努力や頑張りと関係なく、人は容易に後退してしまう
今思えば、イップスだったのかもしれない。
中学の野球部で今まで普通に出来てたキャッチボールが出来なくなってしまった。突然そうなったわけでもなく、何かうまく投げられない、みたいなことがちょくちょくあって、それがどんどん酷くなり、気づいたらまともにボールを投げる事ができなくなってしまっていた。
小学校の頃から野球部で、地元のソフトボールチームにも入っててキャプテンをしてたし、部活でもずっとレギュラーだった。今の僕からは想像もつかないかもしれないが、足も速くて、器用なほうだったので、色んなポジションを卒なくこなした。バッティングも長打があるタイプではなかったけど、ファールで粘って四球を待ったり、セーフティバンドで意表をついたり、相手チームにとっては「いやらしい」選手だったんじゃないかと思う。
中学でも野球部に入って、3年の先輩が抜けて2年の夏からの新チームでも、すぐレギュラーになった。守備範囲が広く、肩もそこそこ強かったので、センターを任された。守備には自信があった。ボールを追ってキャッチするという一連の流れを僕はかなり上手く出来た。バットにボールが当たる音を聞いた瞬間、カラダが動いた。自慢の足をいかして、普通なら抜けていくであろう左中間や右中間の当たりにも追いついて、シングルヒットにしたり、僕自身、野球にうまく対応できてる自信があった。
ところが、多分、その年の冬だろうか。ボールがうまく投げられなくなってしまった。何がきっかけだったのかは覚えていない。キャッチボールをやっていても、ボールを地面に叩きつけてしまったり、全然見当違いのところに投げてしまったり。うまく投げられないと気になりだすと、どんどん怖くなっていって、自分が今までどんな風に投げていたのかが分からなくなった。
壁などに向かって一人で投げてる分には、そこまで酷くはないのだけれど、とにかく人にボールを返さないといけない、投げないといけないとなると、投げられない。ノックを受けていても、ボールをキャッチするところまでは何の問題もないのに、ボールを返そうとするとうまくいかない。
そんな状態が続いて、レギュラーを失ってしまった。そりゃそうだ。ボールをまともに投げれないで野手が務まるわけがない。
そのまま何のきっかけも得ることができず、3年の夏を迎えた。相変わらずボールは投げられず、投げられないことが当たり前になり、他のチームメンバーも、そんな僕をそういうヤツとして認識するようになってた。
3年生は夏の大会で負けたらその時点で卒業となる。僕はずっとベンチだったが、早く負けて引退できることを祈っていた。野球をするのが嫌で嫌で仕方なかったからだ。とはいっても、野球部を辞める勇気もなく、こんなまともにボールも投げられない状態で野球して意味があるのかと思いつつ、結局、最後まで部活は続けていた。
記憶は曖昧だが、多分、初戦か二戦目とかで負けて、3年生はあっさり引退となった。たぶん、その時の僕は相当清々しい気分だったのだろうと思う。
それ以来、僕は野球から完全に離れた。野球から興味を失った。夜はたいていプロ野球中継を見ていたが、一切見なくなったし、春夏の高校野球も大好きだったが、まったく興味がなくなってしまった。今なんて、僕はプロ野球チームが何球団あって、どんな球団があるのか、そんなことすら分からないぐらい、まったく野球のことを知らない。今知ってる現役選手って、大谷ぐらいかもしれない。
中学以来、野球はまったくやっていない。たまに何かの機会でキャッチボールをやるぐらいはあったが、それも数球投げ合うぐらいだろうか。そういう遊びのキャッチボールだと、たぶん、普通に投げる事ができたとは思うが、でも、正直、今でもキャッチボールも好き好んでしたくはない。
今になって思えば、あの症状はイップスだったんだろうなと思う。たかだか中学の野球部ごときでとは思うけど、そういうイップスもあるんだろうと思う。
こんな長いどうでも良いエピソードを書いてきたけど、何が言いたいかというと、人は本人がどれだけ頑張っても、頑張ろうと努力しても、どうしようもなく後退してしまうケースはあるんだ、ということだ。
ビジネスにおいては特にだけど、組織も人も「成長する」ということが、当たり前のようなものとして認識されている。成長できてない状態は、何かしら努力や意識が足りないとみなされる。しかし、成長できないどころか、後退してしまうケースもある。
今まで苦もなく出来てたことが、突然、出来なくなってしまう、ということはイップスじゃないけど、たぶん、普通にあることなんじゃないかと思う。
でも、その時、僕らの頭には「後退する」なんてことが起こる発想がまったくないので、後退した人には冷たい視線を送ってしまうことが多々あるんじゃないか。本人が頑張ってないから、意識が低いから後退してんだと烙印を押してしまう。
後退してしまった人にどう対応すべきなのかは、僕には良くわからない。イップス的なものだとしても、それを克服するのは結局、本人次第だとは思う。でも、本人の努力や頑張りとは無関係に後退してしまうことはあるんだ、ということは、ちゃんと頭に入れて、それを理解した上でその人と接していく必要はあると強く思っている。
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