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豆腐怪談 41話:廃工場

「何か怖い話ィ?変な話ならあるぞ。ただしこの話は又聞きだがな」
と前置きした某輸送会社のドライバーKは話し始めた。


某県の山中にな、数年前まで機械部品の製造工場があったんだ。詳しくは言えんが某車メーカーの2次下請けやってた工場だ。
名前はとりあえず、仮にS工場としておこうか。
そこはウチの会社のお得意さんでな、そこの出荷担当の人とよく雑談したもんだった。
あ、そうそうその出荷担当の人の名前は、ンー、そうだな鈴木さん(仮名)にしておこうか。
その製造工場が廃業してから、その鈴木さん(仮名)とは会うことはなかったし、どこで何をやってるかも俺は知らなかったんだ。

ところがなァ、つい数日前に別のパーツ製造工場でその鈴木さんとバッタリ会ったのさ。
で、「何やってる?」からお互い近況を話したり、最近は景気が悪いから仕事減ってるだのなんだの、前みたいにワイワイ雑談したんだ。
俺がS工場近くのルートを今もよく通るッて言ったら、鈴木さん(仮名)は急に真剣な顔して、こう聞いてきた。

「Kさんご存知ですか?あの工場、今も稼働してるって噂があるんです」
「ハア?S工場の門の前は草ボーボーでとても稼働してるようには、俺は見えませんでしたよ」
「いや、僕じゃないですけど、あの工場に出入りする人たちを見た元工員がいるんですよ。しかも工場からは前のように普通に稼働してる音もしてたそうです。製造する機械がないのにですよ?」

アンタも変な話だと思うだろ?機械もないのに工場が稼働してるってよ。


「おかしいと思った元工員さんが、S工場をこっそり探ってみたんですよ。こう窓から覗いて中を見たんだそうです。…それですね、中どうなっていたと思います?」
「ンー、泥棒とかホームレスが入り込んでいたんですかね?」
「…ここにいないはずのS工場の元従業員たちが普通に仕事していたんですよ!」

さすがにこれには俺も驚いて、つい突っ込みをいれちまったよ。

「なんだそりゃ?!鈴木さん(仮名)一応聞きますがね、元従業員ってェのは廃業前にいた社員ッてことですよね?」
「その元従業員達です。かつての従業員達の生き写しの、半透明なオバケみたいなのがぞろぞろ中にいたらしいんです。ドッペルゲンガーって言うんですかね?ライン長や梱包担当や班長、そして工場長っぽい人もいたそうですよ」
「ええ?半透明のオバケっていうか、いま生きてる人たち、ですよね?」
「生きてます。で、元工員さんが仰るには、連中は機械が無いのにパントマイムみたいに機械を操作する素振りをしていたり、半透明オバケ同士ですれ違うと挨拶していたんだとか。廃業前に撮影した工場の動画を再生するように、仕事の真似事をしてたようなんですよ」

元工員さんって人はもう怖くなってその場から逃げたそうだとよ。
そんなの見たら、俺だって速攻で逃げる。
そこまで話した鈴木さん(仮名)は、そこで俺に頼みごとをしてきたんだよ。


「もし気が向いたらでいいので、S工場の近くまで行く機会があれば、S工場がどうなってるか見に行ってくれせんか?」
俺は逆に聞いたんだ、鈴木さん(仮名)は見に行かないのかって。
鈴木さん(仮名)は声をひそめてこう言ったのさ。

「実は…元工員さんによれば、僕の生き写しもいたんだそうです。本人がドッペルゲンガーを見ると死ぬらしいんですね。その点、KさんならS工場の従業員じゃなかったですし、生き写しもいないだろうから見に行っても大丈夫かなって思ったんですよ。あ、見に行くのは本当に気が向いたらでいいので!」

とりあえず考えとく、期待はしないでくださいよッて、その場では答えておいたさ。
まあ、S工場の近くを通ることはあっても、トラック降りて見に行くヒマなんてないから、どのみち無理だな。


「もしよかったら、アンタが見に行くかい?……いや冗談だ、やめときな」
最後にKは真顔になった


【終】

※豆腐怪談シリーズはTwitter上でアップしたものを訂正&一部加筆修正などをしたものです。

ヘッダー引用先
フリー素材ぱくたそ(www.pakutaso.com)



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