朝練って実際どうなんだろう
ハンドボールの科学は毎週金曜日に公開!
院生時代の研究テーマが「ハンドボール選手の投球動作の3次元動作分析とバイオメカニクスを活用した指導法の構築」であったので,主にハンドボールの投げる動きに関しての記事が多くなっていくかと思います!しかし,ハンドボールの科学ですから,幅広い分野の研究を紹介していきたいと考えています.是非,明日の練習に!指導に!活かしてください!
文献情報
タイトル
総説:朝練習のトレーニング効果
著者
岩山海渡
河合美香
鍋倉賢治
伊藤静夫
ジャーナル
ランニング研究 (2015)
結論
OFとDFでの走行距離や運動のパターンも違うし,各ポジションでも違うことが明らかになったので,各ポジションや局面にあったフィジカルトレーニングの重要性が示唆されている!
方法
・起床後,朝食前の時間帯に行われる,主にランニングを主体としたトレーニングを行った研究を対象としてレビュー
わかったこと!
・朝練をする際は,いつもよりもゆっくりと丁寧にウォームアップを行い,深部体温を高める必要がある
・長い距離を走るようなトレーニング(LSDなど)は体温が緩やかに上昇し,主幹的な疲労が比較的に低い朝に行うことは有効である可能性がある.
・コルチゾールなどの分泌を考えると,ハンドボールのような激しい競技は午後に練習するのことの方が望ましいと考えられる
・選手のクロノタイプは把握しておく必要がある
・低グリコーゲン状態でのトレーニングは,有酸素的能力の向上に寄与するが,その後,適切な食事を30分以内に摂取する必要がある(Training low, compete high : トレーニング中のグリコーゲンは低く,試合では満タンに)
・タンパク質を摂取する際には,炭水化物とともに摂取すべきである
・低グリコーゲン状態でのトレーニングは危険が伴うので,比較的強度低く長く続けるトレーニングが進められる
・球技系のトレーニングを実施した研究は見当たらないので,適用する場合には最善の注意を支払う必要がある
<概日リズムの影響>
・日周期と競技成績や運動パフォーマンスの関係について多くの研究が行われており,午前中より午後の方が望ましいというのが今日の一般的な見解である(Atkinsonら 1996:Cappaert. 1999: Drustら 2005:Chtourou 2013).その原因として,深部体温をはじめエネルギー代謝,内分泌機能(テストステロン,コルチゾール),筋神経系機能などの概日リズムの影響があげられる.
・持久的な運動パフォーマンスの実験結果は一様ではないが,Chtourouら(2013)は朝と夕方のパフォーマンスに差がないと報告している.
<プレクーリング>
・Wegmannら(2012)は事前に体温を下げておくことで,同じ運動を実施しても臨界温度に達するまでの時間が延長でき,運動パフォーマンスを向上させると仮定し,実際の競技にも応用し,この方法をプレクーリング法とした.
・60分間全力で自転車エルゴメータをこぐテストを朝(8:30)と夕方(17:30)に行わせ,その応答を比較したReillyら(1995) の研究では,安静時の深部体温(直腸温) は夕方(37.8°C)より朝(37.2°C)の方が 0.6°C低く,朝はプレクーリング状態になっていた ことを報告した.しかし,両条件の最終的な平均パワー出力は変わらなくなり,運動終了時での深部体温差も0.3°Cまで縮小した.
<時間トレーニングの可能性>
・Kunorozvaら(2012)は,遺伝子特性からスポーツ選手のクロノタイプを調べ,持久性スポーツ選手には一般の人に比べて朝型が多いと報告しており,クロノタイプと好みのトレーニング時間帯が結びついていて,朝型の選手は朝のトレーニングを好み,夜型の選手は夕方のトレーニングを好む傾向にあるとも報告している.
・Kunorozvaら(2014)は,朝型の自転車選手20名を対象に自転車運動テストを各時間帯で実施させその応答を比較し,その結果,主観的運動強度(RPE)の値が夕方より朝の方が統計的に有意に低くを示したことを報告している.
<低グリコーゲン状態でのトレーニング>
・持久的競技においてグリコーゲン貯蔵量が多い方が,発揮するパフォーマンスは高くなる(Hulston ら 2010)
・Hansenら(2005)は,脚伸展運動での10週間のトレーニングさせた研究では,10週間のトレーニング後,安静時の筋グリコーゲン量は低グリコーゲン条件の方が高グリコーゲン条件よりも増加しており,低グリコーゲン条件ではCitrate synthase(クエン酸シンターゼ)あるいは3-hydroxyacyl-CoA dehydrogenase(HAD:脂肪の代謝に関わる酵 素)などの酵素活性が高まっていたことを報告した.さらに,パフォーマンステストの結果も,運動持続時間が高グリコーゲン条件と比べて約2倍に増えるなど顕著な向上が見られた.
・Proeyenら(2011)は,20人の男性を対象とした6週間の朝食前後のトレーニングを行わせた群を比較し,運動中の血糖値維持能力やグリコーゲン貯蔵量,HADは朝食前に運動を行った群の方が有意に向上したことを報告している.
・その他の研究でも,同様に低グリコーゲン状態で行う中長期的なトレーニングが「脂肪酸トランスロカーゼ(FAT/ CD36)」「カルニチンパルミトイルトランスフェ ラーゼ-1(CPT-1)」「脱共役たんぱく-3(UCP3) 」,「AMPキナーゼ(AMPK α2)」などを増大させることが報告されている(De Bockら 2005: Anthonyら 2005:Akerstromら 2006).
・Shimadaら(2013)は,同じ条件の運動(50% VO2maxで60分間の自転車運動)を朝食前後に行った場合を比較し,1日に利用される脂肪の総量を比較した結果,朝食前に運動を行った方が朝食後に運動を行うよりも1日の脂肪の利用量が20%近くも多いことを明らかにした.
<グリコーゲン回復>
・Bettsら(2010)のレビューによると,筋グリコーゲン回復率は炭水化物摂取量に比例いるが,タンパク質と同時に摂取したときの方がその回復率が高くなっていることを明らかにした(ただし,一定の実験条件内で当てはまることであるため,炭水化物の摂取量をさらに多くした場合の効果などについてはまだ言及できない)
<タンパク質の回復>
・77%のVO2max強度で90分間運動を行った後,タンパク質だけを摂取した条件と炭水化物を付加した条件で比較したところ,炭水化物+タンパク質を摂取した群は筋原線維の筋グリコーゲンのみ,有意に増加したという報告もある(Breenら 2011).
・運動を終えた後,すぐに炭水化物を摂取することは,しばらく時間を空けて摂取するよりも筋グリコーゲンの回復量が多くなることが報告されいる(Ivyら 1988)
<危険性について>
・グリコーゲン貯蔵量が少ない状態で行う朝練習は,グリコーゲンが十分な状態と比べて高強度のトレーニングを実施するのが困難であるとされいる
(Hulstonら 2010:Yeo. 2008).
・疲労を自覚しながらの運動は注意力が散漫になるため,外傷や障害のリスクが高いと指摘されている(Gleesonら 2004).また,オーバートレーニングに陥りやすいという指摘もある(Brounsら 1986) .
・ グリコーゲン量が少ない状態での運動はグリコーゲン量が十分な状態と比べてリンパ球など免疫細胞の低下が大きいことが報告されている(Petiboisら 2003).
・適度な運動は免疫力を向上させる一方,度が過ぎた激しい運動は免疫力の低下につながることが知られている(Nieman 1994).
これらの分析の意義
恐らく多くのコーチはハンドボールのphysical demand(身体的要求)を肌感で推測し,トレーニング処方をしていることでしょう.でも,その多くは「皆同じ」の一様的なインターバルトレーニングなどに留まっていることが簡単に予想できます.昨今,個別性に配慮したトレーニング処方のニーズが高まりつつありますが,一方で多くの選手を抱えるコーチには厳しい風となっていることでしょう.ですが,今回の研究で明らかになったように,OF/DF両面で,そして各ポジションでも走る距離や求められる身体的要素が変わります.
もうお分かりになっているように,試合中の選手の動きなどからの分析はチームスポーツのレベルの発展において非常に重要であるというのが最近のトレンドです.だからこそ,自分も試合中のシュート動作を分析しました.よりリアルな分析することが,現場と研究の架け橋となりえます.
ハンドボールを徹底的に学び合えるオンラインスクール「kocs(コチ)」では,ハンドボールの投球動作に関する情報としてZOOMでセミナーしたりしてます!!もし,ご興味があれば,Facebookにてご連絡ください!また,公式Instagram,Twitterアカウントもあるので是非フォローを!
それでは!
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