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ルールを厳密にしすぎない制度設計

こういう制度というか取り組みをツイートしたら予想だにしない反響がありました。書籍購入の支援って、福利厚生では結構やられてるところも多いと思ってたのでかなり意外でした。

一冊5,000円までで、書籍内容や購入回数などの縛りを特に設けない、というかなり緩いルールにしているのは、ともかく、何か学ぶ時に本を読む、本を買う、みたいな選択肢が思い浮かぶようになって欲しいなと考えたからです。これは会社やメンバーによって変わるとは思います。

木村石鹸のメンバーでは、本を読む習慣を持ってる人がそもそもかなり少ないという印象があります。何か新しいことに取り組む時も、僕なんかはとりあえず、その分野に関係しそうな本を数冊読んでみることから始めますが、今のメンバーでは、そういう選択肢が自然に浮かぶ人は少ないようです。今、木村石鹸では20代が一番多いんですが、20代のメンバーに聞いても、本を読むことに抵抗感を持っている人が多く、皆、苦手意識を持ってます。

本を読むことがそもそも苦手なのに、仕事やスキルアップのために、自腹で本を買うというのは、特に若手にはハードルが高いと思うので、そこの「買う」ところは、会社でなんとかしていこうという考えです。

こんなゆるい制度では破綻するんじゃないの?

こういう投稿には、色々な質問や意見も来るもので、その中には、この制度の許容度というか覚悟を確認するような質問も来ます。●●文庫全巻揃えるとかもありですか? 内容を問わないんだから好きなラノベシリーズすべて買うとかも当然ありですよね? 1冊10万、20万する本を何十冊買うとかでもいけるんですか? いくら使ってもいいということだから、毎月書籍代を会社が持ってくれるのだから、実質、10万ぐらい手取が上がることになる!とか。中には、自分なら一カ月で資本金ぐらいの額使う、なんて声もありました。

内容や回数を問わないとは書きましたが、一応、制度としては「常識に則って」「目的に適ってるかどうか」から判断する、という前提はあります。一人で書籍代だけで一カ月何千万使うとか、そんなことが許される制度でもないし、好きな本を何でも買って良いわけでもありません。言ってることとやってることが違うじゃないかとつっこまれそうですが、あえて制度を緩くしてるのは、うちの会社ではそれでも社員は理解してくれるという信頼があるからです。

常識に照らし、目的に適うかどうかから判断する

この取り組みの目的は、読書への抵抗感をなくす、本から知識を得る、学ぶことへの抵抗感をなくす、それによって読書を仕事やスキルアップ、自身の成長へ活かしていく土壌をつくる、ということです。 

その目的を考えて、その書籍の購入が妥当ならOKだと考えてます。厳密にルールは設けず、ケースバイケースで判断しますし、どこまでも「常識」に照らし、それが「目的」に対してどうなのか?という視点から判断する、ということにしておきたいなと思ってます。

細かいルールを作っていくと、じゃあ、これはいけてこれはダメなのかとか、厳密さの必要性がどんどん増していきがちです。厳密さを求めだすと、何でもルールで白黒判断する、線引きをしたくなります。曖昧なことを考えたり、議論したりすることよりも、ルールできちんと決めといたほうが楽だし早い、という思考に陥りがちです。そうやってどうしようもなく肥大化したルールが出来て、気軽に使えなくなってる制度を僕は何度も見てきました。

一気に何百冊、何千冊も書籍を購入するということが、そもそも目的のために適切な解決なのかどうかということを判断すればいいかと思います。好きなラノベを全シリーズ買うことが、この目的にとって適切なのかどうか。●●文庫全巻揃えることは、この目的に適うものなのか。そのへんは人によって判断が分かれるかもしれないです。

あと、もう一つ重要な視点は、経費といっても会社のお金です。ある意味、これは皆の共通の財布みたいなものです。うちの社員はそこはきちんと理解してると思います。書籍代で月に1人で100万使ったらどうなるかとか。言わなくても分かってるはずです。そういう信頼をベースに制度を作ってます。

出張旅費規程がないセムコ社の場合

僕の大好きなブラジルのセムコという会社には、出張などに伴う旅費交通費、出張費などの規定がないそうです。

普通の会社なら、宿泊費はいくらまでとか、交通費はいくらまでみたいな色々なルールが設けられてるはずです。それは、ルールがなければ、例えば、それこそ一泊5万とか10万とかするホテルに泊まってもいいのか、みたいな話になったり、移動も新幹線ならグリーン車、飛行機ならビジネスを使う、なんて人も出てきたりしてしまいかねない。なので、ルールを設けるんだと思います。

ところが、セムコにはその手のルールはないんです。あるのは社員は大人なんだから、常識に則って判断する、それを信じるというだけです。

そもそも会社の金だから、一泊高額のホテルに泊まろうみたいな思考になるというのは、そういう人を採用しているのが問題だと、セムコは考えます。

仮に一泊10万もするようなホテルに泊まっても、そこに泊まることが会社にとって重要であり、その判断について自信もって会社にメリットがあることだと言い切れる自信や覚悟があるなら、セムコはそれを許すでしょうし、また、セムコの社員たちも理解するのだと思います。例えば、物凄く大きな商談があって、商談相手がそのホテルに泊まっていて、自分たちも同じところに泊まることで、コミュニケーション機会を増やし、商談を良い方向に進めよう。そんな意図があるかもしれません。(なんか無理矢理こじつけてますけど)

あまり厳密なルールを設けない制度の意味

ルールを細かく決めておくメリットも当然あります。線引きや白黒をはっきりさせておけば、その範囲内で社員は自由に判断ができる。そっちのほうが楽だという人も多いでしょう。

また、毎度毎度ケースバイケースで判断を迫られると、それはそれで負荷も大きくて大変です。可能なものは誰もが同じフローや同じ判断ができるようにパターン化しておく方が効率的なのは間違いないでしょう。

僕も全部が全部、曖昧なルールで、各人の良心や道徳心に任せたい、というわけではありません。毎度、判断に悩み、悶々としたいわけでもありません。制度によってもそれは違います。

何か会社が制度を設けた時に、その制度の抜け穴を見つけたり、解釈の仕方で制度を悪用したり、そういうことをする人が中にはいるかもしれません。制度の範囲、ルールの範囲内でそれがなされていれば、それは社員の権利だというような主張で、そういうハック的な使い方を平気でしてくる人がいたりするのかもしれません。

でも、制度には何かしら目的があるわけです。制度やルールで決められた範囲だからといって何でもOKかというと、そんなことはないと思うし、それをOKにしないといけないなら、何か新しい制度を作るのには、いつも凄いリスクが潜んでいるということになり、結果、何もできなくなってしまわないでしょうか。

社員にとっても、本来、あまり細かいことを決めずにいることで得られてたメリットが、ルールの厳密さを求めてしまうと、自由度もなくなり、メリットが損なわれることもあるんじゃないかと思うんです。

こういう思考とか意識って、個々人の性質とか能力よりも、組織の文化とか風土的なものがすごく大きいんじゃないかなと思ってて、何か制度ができて、そこに厳密なルールが必要だと考える時点で、そういう社員がいるという前提に立ってる気がします。そういう社員がいるという前提に立った時点で、そういう社員は出てくるもんじゃないかとか。

どのように自律思考が芽生えるか、自律を促せるか?

もう少し別の角度からも言うと、意識してるのは、明確な線引きや判断は常に会社が提示するものだ、というような他律思考を社員に生じさせたくないなということです。これは例えば、給与制度なんかで考えると分かりやすいです。こういうセリフを耳にすることってないでしょうか。

「どうやったら給与が上がるか、会社がちゃんと示すべきだ」

どうやったら給与が上がるのか、会社がその基準とか方法を示すべき、というのは、当たり前のように思うかもしれません。でも、これって本当に「当たり前」なんだろうかと思うんですね。

木村石鹸の給与制度は、まず、社員自身がどんな貢献をするかを提示するというところから始まります。つまり、それは会社が何か提示するわけではなく、自ら自らの価値や能力を考え、チームとの関係や、組織における役割を考え、自らが決めるところから始まります。そして、その貢献内容が、報酬としてはいくらが妥当と思うか、ということを提案するわけです。会社が何か基準や方法を提示することはありません。あくまでも、自分基点でスタートします。これはある意味すごく自律を促す制度です。

「どうやったら給与が上がるか、会社がちゃんと示すべきだ」という意識からは、容易に「なぜ、自分は評価されないのか」とか「どのようにすれば評価させるかを明確に示すべき」とか、そういう意識に流れやすいのではないかと、前職時代からの経験も踏まえて僕は思ってて、これはある種すごく他律的だなぁと感じるわけです。

僕は出来れば、社員には自律して欲しいんです。実際、どうかは良く分からないですが、他律思考からモチベーションってなかなか生じない気がしてて、モチベーションの源泉は自律なんじゃないかと思ってるんですね。組織や事業にとって、個々人のモチベーションが重要かそうでないかは、色々考え方があるかと思いますが、僕個人としてはモチベーションが低い、やる気のない人と一緒に仕事するのはしんどいなと思ってて、そんなに高くなくてもいいけど、やっぱり自分で自分を律してて、ある程度前向きに仕事に向き合える人と仕事したいわけです。会社として自律型組織を目指していて、社員にも自律自律と言ってるのはそういう理由です。

随分脱線してますが、制度とかルールにおいても、どうやって自律思考を育むか、どうやって自律を促せるか、ということを考えてます。隅々まできっちりかっちりしたルールを設けて、そのルールにただ則って判断するというのは、それを繰り返しても多分、自律を促すことにはならないだろうなと思ってて、「常識」とか「目的」に常に向き合うとか、自ら問うとか、そういう行為や思考の積み重ねも、これはこれで重要なんじゃないかと思ってるわけです。

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