見出し画像

10年経ったけど「ストーリーとしての競争戦略」はまだまだ新鮮

この記事は、2010年8月1日にアップしたものです。ほぼ10年前ですかね。このブログ内で、この本の理論は10年は通用する強度は十分ある、と書いてたけど、果たしてどうだろうか。

僕個人は、今もこの本は年に1度ぐらいは読み直してて、自社の事業や戦略の組み立てにすごく参考にしている。全然10年経っても、まだまだ新鮮だ。

この本は間違いなく、ここ何年かでボクが読んだ企業戦略、事業戦略について書かれたものでは圧倒的に面白かった。経営に携わる人なら絶対に読んで損はないと思う。

今後もこの手の本は相当な数が出てくることは間違いないとは思うけど、この本が提示した戦略の考え方、その骨格は十分にあと10年は通用する強度を持っていると思う。

10年ぐらいの強度を持つだろうなんて、ビジネス経験がまだ15年のボクが言うのもおこがましいにも程があるが、でも、そういうのには理由がある。

それは、本書で展開されている理論が、一過性のトレンドや部分的な最適化や、特定の手法やフレームワークに頼るようなものではないからだ。

そういったものを否定するわけではない。ボクもその手のものは大好きで、流行りものは色々手にするし、ついついつまみ食いしたくなる。が、所詮、それらは一過性のブームであったり、特定業界や特定環境にしか適合しにくいものだったりすることが殆どだ。あるいは、より抽象的で理念的でよくよく考えてみたら、それが事業利益につながるのかどうか不確かなものだったり。

本書の内容は、全く違う。

本書は、なにか画期的なフレームワークや分析手法や、戦略を行動に結びつけるようなマネジメント手法が提示されているわけではない。なので、本書読めば、事業がどうにかなるわけではない。それで自社の問題点が明らかになるわけでもないし、自社の方向性が明示されるわけでもない。

本書が説明するのは、戦略や競争優位といったものの、もっともっと根幹の部分だ。かなり根っこの根っこ。根っこすぎて派手さもないけれども、でもそこをしっかりと理解しておくことで、世の中にはびこる膨大な経営理論や手法に踊らされることなく、ついつい襲われる流行りものをつまみ食いしたくなる衝動などを抑えることができ、自社の地に足のついた戦略を描くために必要な心構えや考え方の基盤となる、そんな根幹のところだ。

ボクは本書を読んだことで、今後読むであろう、手にするであろう経営や事業戦略の本を「つまみ食い」するようなことはなくなるだろうなと思う。画期的であるとか、自社の置かれてる状況にあまりにもぴったりと当てはまるだとか、都合の良いところだけに目をくらまされてしまうこともなくなるだろう。部分的、局所的な対処や療法を取り入れることもなくなるだろう。
それぐらい本書はビジネスの本質的なところをついてる。

また、本書が考える「戦略」がそもそも、10年、20年という競争優位を保持できるようなものを対象としている。ブームや景気に左右される「好調」さや、トレンドに乗っかって成長していくことなどではなく、持続的に利益を産み出していくための競争戦略こそが、本来の「戦略」であるという前提で貫かれている。

だから、本書自体が提唱する理論についても、それぐらいの年月に耐えうる強度を持っていなければならないのではないかと思う。ドラッカーの理論が、時代を超えても有意義なのと同じように、本書の理論も、極めて本質をついてるが故に、時間の経過による劣化は起きにくいものだと思う。

戦略の本質は「違いをつくって、つなげる」

本書内では、戦略の本質を「違いをつくって、つなげる」という一言で表現している。

この手の本では比較的文量の多い、ボリュームの多い本だと思うが、その内容のほぼすべては、この「違いをつくって、つなげる」という戦略の本質をブレイクダウンして精緻に検証することに費やされている。本書を読めば、本書のボリュームや、なぜこれだけの量が必要とされるのかもわかると思う。

違いをつくる」ということは、他社との違いをつくるという部分で、これはポジショニング戦略だとか、ブルーオーシャン戦略だとか世の中にはこの手の「違い」づくりの考え方をベースにおく戦略理論は数多くあるので、すぐに理解はできるだろう。

しかし、選択と集中/トレードオフを基本とするポジショニング戦略は、確かに重要であるが、他社が真似しようと思えば簡単に真似できてしまう。ブルーオーシャン戦略にしても、先行企業がブルーオーシャンを見付け出したとしても、それが市場として魅力的であれば、あっという間に競合も参入して、そこはレッドオーシャン化してしまうのではないか。

だから、「違いをつくる」ということだけでは、持続的な競争優位性の確保には繋がらない。そこで「つなげる」が必要になる。

「つなげる」とはストーリーをつくること

つなげる」という部分が、本書のタイトルにもなっている「ストーリー」というところを表していて、本書内でも最も重要な考え方となっている。「つながり」とは、2つ以上の構成要素の間の因果理論。「XがYをもたらす」という理由を説明するものだ。

重要なのは、「違いをつくる」ことと「つなげる」ということがワンセット、不可分な関係としてあるということだ。どちらか一方で戦略が満たされるわけではない。これらは綜合的な関係として存在する。

ポーターの競争戦略を読んだことがある人なら理解できると思うけど、ポーターは、競争戦略の本質として、ユニークなポジションに事業を置くということをまず考え、そこからそのポジションにおける優位性を強固にするための企業内での各活動のフィットを強化していくことが重要というようなことを説く。言ってみれば、「違いをつくって」のところがポジショニング戦略であり、「つなげる」という部分が、「各活動のフィットを強化する」という部分に該当する。

となると、ポーターと同じじゃないかとなるかもしれないが、本書の理論が少し違うのは、「つなげる」という部分に、より時間的な概念(ストーリー)を持ち込んでいるところじゃないかなと。

それによって、他の多くの企業が成功している企業の戦略を真似をするけれども、うまくいかない、それはなぜか? ということを論理的に解き明かそうと試みているところだと思う。

単に先行者メリットを享受しているとか、参入障壁ができることで追いつけなくなっているといったそれほど蓋然性が高いとは思えない持続的な競争優位性の確保ではなく、真の持続的な競争優位の確保、源泉とは何なのか、というところが解き明かされている。

他社からは不条理・不合理に見えるクリティカル・コア

それは、ストーリーの中での中核部分「クリティカル・コア」が、真似する側から見た場合、あるいは業界や市場の常識などから見た場合には「不合理」「不経済」にしか見えないのに、あるストーリーのパズルの1ピースとしてはまると、極めて合理的であり、戦略ストーリーを強固なものにするから、ということで説明している。

本書内では、アマゾン、デル、スターバックス、マブチモーター、アスクル、ガリバーといった成功企業の戦略が分析されている。これらの企業の成功分析や企業戦略は、様々な経営本や雑誌などでも取り上げられているので、多くの人は知っているだろうし、何を今さらという感じもあるかもしれない。しかし、本書内で、これらの企業の戦略ストーリーが読解され、そのストーリーにおける「クリエティカル・コア」が抽出されると、これまた多くの人は「えっ」と、ちょっと意外な感覚に陥るかもしれない。

デルが直販モデルで成功したことは誰もが知っている。その後、その成功を見て、IBMやコンパックといった巨人も直販モデルに参入したが、なぜ、デルのようにはうまくいかないのか? IBMやコンパックが小売や中間卸業者との関係性も重視せざるをえず、直販といっても中途半端にならざるをえないからか? 

本書内で示される答えは、そうではない。デルの「クリティカル・コア」は、自社でPCの組み立てを行っている、というところだと分析されている。

現代のPCはあらゆる部品がコモディティ化しているため、調達して組み立てるということは、言ってしまえば誰でも出来ることだ。またそれ自体で付加価値をつけることはほぼ不可能なので、普通に考えれば、組み立てなどの単純作業・労働は、真っ先に安い第三国などの海外アウトソーシングの対象となる業務だ。これが合理的な判断であり、考え方であることは間違いない。

IBMもコンパックも直販モデルに進出する場合には組み立ては外部アウトソーシングに任せている。が、戦略を「ストーリー」として考えると、自社で組み立てる、ということは、実は極めて当たり前のことであり、それによって戦略ストーリー自体が強化されるものになっている。

さて、理由がわかるだろうか?

自社で組み立てのほうが品質が上がる? 基本的には組み立て作業や業務の質は、どこでやっても同じ、むしろ外部アウトソーシングのほうが安くいし品質もよくなるということだという前提で考えてもいい。

おそらくわからないだろうと思う。この「わからなさ」が、競合が簡単に真似できない、追いつくことができない原因なのだ。ある企業の事業モデルやサービスが圧倒的に儲かっているとなれば、それを真似しようと色々な企業がその企業のやり方を真似するのは当たり前だ。

しかし、表面的に真似しても、うまくいかないことは多い。真似をしようとしても、合理的な理由から真似しない領域がある、真似できない領域がある。それが「クリティカル・コア」だ。

スターバックスはなぜ、フランチャイズ方式をとらずに、直営店方式をとるのか?

スターバックスを追随する多くのフォロワーは、スターバックスのコンセプトを真似しながら、フランチャイズ方式で店舗を増やしていっている。店舗出店にも莫大なお金がかかる直営店戦略を、多くの投資家は非難している。それでもスターバックスが直営店のみこだわる理由は?

ガリバーの「買取り専門」というコンセプトは、それまでの中古車業界においては画期的であった。単に良いことずくめなら、必ず誰かが始めるであろう。ガリバーが進出する前から中古車業界は成熟市場であったが、なぜ、ガリバーはその業界において「画期的」足り得たのか。

単に画期的ならば、ガリバーより先に誰かが始めたのではなかったか。また、ガリバーの成功に追随して、「買取り専門」を掲げる競合がいくつも現れてきているが、それらがガリバーに追いつけない理由はどこにあるのか?

ガリバーが単に先行者だからか? 違う。ガリバーの「クリティカル・コア」が他社には見えない、不合理に思えるからだ。その「クリティカル・コア」とは?

表面的に真似されてそれで競争優位性がなくなってしまうような戦略というのは、そもそも本書で言うような戦略ではない。本書が提唱する戦略とは、競合企業が簡単には真似できない、真似してもしても、真似すればするほどそのギャップが大きくなってしまうような、そんな戦略とはどのようなものかということを丁寧に解説している。

その答えは、実際に本書を手にとって読んで見て欲しい。きっと新しい発見があるはずだし、色々な成功企業の本当の「戦略」を知りたくなるはずだ。そして、すぐにでも頭を使って「戦略」を考えたくなるはずだ。

(この記事は、2010年8月に自身のブログに投稿したエントリーをnoteに再編集して移行させたものです

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?