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三度目の正直

1.はじめに
どうも、去年は製図板に穴が空くくらい勉強しようと思っていたら、先に胃に穴が空きそうになったゆでろうです。
三回目の試験が終わり何とか合格できたので、まあその、今更ですが思い出話をさせてください。
積もる話もありますよね。

2.そもそも製図試験とは
製図試験とは一級建築士試験の二次試験です。試験時間は6時間半。課題文を読んで条件や要点を整理しながら設計をまとめ、アウトプットとして要点記述と作図を行うものです。
一級建築士として必要な知識が問われる学科試験(一次試験)に対して、製図試験(二次試験)では、与えられた条件に対して時間内に設計をまとめ上げる情報処理能力と時間管理能力が問われます。
毎年異なる課題が出題され、2020年度の課題は『老人介護施設』でした。
他の2回の試験、2018年度と2019年度の課題はそれぞれ『健康づくりのためのスポーツ施設』と『美術館の分館』でした。

学科試験に合格すると、その試験以降の何回かは学科試験が免除になります。建築士法が改定されたりして事情が変わってきていますが、私の時は学科試験免除で受験出来るのは2回でした。
冒頭に3回目の試験と書きましたが、2020年度の製図試験は学科試験を免除して受験できる最後の年だったのです。
嵩張る学費、職場負担や家族負担に対する罪悪感、職の適性に対する不安、コロナ禍での受験、同僚が次々と合格していく中での焦り、一部の心無い同業者や部外者からの煽り、受験生なら多くの人が感じられたであろう、色んなストレスやプレッシャーを私も同様に感じていました。

試験の結果はランクⅠ〜Ⅳで成績が付けられ、ランクⅠのみが合格となります。自分の成績の推移についてはこんな感じでした。

2018年度:ランクⅢ
2019年度:ランクⅣ
2020年度:ランクⅠ

3.2020年度の試験について
自分が特に苦しんだのは課題条件の中のこんな一文でした。

その他介護に必要と思われる室を適宜計画する。

これにより、忖度で課題の難易度を上げてしまうという悪い癖が出てしまいました。前半は想定していたタイムスケジュールに乗らずかなり焦ったのを覚えています。
課題の特性上、難易度の感じ方も人によってかなり相違があったのではないでしょうか。

ところで自分の場合、焦ると露骨にミスが増えるので、途中で作業手順を工夫しました。
当初はエスキス→中間チェック→要点記述→作図という手順を予定していましたが、エスキス→要点記述→中間チェック→作図という手順に変更し、さらに要点記述に費やす時間を予定より15分程度縮めるなどして、落ち着いた精神状態で中間チェックが行えるように調整しました。

自分の日頃の課題や模試の結果等を見て、最低でもそれぞれ20分は中間と最終のチェック時間を確保できなければ落ちると考えてタイムスケジュールを組み立てていました。

【 試験時間6時間30分の内訳(目標値) 】
 ①:課題文読み込み20分+エスキス2時間
 ②:中間チェック30分
 ③:要点記述50分+作図2時間30分
 ④:最終チェック20分

実際に、中間チェックや最終チェックをしっかり行った人と行わなかった人とでは、合格率に大きな差が出るそうです。(総合資格調べ)

4.受験期間の思い出
自分は総合資格学院という資格学校に通っていました。そこでの製図試験対策は、ざっくり言うと、『当年度課題』でその年の課題に関する理解を深め、『基本課題』で与えられた条件に対する回答の仕方と基本的な型を学び、『オリジナル課題』でひたすら実践練習に励み、『直前対策課題』で総復習と対策が手薄なところの補填を行うという4段階のカリキュラムになっていました。
これに加えて、受講必須なのに最初の学費に含まれていない謎の講習で取り組む『強化対策課題』というのもあり、そこでは変わり種の課題や裏ワザ的な解き方に取り組みました。

せっかくなので、取り組んだ中で面白かった課題を3つほど紹介します。
1つ目は『強化対策課題3』です。
この課題の面白い点は、課題中の次の一文に集約されています。

構造種別は自由とし、地上4階建ての1棟の建築物とする。

製図試験はアウトプットがA2用紙に1/200スケールで作図と決められているので、必然的に建物の規模や作図する図面の数が決まってきます。
平面的な規模としては、敷地の大きさ48m×35m程度、建物の大きさ42m×28m程度のものが多い傾向にあります。
課題がゾーニング型であれば、地上3階建ての建物が求められ、1階平面図、2階平面図、3階平面図、断面図、面積表をA2用紙にまとめるといった感じです。
5階建てや7階建ての建物が求められる時もありますが、その場合、3階から上は同じプランが積み重なる基準階型と呼ばれるものになり、A2用紙には1階平面図、2階平面図、基準階平面図、断面図、面積表をまとめます。

『強化対策課題3』では敷地の大きさが36m×36m、建物の大きさが32m×31m程度となっており、作図については1階平面図、2階平面図、3階平面図、4階平面図、断面図、面積表が求められるという、近年稀に見るタイプの課題でした。

とは言え、定番のように感じる1階平面図、2階平面図、3階平面図、断面図、面積表というセットは、実際には2015年度の試験から求められるようになったもので、2014年度までの試験では主に1階平面図、2階平面図(又は基準階平面図)、梁伏図、断面図、面積表、構造要素の凡例、構造部材表が求められるなど、要求図面も年々変化することが分かります。


2つ目は『オリジナル課題⑤』です。
この課題の面白い点は、与えられた下記の条件です。

(2)2階テラスを、次の通り計画する。
①2階の居住部門の入居者が休憩時に利用できるものとし、2階食堂と一体的に利用する。
②1階の屋上に設けるものとし、まとまったスペース(直径8mの円が1つ入るスペース)として約100㎡(ピロティの部分及び上部に屋根、庇等がある部分は算入しない。)を確保する。
③植栽を計画し、通路、ベンチ、テーブル等を設ける。

(3)3階テラスを、次の通り計画する。
①3階の居住部門の入居者が休憩時に利用できるものとし、3階食堂と一体的に利用する。
②2階の屋上に設けるものとし、まとまったスペース(直径8mの円が1つ入るスペース)として約100㎡(ピロティの部分及び上部に屋根、庇等がある部分は算入しない。)を確保する。
③植栽を計画し、通路、ベンチ、テーブル等を設ける。

ステップガーデンが求められた課題です。エントランスホールには吹抜けを設けるという条件もあり、空間が立体的に連続するような建物が想像できました。換気やパッシブデザインに対する記述も求められており、実務でやらせて…と思いながら課題に取り組みました。
こういう魅力的な空間が設計出来そうな条件設定って良いなと思いました。

また、オリジナル課題⑤からは解答例が複数出て来ます。複数案検討出来るというのも課題に取り組む上で面白いところです。ただし、一度方針を決めたら枝分かれしないようにしましょう。

3つ目は『オリジナル課題⑨』です。
この課題の面白い点は程良い難易度の高さにあります。
課題文にはこうあります。

この課題は、病院に併設された「高齢者介護施設」を計画するものである。

本施設は、高齢者が自立して生活を行うための居住施設を設けるとともに、居住者も利用できる通所介護及び、地域住民が在宅で介護を受けることができる訪問介護のサービスを提供するものとする。

また、本施設の職員や病院の医療従事者も利用できる託児機能を有するとともに、地域住民との交流が図れるカフェや地域交流ホールを併設した計画とする。


プロジェクトの難易度はある程度ステークホルダーの多さに比例すると思っていて、この課題の難易度も要素の高さに由来します。
この課題で言うと、例えば、託児所の運営を子育て支援事業者に委託すると想定すると、その事業者が付き合いのあるデザイナーを定例会議に連れてきたりと、どんどん関係者が増えてきてみんなでワイワイ(場合によりギスギス)しながらプロジェクトを進めていく様子を思い浮かべながら取り組むと面白い(?)課題だと思いました。
ただ、この課題は流石に要素を詰め込み過ぎたのか、解答例もあまり上手くまとまっていませんでした。

製図試験の勉強は学科のそれ以上に体力を使いますが、このような面白い課題のおかげでモチベーションを保つことができたのだと思います。
とは言え、こういうことを言っていると「課題に面白さなんて求めてるから3回も受験するハメになるんだ!」と怒られたりします。
本当にその通りだと思います。課題を楽しむことは大切かも知れませんが、あくまで最優先すべきは合格のために勉強に取り組むことです。
合格のために勉強に取り組むとは、自分の足りない部分に時間を使うということです。出来ることだけをやり続けるのは試験対策ではありません。

ちなみに、各課題にはそれぞれ受験生が身に付けるべきテーマが設けられています。
テーマと言っても、駐車台数が多く求められた場合の解き方とか、テラスと屋上庭園が求められた場合の解き方とか、隣地との一体的な利用が求められた場合の解き方とか、そういう条件別のTips的・how to的なものです。
様々な条件に応じた解き方の型を自分の引き出しとして沢山蓄え、実際の試験で応用出来るようにと考えられたものだそうです。

5.課題に取り組む際のポイント3選
課題に取り組む際に、自分なりに心掛けていたポイントを三つ紹介します。(※あくまで自分に合っていた解き方なので、普遍的なものではありません。)

ポイント①:計画しやすい規模の箱を用意できるか。
初期検討でヘリアキ、仮想ヴォリューム、廊下係数という指標を用いて適正規模を導き出します。廊下係数とはその階の面積に対する当該階に計画する室の合計面積の比率です。今年の課題では1.4~1.6程度が適正であり、1.3だと窮屈で計画が難しく、1.7だと間延びしてしまうような印象でした。

学院ではグループミーティングという課題での小技やミス共有する時間が設けられているのですが、そこでも廊下係数1.3のところに無理に詰め込もうとしている人もチラホラ見受けられました。
廊下係数、重要だと思います。

ポイント②:要求事項の優先順位を見極め、減点量をコントロールできるか。
学院では『ごめんなさいするところ。』などと言っていて、例えば、約20㎡の広さが要求されていた医務室を10㎡で計画してもそれだけで合格が絶望的になることはないと言われている一方で、120㎡以上の広さが要求されている交流ホールを、先程の医務室を20㎡確保するために110㎡で計画してしまったなら合格は難しいと言われています。

設計ミスに対する減点量にはそれぞれ重み付けがあり、そのミス1つで不合格になってしまうものもあれば、点数にほとんど響かないと考えられているのもあります。
それらの重み付けを理解し、設計が上手くまとまらないような時に減点量を上手くコントロールできるかが重要だと思います。

私が通っていた総合資格では、課題ごとに各項目の減点量が分かる採点表が配布されていました。自己採点と講師採点を繰り返し、何をどうすれば減点量が減らせるか、逆にどんなことをしてしまえば減点量が大きくなるのかを勉強しました。
解答例にある『ごめんなさいしたところ。』の例をあげると、オリジナル課題⑤ではデイサービス部門の相談室が共用・管理部門の共用エリア内に計画されています。また、オリジナル課題⑨ではサブエントランスが総合案内から目視出来ない位置に計画されています。
あくまでも学校の基準ですが、この程度のミスであれば合否には響かないと考えられているのでしょう。

ポイント③:中間チェックと最終チェックをそれぞれ15分以上確保出来るか。
これが1番大事です。
完成してからチェックすると考えている人は製図試験に限っては考え方を変えてください。チェックを終えて初めて完成です。
先に20分以上と言いましたが、通常の注意力を持つ人であれば15分程度で良いのかなと思います。

6.設計に向いてない自分から見た一級建築士試験
妻がいなかったら心折れてた。

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