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見えない猫たちは海王星で微睡む

「猫チャーーン!」

ある日、太陽系最大の大型コロニーこと海王星リング型大ステーションの一角にある建築会社T社ビルの管理部で奇声が響いた。
管理部で各惑星現場とオンラインで管理していたある社員が急に立ち上がり大声を上げてのけぞった。
それが始まりだった。


「うわああ何コレぇーーッ?!」
インフルエンザから快癒して一週間ぶりに出社した庶務部の新入社員(研修中)のナギは異様な光景を目にして思わず後ずさった。

オフィスで、廊下で、会議室で、自販機が並ぶ名ばかりのカフェテリアで、社員たちが血色の良いゾンビめいて上の空で奇声を上げながら見えない何かを探して彷徨っている。
「猫チャン!」
「ニャンコ!」
「ニャンチャン!」
「ニャンニャン!」
彼ら彼女らはフラフラとあてもなく歩き、または床に這いつくばり一点を見ながら叫んでいた。
そして社内放送用スピーカーから猫の鳴き声かゴロゴロ喉を鳴らす音が絶え間なく流れている。にゃーんとスピーカーが鳴くとにゃーんと答える社員もいた。
ナギはこの異様な光景を見渡す。彼女なりに脳をフル回転し考える。数分後、指を鳴らして結論を出した。

「よし、アタシは何も見てない。ここは何も起きていない。帰る!」

社員用出入口を出た瞬間、ナギの進路を塞ぐように砂煙とギャギャと耳障りなドリフトの爆音を上げ小型バギーが止まった!
「うええ今度は何なの〜?!」

「やっと見つけたぞ、庶務課のナギ・アラゴさんだな?」
バギーの運転席に座る、T社のロゴ入り作業着を着た体格の良い男がナギを見てニッと笑った。
「病み上がりで悪いけどさァ、嬢ちゃんにはこのクソ空気猫ハザード地獄を解決してもらうためにステーションの外側、宇宙を歩いてもらうぜ」
何でアタシがと言いかけたナギを男は制止した。

「嬢ちゃんの“無重力下人工開拓地外活動甲種準一級”のスキルがさ、今は必要なンだよ」
乗りな、と男はバギーの後部座席を親指で指した。


【続く】

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