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エレベーターピッチでは説明しきれないものを

エレベーターピッチなんて言葉がありますね。

VCや投資家から投資を受けるためには、そういう偉いさんがいる高層階までのエレベーターのわずかな時間でビジネスの魅力や優位性を伝えられなければならない、みたいな意味だったかと思います。要するに、自社の魅力は簡潔に伝えられ、伝わるものでなければならない、ということです。

僕はピッチイベントには出ないと決めています。ピッチイベントとは、数分という決められた短い時間で自社をアピールして優劣を競うような場です。投資を受けることを目的としたものもあれば、協業先を探すものもあれば、単純に自社のことを広く知ってもらうことが目的のものまで様々なピッチイベントが開催されています。

ピッチイベント自体が悪いとも思いませんし、ピッチイベントに出てる人や会社がどうこうとも思ってません。むしろ、ピッチのような場で自社の魅力をきちんと伝えられることは凄いことだなと思うし、純粋にカッコいいなと羨ましかったりもするわけです。

ただ、木村石鹸という会社のキャラクターや、やってることを考えると、ピッチには向いてないなと思うだけです。ピッチ受けするような要素をうまく組み立てて構成することは、多分、出来なくはないと思います。でも、それで伝えられるものって、本来の木村石鹸の強みとか特徴とは違うものになっちゃうんじゃないかという気がするんですね。

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僕は、木村石鹸の魅力や優位性みたいなものは簡単に説明できないところにこそ存在していると思ってます。簡単に言葉にできない、説明できないからこそ「強い」「競合優位」だったりするんじゃないかと。

強いて言うなら、木村石鹸の強みって「」なんです。一言で言ってしまえば、人がすごいよ、ということです。それも一人一人の能力とか経歴が凄いよって意味ではなく、チームや組織として動いてる時に凄いパフォーマンスを発揮する、という意味でのすごさです。

これって言葉にすると陳腐というか、あんまり訴えかけてくるものがないですよね。しかも再現性もなさそうだし。ピッチで自社の優位を、「人がすごい」なんて語ったら、多分、一笑に付されるんじゃないでしょうか。

でも、「人がすごい」としか言いようながないところがあるんです。それ以上、どれだけ言葉で説明しても意味がないような...

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例えば、サウスウェスト航空の強みは「旅客機の統一、不要な機内サービスの廃止、短距離輸送へのフォーカス、飛行機の陸上待機時間の短縮などを通じて徹底的な効率化をはかることで、格安運賃を実現する」ということではないと思うんですね。

もちろんそういった「モデル」というのは重要ではあるけど、そんなものは他の航空会社だってやろうと思えばできるわけです。実際、サウスウェスト航空が中距離格安航空として成功を収めたのを見て、大手各社も同じモデルで同じ路線に進出してきた例は沢山ありました。でも、結果的には、ほとんどうまく行かなかった。なぜか?

サウスウェスト航空の強みって、モデルじゃないんですね。

サウスウェスト航空の強みは従業員の会社への忠誠心の高さや、仕事に対する熱意みたいな、漠然としたものにあるんだと思うんです。そういう曖昧なものをベースとして個々の業務がポーター先生の言い方を借りるならフィットしている、そこに強みがあるわけです。

でも、サウスウェスト航空の強みたいなものって、たぶん「エレベーターピッチ」としては面白くないないですよね。

「人」は損得だけでは動かないし、数学の方程式みたいにきちんと解があって、こうやってこうやったったらこうなる、みたいなことがありません。

会社のミッションに「従業員は協力、励ましあい」みたいなことが掲げられていても、それが実践できるかどうかはまったく別の話です。

投資家などにとっては判断しにくい材料だろうと思います。いくらそんなこと言われても、それが会社の成長や業績にどんな好影響を与えるのかということを数字として明確に説明できるものでもないですし。

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人ってよく分からないから魅力的だと思うんですね。機械なら性能やスペックがきちんとあって、基本そのパフォーマンスをきちんと発揮してくます。でも、人ってめちゃくちゃムラがある。しかも、人は他の人や環境によっても影響を受けてパフォーマンスが変わっていく。

めちゃくちゃうまく機能してたチームに困ったちゃん一人加わるだけど、チームが機能しなくなったり、その逆もしかりで、1人増えた減ったで急激にチームとしてのパフォーマンスが上がったりすることもある。不確実性がすごく高いんですね。

所謂、ジョブ型組織と言われるような組織形態というのは、こういうブレを極力なくすために「ジョブ」という枠組みをしっかり作り、そこに人を当てはめていく、というマネジメントスタイルなんだと思います。

木村石鹸の場合は、ジョブ型でもないし、その対極のメンバーシップ型かというと、そうでもないんですね。各人の役割は状況によっても変わるし、それを各人は勝手に考えて色々やってるという感じでしょうか。自由形。

なので、うちでは営業担当が、普通に自社商品の開発ディレクションやってたりもするし、なぜかTwitterのアカウントを担当してるのが東京と大阪で2名いたりします。広報担当ならぬ広報系の役回り、という意味では3~4人該当する人がいる。三重の新工場にいたっては、工場長という存在はおらず、強いて言うなら、全員が工場長という、かなり面倒臭いことになってます笑 3年前から組織図もなくしてますが、多分、誰も気づいてません。

こういう説明すると、そんな適当で大丈夫なのか、無駄が多すぎるんではないか、組織として機能しないのではないか、と心配されることが多いんですが、もちろん問題もあります。が、その問題を補って余りあるぐらいに、社員はすごく積極的に色んなことに取り組んでくれてます。自由度は高いけど、かといって自分がしたいことしかしない、みたいな人はいません。

こんなのピッチで説明したところで、何それ?って感じじゃないかと。どうやってそれを実現させてるのか、何がそういう状況を作り出す要因なのか、みたいなことを問われても僕にもよく分からないです。

その状況が社員が増えていっても成立するのか、組織が今より何倍も大きくなっても成立するのか、そんなことも正直よく分からないわけです。良くわからないので考えないようにしてますが。

つらつらと書いてきましたが、どうでしょう。やっぱりピッチには向かないでしょう。でも、うちは人がすごい。これだけは自信もって言えることです。それは分かってもらえたのではないかなと思います。


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