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スティーブ・ジョブズが愛した音楽【1】ボブ・ディラン

ウォルター・アイザックソンの「スティーブ・ジョブズ」を読んだ。
今回は、本書の中身について云々というのは触れず、ジョブズが愛した曲やミュージシャンを2回に分けて取り上げようと思う。

1回目はディラン。2回目はビートルズ。

ジョブズは60年〜70年代のロックやニューミュージックをとても愛していた。中でもディランには並々ならぬ熱意を注ぎ、のめり込んでいる。

ミスター・タンブリン・マン

本書の小見出しには、音楽好きのジョブズに配慮してか、ジョブズが好きだったビートルズやディランの曲名がいくつか使われている。例えば「ベイビー・ユーアー・ア・リッチ・マン」「ライク・ア・ローリング・ストーン」「ヒア・カムズ・ザ・サン」などだ。この「ミスター・タンブリン・マン」もそのうちの一つ。もちろん著者は音楽業界を魔法にかけて巻き込んでいくジョブズを「ミスター・タンブリン・マン」だと捉えたのだろう。

12弦ギターの美しいイントロが特徴的なThe Byrdsのカバーバージョンが有名になってしまった感もあるけど、もちろんオリジナルはディランだ。アルバム「ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム」(1965年)に収録されている。アルバムとしては5作目で、ちょうどフォークからロックへの転換期にリリースされたものだ。この後、歴史的傑作と称される「追憶のハイウェイ61」を1996年にリリースし、ディランのロックスタイルは決定的なものとなった。

「追憶のハイウェイ61」より、個人的には「ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム」の方が好き。

ジョブズは、この頃のディランについて次のように語っている。  

1966年のヨーロッパツアーが最高だ。アコースティックギターで何曲か演ってすごい拍手を受けるんだ。で、のちにザ・バンドとなる連中をステージに上げるとエレキで演奏をはじめて、会場からブーイングが出たりする。「ライク・ア・ローリング・ストーン」を歌おうとした瞬間には、会場から「裏切り者!」って声が上がっていね。それにディランは「めいっぱいでかい音で演やるぞ!」ってがんがんにいくんだ。ビートルズも同じだった。進化し、前に進んで、自分たちの芸術を少しづつ高めていった。僕もそうありたいと努力してきた──前に進んみ続けるんだ。そうでなければ、ディランが言うように、「生きるのに忙しくなければ死ぬのに忙しくなってしまう」からね。  

ボクもこのあたりの映像は、「ボブ・ディラン ノー・ディレクション・ホーム [DVD] 」で観たが、「フォークのディラン」を期待する観客の前で罵倒されながらも飄々と演奏し、歌うディランの姿には、やはり心うたれるものがある。  

1966年のライブでの「ライク・ア・ローリング・ストーン」。かっこ良すぎ。

ジョブズはディランを相当愛していたようで、彼のiPodには、ファーストアルバム(1962年)の「ボブ・ディラン」から1989年「オー・マーシー」までに発売されたアルバムのうちの15枚と、それ以外にも海賊版の作品集なども6つも入っていたと紹介されている。ジョブズは「血の轍」以降のアルバムをあまり高く評価はしていないようだ。

アップルから追放されたちょうどその時、ディランのアルバム「エンパイア・バーレスク」が発売され、ジョブズはハーツフェルドとアルバムの何曲かを聴くが、どれも気に入らない、というエピソードが紹介されている。

僕が初めて買ったディランのアルバム

ボクが初めて買ったディランのアルバムは、実はこの「エンパイア・バーレスク」だ。当時、ボクはビートルズにどっぷりはまってて、ビートルズの文献やら記録映画やら雑誌やらを漁っていた。姉がビートルズファンクラブに入ってて、その会報誌もかなりの数が家にあったし、ビートルズ関連の書籍も当時としてはかなりの数があったので、ボクはそういうものを手当たり次第に読み漁っていたのだ。その過程で必然的に、ディランと出会うのだが、ボクが嬉しかったのは、ディランは今もなお活躍していたということだった。ビートルズはすでに解散し、ジョン・レノンはすでに凶弾に倒れてしまっていたのに対して、ディランは当時もなお伝説を作り続けていた。(でも、まぁ一般的には「オー・マーシー」ぐらいまでの何作かは、ディランの暗黒時代というか、ディラン史の中からも葬り去ってる人も多いと思うが)

で、このアルバムを手にするのだが、当時はディランの歴史をきちんと知らなかったということあって、ボクはこのアルバムをけっこう聴きこんでいる。なので、今回、本書を読んで、久々に気になってこのアルバムの収録曲をYouTubeで聞き返してみたのだが(すでにアルバムは手元にはない。)、思い入れみたいなものもあるのだろうか、やっぱりそんなに悪いとは思えなかった。これはこれでディランなんじゃないかなと。

当時観たいと思いつつ、観ることができなかった「Tight Connection to My Heart」のPVを今回初めて観た。日本が舞台で倍賞美津子が登場する。ディランの下手な演技がなかなか笑えるのだ。  

いつもの朝に(One Too Many Mornings)

あのジョブズでもディランと初めて対面したときは口が聞けなかったそうだが。ディランからお気に入りの曲を尋ねられ、ジョブズは「いつもの朝に」を上げ、ディランはそれをコンサートで歌ったという逸話が残されている。

1964年のアルバム「The Times They Are a Changin’」に収録されている曲だ。
 
もちろんアルバムタイトルともなったディランを代表する曲の一つと言っていい「The Times They Are a Changin’(時代は変わる)」は、1984年の歴史的なアップルの株主総会の開会宣言の詩として引用されている。「・・・・今日の勝者も/明日は敗者に転じるだろう/時代は変わるのだから」という箇所を引用し、世界を支配しよとするIBMに対抗し、世界を変える救世主として「マッキントッシュ」を紹介する。  

ディランのiPodコマーシャル

実はこのCMをボクはあまり覚えてない。この頃、ディランにもう興味を失ってしまっていたというのもあるのかもしれない。アルバム「Modern Times」とのタイアップで、ディランの再評価、若い新しいファンの獲得に一躍を買うことになったCMだ。このプロモーションがきっかけとなり、その後、多くの有名アーチストがこぞってiPodの広告に出たがるようになった。  

ジョーン・バエズ

ジョブズの元彼女だ。1982年にあるきっかけでジョブズはバエズと出会い付き合い始める。ジョブズが27歳、バエズは41歳。ジョブズがバエズに惹かれたのは、必ずしも彼女そのものの魅力や才能だけではなく、やはりディランとの繋がりが大きかったのだろうと推測されている。1960年代はじめ、バエズとディランは恋人同士だったからだ。

ジョブズのiPodの中に収録されている曲として、バエズの「愛はちょうど四つの文字のよう」が挙げられている。しかしこの日本語タイトルって凄いな。

原題は「Love is just a four letter ward」のこと。曲を書いてるのはディランだ。  

ジョーン・バエズは、ディランつながりで知ってはいたけれど、きちんと聴いたことはなかった。ディランの曲というのは、The Byrdsにしても、PPMにしてもそうだが、他のアーチストが演やると、本人が歌ってる時にはよくわからなかった美しいメロディが浮かび上がってくるから不思議だ。こういう曲を聴くと、ディランがコンポーザーとしても極めて優秀で、繊細なメロディを生み出す能力を持っていたということがよくわかる。

もう一曲。ちょくせつこの曲が出てくるわけではないが、ジョブズの息子のTシャツにプリントされていた文字として出てくる「フォーエバー・ヤング」。大好きな曲の一つなのでこちらも紹介しておこうと思う。  

(この記事は、2011年11月に自身のブログに投稿したエントリーをnoteに再編集して移行させたものです)  

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