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旅行予約から決済へ。節約がテーマのスーパーアプリ「Super.com」

こんにちは!Z Venture Capitalの湯田です。

先月、Z Venture Capitalのオフサイトミーティングに参加するために韓国に行ってきました。
キャッシュレス比率が9割を超える韓国、現金は不要だろうと高をくくっていたのですが、甘かったです。韓国では電車やバスの移動の際にT-moneyカード(日本でいうSuicaやPasmoのようなもの)を使うと便利なのですが、カードへのチャージが現金でしかできないことに、現地に到着してから気づきました。まだまだ越境でのお金に関する課題は残されていると身を持って感じる体験でした。

さて、今回は旅行予約から始まり、コマース、フィンテック領域に進出した「Super.com」を取り上げます。

Super.comは昨年の資金調達ラウンドで、8,500万ドルを調達し、現在までに総額2億ドル以上を調達している急成長中のフィンテックスタートアップです。

旅行予約、コマース、そしてフィンテックの機能を統合し、「節約」をテーマに、ユーザーが効率的にお金を節約できる環境を構築しています。

Super.comが提供するSuperPayという独自カードは、約1年で500万人以上の顧客が利用し、総額1.5億ドル以上の節約を支援したとのことです。この規模の実績から、BtoCのフィンテックとして近年の中でも注目株と言えます。

今回Super.comに注目した理由は以下の2点です。

  • 高い成長性:昨年からの約1年間で、Super.comは2桁の成長を達成し、2023年には10億ドル以上の総商品取引額と1億ドル以上の純収益を達成する勢いを見せています。

  • 独自の進化を遂げたスーパーアプリ:Super.comは元々旅行予約サービスでした。そこから、コマース領域にも進出した後、SuperPayと呼ばれるカードを開発し、去年フィンテック領域に進出しました。一時期中国でAliPayやWeChatのようなスーパーアプリに注目が集まりましたが、世界的にはこのような成功例は多くありません。一方で近年欧米ではUber、Google Maps、PayPal、Robinhood、Coinbaseなどを始めとするテーマベースのスーパーアプリが生まれており、Super.comの事例からプロダクト展開のヒントを得たいと思います。

今回の記事も、現在Z Venture Capitalでインターンをしているmomokaさんに調査の協力をして頂きました。スタートアップに関する発信を行っていますのでこちらのTwitterもぜひフォローください。


基本情報

  • 設立:2016年/アメリカ

  • 累計達額金額:$265.7M/シリーズC

  • バリュエーション:不明

  • 従業員:225

  • HP:https://super.com/

創業者の経歴

出典:https://techcrunch.com/2021/03/04/snapcommerce-raises-85m-to-help-consumers-find-good-deals-over-chat/
右:Hussain Fazal氏(共同創業者CEO)左:Henry Shi氏(共同創業者CTO/COO)

Super.comは、Hussain Fazal氏とHenry Shi氏によって共同創業されたスタートアップです。

Hussain Fazal氏は、ウォータールー大学で数学とコンピューターサイエンスの学士号を取得し、大手電気通信会社でエンジニアとして3年間働いていました。その後、2008年にFacebook広告テクノロジー企業であるAdParlor(後にAdknowledgeに買収)を共同設立しました。

もう一人の創業者であるHenry Shi氏は、ウォータールー大学で学士号を取得し、ジョージア工科大学でコンピューターサイエンスの修士号を取得しています。その後、GoogleやBloombergでエンジニアリング職を務め、大学生向けの位置情報プラットフォームのuMentionedを共同設立しました。

Hussain Fazal氏とHenry Shi氏はそれぞれの会社を去った後、Super.com(旧Snap Travel)の創業に向けて、サービスアイデアを決めるのに時間を要しました。最初はB2Bのバックオフィス業務処理SaaSをいくつか試しましたがスケーラビリティに欠けていたため断念しました。しかし、その過程でHotels.comやExpediaの関係者と話す機会があり、ホテル業界に関するブレストを行う中でSnap Travelのアイデアに出会い、2016年に創業しました。

それでは、Super.comの創業からの歴史を振り返ってみましょう

Super.comの歴史

  • 2016年:創業

    • Hussein Fazal氏と Henry Shi氏が共同設立し、SnapTravel という名前の旅行取引 Web サイトとしてスタート

    • Facebook Messenger上でホテル情報を提供し、SnapTravelを開始後すぐに、チャット型ECとしての地位を確立

出典:https://medium.com/super/snapcommerce-raises-85mm-the-future-of-mobile-shopping-db8899cfc732
  • 2017年:シリーズA資金調達

    • iNovia Capitalが主導する 800 万ドルのシリーズ A ラウンドを発表

  • 2018年:新たな資金調達の実施

    • 新たに2,120万ドルの資金調達を実施し、Telstra VenturesとNBAスーパースターのStephen Curryを含む戦略的投資家からの支援を受ける

    • 35,000以上のホテルで35万泊以上を予約可能に

  • 2021年:シリーズB資金調達

    • シリーズB資金調達で8,500万ドルを調達

    • 2021年時点で数百万人のユーザーにサービスを提供し、ユーザーの買い物にかかる時間を100,000時間以上節約し、7,500万ドル以上の金額の節約を実現

出典:https://medium.com/super/snapcommerce-raises-85mm-the-future-of-mobile-shopping-db8899cfc732
  • 2022年:Fintechサービス開始

    • 障壁なしに信用を築くことができるキャッシュバックカード"Super Pay"をローンチ

    • Snapcommerce は、金融サービス業界への拡大を示すために、2022 年 10 月に Super.com にブランド変更

  • 2023年:シリーズC資金調達

    • Inovia Capital が主導するシリーズ C 資金調達ラウンドで 8,500 万ドルを調達

主な機能

出典:https://techcrunch.com/2023/04/24/super-com-savings-super-app-fintech/

Super.comは、旅行やショッピングなど複数のカテゴリーでユーザーがお得な情報を発見し、「節約」できるように様々な機能が統合されたアプリを提供しています。このアプリの特徴は、広範なサービスを1つのアプリ内で提供し、異なるサービス間をスムーズに移動できる「橋渡し」がうまく作られている点です。たとえば、ホテルの予約後には、旅行先での携帯通話やレンタカー、ガソリン代の節約につながる提案がAIで行われ、ユーザーは簡単かつ迅速に関連するサービスにアクセスできるようになっています。

Super.comが提供する機能は、「旅行予約」、「Eコマース」、「決済」の3つに大きく分類されます。同社はこれまでにSnaptravel→Snapcommerce→Super.comと2回社名を変更しており、旅行予約、Eコマース、フィンテックの機能を融合させたスーパーアプリへと進化しています。

それでは、具体的な機能を紹介していきます。

旅行予約

出典:https://apps.apple.com/jp/app/super-com-travel-save-earn/id1450304211

通常、旅行プランを検索し比較するのに無限にブラウジングする経験を持ってる方も多いのではないでしょうか。旅行プランの比較は時間がかかりますが、Super.comではその煩わしい手間が不要になります。ユーザーはSMS、WhatsApp、メッセンジャーを経由して、ボットと人間のエージェントの両方とチャットしながら、パーソナライズされた旅行先のホテルや観光地の提案を受け取ることができます。

また、ホテルを簡単に予約できるだけでなく、電子機器、ファッション、家庭用品などのブランド製品を最大30%割引で購入できる点も魅力の一つです。さらに、決済サービス「SuperPay」を使用することで、最大10%のキャッシュバックが得られるため、ユーザーはさらにお得な購買が可能となり、価格に敏感な顧客を惹きつけています。

Eコマース

出典:https://betakit.com/snapcommerce-secures-107-million-cad-as-signal-of-confidence-in-move-beyond-travel/

ショッピングにおいても、旅行予約と同様に、チャットや検索履歴に基づいて個々のユーザーに適した割引を提案してくれます。電子機器、ファッション、家庭用品などの商品のクーポンが手に入るため、ユーザーは様々なカテゴリーのショッピングで節約ができます。気に入らない場合やニーズに合わない場合は、送料無料で返品をリクエストすることも可能です。

商品を提供するブランドはSuper.comと提携することで、マーケティング費用を削減し、個別メッセージを通じてターゲット ユーザーにリーチできるメリットを享受できます。直接的なコミュニケーションにより、信頼を構築し、顧客の体験をパーソナライズすることもできます。

コマースに注力している際に、共同創業者であるHussain Fazal氏は、一定数の顧客がデビットカードを利用して買い物していることに気づきました。これらの顧客は通常、クレジットカードにアクセスできないか、信用スコアに不安を感じていることが一般的でした。この洞察から、収入や状況に関係なく全ての人が利用できるサービスを作りたいと考え、信用調査や利息なしで使用できる「SuperPayカード」をリリースし、フィンテック領域に進出しました。

フィンテック

出典:https://www.super.com/home/

2022年、社名をSnapcommerceからSuper.comへ変更し、フィンテック領域の進出をきっかけにサービスのリブランディングが行われました。

Super.comが提供するSuperPayカードは、個人信用情報センターの信用情報がなくても誰でも作ることができるデビットカードでありながら、口座の残高に基づいて信用枠が付与されるクレジットカードでもあります。
このカードは、各取引のタイミングで引き落としが行われるのではなく、クレジットカードの請求サイクルで口座から引き落としを行う仕組みです。そのため、信用情報が十分でない低所得層の方でも、キャッシュバックを得ながら信用を築いていくことができる点が特徴です。

ユーザーは主に、以下の金銭的な恩恵を受けられます。

  • 毎回の買い物で1~10%の無制限キャッシュバックを得られる

  • 手数料不要で最大200ドルまで借りられる

  • ガソリン代や薬局での処方箋に対する割引特典

  • ゲームやアンケートへの参加でポイントが貯まる

既存の個人信用情報ではカード利用が難しかったユーザーも、カードを使って決済できるようになることは、旅行予約サイトの競争力を高める観点でもメリットがあります。カード払い利用者が増えることで宿泊施設側にとっても、キャンセルされた場合のキャンセル料を請求しやすくなり、当日の受付業務も効率化できるなどのメリットがあるため、SuperPayの提供は、旅行予約サイトの価値を向上させる取り組みとも言えます。(Super.comの主な収益源は、ホテルの予約に応じて発生する販売手数料です。)

また、カード会員限定のキャッシュバック特典やポイントを付与することでSuper.com独自の経済圏を作り、ユーザーリテンションを高める狙いとしてFintechを活用していると推察できます。

このように、異なる事業をうまく組み合わせてアプリの価値を高めてきたSuper.com。スーパーアプリの実現は簡単ではありませんが、CEOのHussain Fazal氏が語る6つの原則がその成功のポイントとなっています。

それでは、Hussain Fazal氏が語る6つの原則について見ていきましょう。

スーパーアプリ6つの基本原則

中国発のAlibabaやWeChatのような包括的で幅広い機能を持ち合わせたスーパーアプリは非常に特殊な例で、北米には存在しません。北米では「テーマベース」のスーパーアプリが台頭しています。例えば、モビリティを中心とするUber、位置情報を中心とするGoogle Maps、金融ツールを中心とするPayPal、投資を中心にするRobinhood、仮想通貨を中心にするCoinbaseなどが代表的な例です。

  • Uberであれば、「飲食店のフードデリバリー+食料品の買い物」

  • Google Mapであれば、「道案内+チケットの購入」

のように、一貫したブランド体験を連続で提供することで、ユーザー体験をより向上させられる点がスーパーアプリの強みです。そんな中でSuper.comが中心に据えるテーマは「節約」です。「ホテル予約+カード決済」のように、今後も「節約」というテーマに基づき、特定のニーズや興味に合わせて機能を統合し、ユーザー体験を向上させていくことを目指しています。

出典:https://medium.com/super/the-rise-of-theme-based-super-apps-in-north-america-64bf766c09fd

CEOのHussain Fazal氏は、このようにテーマを中心としたスーパーアプリを作るためには6つのポイントがあると語っています。(詳細はリンク先を参照ください。)

  1. サービス間の「架け橋」を築く
    ユーザーは通常、特定の目的や意図をもってアプリをダウンロードし、その目的に集中します。そのため、関心があるもの以外のサービスは使わないことが多いです。スーパーアプリでは、ユーザーが異なるサービス間をスムーズに移動できる「橋」を構築することが重要です。
    例:Super.comでは、ホテルの予約をした直後に、旅行プランでさらにお金を節約する提案を行い、ガソリン代の節約も促す「橋渡し」を行っています。

  2. 摩擦のないアクティベート体験
    新しいサービスの発見とアクティベーションには、摩擦のない体験が必要です。摩擦を取り除くごとにアクティベーション率が向上し、顧客が複数サービスを利用することを促進できます。
    例:Super.comでは、ホテル予約をデビットカードで支払った顧客に、Super Payカードへのアップグレードを提案し、既存の情報を利用して簡単にKYCを完了させます。そして購入した商品に対して即時割引を提供しています。このように個人認証や決済情報、リワードなどを組み合わせて新しいサービスへの移行をスムーズにし、他のサービスを利用する成功率を高めています。

  3. ユーザーが高頻度で利用する機能を持つこと
    スーパーアプリが成功するためには、顧客がほぼ毎日触る数少ないアプリの1つとなる必要があります。
    例: チャット、ソーシャル、決済などの高頻度のユースケースから始めることが望ましいです。目標は顧客を忘れやすいゾーン(Forgettable Zone)から習慣ゾーン(Habit Zone)に導くことです。

  4. 一貫したブランド体験
    スーパーアプリ内の異なるサービスは、ブランドポリシーを守り、一貫したブランド体験を提供する必要があります。
    例: ユーザーはUberを使用する際、UberXに乗車する時も、黒塗りの車に乗る時も、食べ物や花を注文する時も、一貫した体験を受けています。

  5. すべてのユーザーがすべてのサービスを利用することを期待しない
    多くのユーザーは1つの目的のためにアプリを使用し、それ以外のサービスを無視するかもしれないことを許容します。逆に言えば、少なくともコアサービスは独立して機能する必要があります。そしてスーパーアプリとしては、2つ以上のサービスが独自の成長ループ、ユーザー獲得およびリテンション、ユニットエコノミクスを備えて自立運営されている必要があります。

  6. 人工知能の活用
    AIは、スーパーアプリのモデルを加速させるのに役立ちます。適切なアプリ内通知、ホーム画面のレイアウト、タイムリーな割引といったパーソナライズされた顧客体験を提供することで、追加サービスの利用率を大幅に改善し、複雑さの解消につながります。

最後に

日本でもBaaSの環境が整備されつつある中で、Super.comのように既存サービスの利便性を向上させながら収益性を高める手段として、データを活用したフィンテック事業への展開は今後さらに増えていくと考えられます。

今後は、基盤としてAIを活用しながら、いかにシームレスな体験で各サービス間に「橋」を築くことができるかがサービスの明暗を分けることになるでしょう。

スーパーアプリ6つの基本原則は、コンシューマーサービスでスーパーアプリ化を目指す企業だけでなく、B2BのコンパウンドSaaSを提供する企業にも通ずる考え方だと感じました。

Z Venture Capitalでは起業家の皆さんが気軽に資金調達や事業の壁打ちできる「オフィスアワー」を開催しています。これを機に、Z Venture Capitalに関心を持って頂けた方は、ぜひご連絡を頂けると嬉しいです。

今回の記事は以下の記事を参照しています。
詳細はこちら↓から見てみてください。

参考:
https://techcrunch.com/2023/04/24/super-com-savings-super-app-fintech/
https://medium.com/super/snapcommerce-raises-85mm-the-future-of-mobile-shopping-db8899cfc732
https://www.travelpayouts.com/blog/the-snaptravel-partner-program/
https://medium.com/super/from-burning-millions-to-profitability-and-back-to-growth-in-60-days-b1702cd2631c

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