顔を向けている先にあるのはあの社屋だった。影達は社屋の中心を見つめるように顔を向けている。

この倉庫はあれらを閉じ込めるためのものだったのか。
そう直感で分かってしまった。
倉庫が取り壊されない理由が分かった気がした。

【終】


※豆腐怪談シリーズはTwitter上でアップしたものを訂正&一部加筆修正などをしたものです。
フリー素材ぱくたそ(www.pakutaso.com)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?